道なき道を走れ! アドベンチャーレーサー・田中陽希さんから学ぶ、困難を楽しむ力


アドベンチャーレースは4人一組の男女混成チームがありとあらゆる自然環境を舞台に、1週間から10日間の決められた日数の中で地図とコンパスだけを便りに約600キロ先のゴールを、様々なアウトドアスポーツを駆使しながら、人力のみで目指す競技。

持ち物は食料や救急道具、テント等のアクティビティに必要な最低限のもののみ。

道無き道を行く、過酷なレースに10年以上挑戦し続けながら、今もなおその魅力に惹かれ続けているアドベンチャーレーサー、田中陽希さんにお話を伺いました。

「成長したい」という思いで始めた挑戦は、苦しくつらかった

 出典  Funmee!!編集部


―― 田中さんがアドベンチャーレースに出会ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。


元々クロスカントリースキーをやっていて、山が好きでした。山は時として、人を強くしてくれるし、優しくしてくれるんです。

大学卒業したタイミングで、何か違うスポーツをやりたいと探していたときに偶然、アドベンチャーレースを知ったんです。世界中の自然を舞台にして繰り広げられるハードなレースなら、もっと自分自身を大きく成長させられると思いました。

 


 提供 人力チャレンジ応援部


―― 困難な道を選んだのですね。

 

アドベンチャーレースはあらゆるアウトドアアクテビティを駆使しなければいけないので、2・3年では絶対ものにできないなと思い、師匠に弟子入りしたときに「10年はやります」と宣言しました。

 

選手として突き詰めて行くためには安定した生活を捨ててトレーニングに取り組まなければいけません。成功する人生ばかり考えていたら、きっと挑戦できませんでした。

 

僕の場合は、家族が「中途半端はダメだけども、お前がやりたいならやってみなさい」と快く受け入れて、支えてくれたので、今までやってこれました。

 


―― 初めて挑んだレースのことは覚えてますか?

 

もちろん覚えています。中国の重慶で行われた3日間の短いレースだったのですが、いくら事前にトレーニングをしたり、知識を頭に叩き込んだりしていても体が覚えていないので、精神的にものすごく追い込まれました。結果、僕が最初に足を痛めてしまって、前方を走る当時のキャプテンの腰と自分の腰をロープで繋いで、車をけん引するように引っ張ってもらいました。初めてのレースでは楽しかった瞬間はほとんどなく、ただただ辛く、苦しかった記憶しかありません。

自分一人では、ゴールできない。チームだからこそ、ゴールできる

 提供 人力チャレンジ応援部


―― そんな苦しい思いをしながら、10年間アドベンチャーレースを続けられるのはなぜでしょう?

 

最も大きな魅力は、挑戦するたびに自分自身を成長させてくれることですね。

アドベンチャーレースではレース中に自然だけでなく、自分や他の人間とも向き合うことになります。

制限時間があるなかでどれだけ効率よくゴールに辿り着くかを考えていくと、おのずと睡眠や食事といった、人間が生活する上では大事なものから削られていきます。

 

そうすると、これまで社会生活を送る上で取り繕ってきたものがどんどんなくなっていくんです。だから、普段一緒にトレーニングしていても、良くも悪くもレース中になってからチームメイトの本性を知ることも少なくありません。

 


―― 精神的に追い込まれていくなかで、どう対処していくのでしょうか。

 

自分の気持ちを理性でちゃんとコントロールできるかがすごく大切になります。理性のコントロールを失うと、カッとなってしまったり、チームという1つの輪から精神的な場所が離れるようになってしまう。そうすると同じチームでありながら責任を他のメンバーに転嫁するようになります。

 

会社員でも同じようなことがきっとありますよね。自分のミスではないけれど、自分のチームの誰かがミスをした時、本来ならみんなでいっしょにその解決策を探っていかないといけないのに、誰かをせめてしまうことが。

 

そうするとミスした人はどんどん追い込まれていって、次に踏み出さなきゃいけない場面でも「またチームのメンバーに迷惑をかけたらどうしよう……」と精神的に守りに入ってしまって、更にパフォーマンスが落ちていってしまいます。この悪循環に陥ると最終的にチームは分裂してしまうんです。


 


 出典  Funmee!!編集部

―― チームが分裂しそうなとき、どのようにまた結束を強めていくのでしょうか?

 

メンバーどうしで声をかけあう際も、相手の立場になって言葉をかけるようにしています。

 

アドベンチャーレースはチームの4人全員でゴールしないと、そもそもゴールだと認められないんです。

 

レース中にチーム内の人間関係が悪くなって、選手が途中で帰国してしまうこともあるのですが、1人でも欠けた時点でリタイアになってしまう。レースは我慢比べにも近いところがあるので、どんなにつらい状況でも4人全員が我慢することができるチームが強いチームなんです。

 


「一瞬」を頑張れない者が、「一生」なんて乗り切れない

 提供 人力チャレンジ応援部


―― 精神的なつらさを乗り越えるために、レース前にはどんなトレーニングをしているんですか?

 

基本的に精神面は実践以外で鍛えることはできません。日々のトレーニングで体を鍛えることはできますが、レースになると体はただの入れ物に過ぎないのでメンタルが常に前を向いていないとどうにもならないんです。だからレース中は、精神的に追い込まれたときにどれだけポジティブに考えることが出来るかが重要になってきます。人間はロボットじゃないので、怪我もするし、ミスもします。そのミスを良い方向に考えられるようにしなければいけません。

 


―― 常にポジティブな思考を持ち続けるコツなどはありますか?


レース中はつらいことの連続です。同じ不安やつらさを共有できる仲間がいると、「一人じゃない」と思えて強くなれますよ。

 

レース中は確かにつらいけど、たった1週間から10日我慢すればいいんだと考えるようにしていますね。一生のうちの10日間って、ほんの一瞬。それが我慢できなくて、一生を乗り切れるのかと自分を鼓舞します。

 

自分の弱さが前に出てしまって、「もう無理」と思った時って、自分のことしか考えられていないんです。チーム全体のことを考えていくと、「最後まで走りきろう」と思えます。




「優勝する!」と自分たちで言い切れるチームが優勝できる

 提供 人力チャレンジ応援部


―― ハードなアドベンチャーレースですが、勝てるチームはどんなチームなのでしょうか?


どんなときでも、優勝を目指しているチームですね。優勝を目指さなければ、いつまでも優勝はできないんですよね。でも、アドベンチャーレースはレース前の不確定要素が多すぎるので、事前に沢山トレーニングをしても、本番で相応のパフォーマンスを発揮できるかといえば、そうとは限らないんですよ。もちろん優勝する可能性が高いチームと低いチームはありますが、どのチームにも優勝する可能性はあるんです。

 

また、「優勝する」と常に意識していないと、トレーニングの取り組み方も甘くなってしまうんだなと、10年やってきて気づきました。矛盾するようですが、優勝するためにはやっぱり基礎的なトレーニングをこれまで以上にしっかりやっていかないといけないんです。目標のレベルを下げると、トレーニングも「これくらいでいいかな?」って中途半端になっちゃうんですね。チームの目標は世界一になることなので、それを達成するためにはどの大会でも常にトップを目指す気持ちでトレーニングに取り組んでいかなければいけないなと思っています。



心の位置を高く持て。自分を成長させてくれるのは、いつだってまわりにいる人たち

 出典  Funmee!!編集部


―― どうしたら、田中さんのような強靭な精神を持つことができるのでしょうか?

 

今まで、チームのメンバーや応援してくれる人たちとコミュニケーションしていく中で、送られる言葉は僕を元気づけてくれるものだけではありませんでした。

 

「どうしてそんなにつらい挑戦をするの?やめちゃえばいいのに」と言われることもあり、最初は「どうしてそんなことを言うんだ」と思っていました。

 

でも、僕に向けられた言葉にはすべてそれぞれの思いが込められているんです。心の位置を高く持つことで、自分に向けられた他人からの言葉をすべて受け止められるようになりました。自分を成長させてくれるのはいつだって、まわりにいる人たちなんです。

 

嫌なことから逃げたり、心地よいほうへばかり流れていくと、逆に人生楽しみきれないかもしれないですね。



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