【僕のサン=サーンスII】#05 オーケストラ団員の素顔/想像以上にハードなんです編


いつの日かの憧れは、またしても迷走を好み……。


名曲『白鳥』を弾きたい一心で突き進む連載企画「僕のサン=サーンス」。


今回は、音大生も憧れるプロのオーケストラ団員の素顔に迫ります。その前編は、華やかそうに見えて実は相当にハードな楽団のリアルな毎日に触れます。どうやら心身ともにタフじゃないとやっていけないみたい。



若手オーケストラ団員によるカルテットのリハに潜入


「音楽でメシを食えるのはひと握り」。これは要するに、「自分の好きなことを職業にするのは極めて困難で、そんな夢を見るくらいなら実直に働け」という一般論的戒めだ。主旨はわかる。でも、どんな道にもプロフェッショナルは存在していて、自分が気ままに始めたチェロにもプロはいて、どうすれば多くの人が困難と決めつける夢を叶えられたのか聞いてみたくなった。そんなわけで……。



『若手オーケストラ団員による室内楽コンサート』のチラシ。黒の衣装は楽団演奏時のものらしい

 提供  ソフィアザール サロン


今回訪れたのは、JR山手線駒込駅から徒歩数分の住宅街に建つ、一軒家を改装したソフィアザール サロン。ここで昨年12月に行われた『若手オーケストラ団員による室内楽コンサート 弦楽カルテットVol.3』に出演した演奏家に話を聞いた。特別な名前を持たないこのカルテットは、コンサート名通りに全員が有名オーケストラの団員で、バイオリンの猶井悠樹さんがN響(NHK交響楽団)所属。もうひとりのバイオリンの大和加奈さんと、ビオラの村田恵子さん、チェロの清水詩織さんはいずれも都響(東京都交響楽団)の団員。リハーサル前に話を聞かせてもらったのは、奇しくも僕の飲み仲間の妹だった村田さんと、チェロの清水さんだ。



団員募集は極めて限定的


話は前後するが、なぜ音楽のプロとしてオーケストラ団員に注目したかというと、以前取材した国立音大の現役チェロ学生が、「安定した音楽生活を送ることができる就職先」として真っ先にオーケストラを挙げ、「でも、夢のまた夢かも」と躊躇しながら語ったからだ。実際のところ、オーケストラ団員になるのはどれほど困難なのだろう。


「あの頃は怖いもの知らずで、もしもう一度オーケストラのオーディションを受けろと言われたら縮み上がる」。これは、村田さんと清水さんが共に振り返る試験の難しさだ。審査に当たるのは団員なので、現在の村田さんはオーディションする側に回っているが、「わずか数分でその人の技量はもちろん、音楽性やキャラを審査するなんて気が気じゃないです」と真顔で話した。



1965年に設立された東京都交響楽団。通称“都響”のステージ。壮観な眺めです

 写真提供  堀田力丸さん


入団の難しさはオーディションだけに留まらない。そもそもオーケストラは恐ろしく狭き門で、清水さんの言葉を借りれば「需要と供給のバランスが整っていない」と嘆くほどに絶対的雇用数が少ない。


ふたりが所属する都響のホームページで紹介されているメンバーを数えたら全91名。他のメジャー楽団もほぼ同様だったのは、オーケストラという演奏形態の必然的条件みたいだ。その上でメンバー募集が行われるのは、基本的に欠員が出たときのみ。一度入団したら定年まで勤め上げるのが常なので、欠員自体が稀。となれば演奏以外の何かが必要になってくるはずで、目の前のふたりの強運ぶりには溜め息をつく他にない。



左が村田恵子さん。右が清水詩織さん。都響入団はともに2010年

 出典  Funmee!!編集部

プロは数日で長大な交響曲を仕上げる!?


「入団して間もなく丸8年になりますが、ここまでの日々は瞬く間に過ぎて行った感じです。とにかく次々に譜面が渡されますからね」。そんな村田さんのセリフに、同じく2010年入団の清水さんも大きく頷いた。


都響では毎年秋に翌年のスケジュール発表があるそうだが、これまたホームページを眺めただけでもその過密ぶりがよくわかる。まず年間29本の団主催公演があり、その他に依頼公演や小中学生に向けた音楽鑑賞教室を実施。2018年3月を例に挙げて1カ月単位の予定を見ても、定期演奏会を含む団の主催公演が5回、依頼公演が4回もある。これじゃいかにせよ楽器を手放すことはできないだろう。


「大きな演奏会だと、開演日の2~3日前から全体リハーサルがあり、当日を含めて約4日間をひとつのセットで回していきます。アマチュアは半年から1年かけて同じ曲に取り組むことができますが、私たちは数日で仕上げなければなりません」と村田さん。そうした演奏漬けの毎日に耐え得るタフさがないとオーケストラでは生き残れないということか。さらに村田さんは、プロの実感をこう話した。「ただし芸術作品を扱っているので、単なるルーティンにしてはいけないんです」



弦楽カルテットが開催されたソフィアザール サロンは、ごく普通の一軒家を改装してコンサートホールにしたもの。週末は様々な演奏会が目白押し

 出典  Funmee!!編集部


そんな彼女たちの話を聞いた率直な感想は、「音楽は趣味でいい」。弱腰発言と受け止められてもかまわない。いかに音楽や楽器が好きでも、そこまでの使命感や責任感を持って向き合えるかと言えば、両手を挙げて無理と答えざるを得ない。元から音楽の素養が乏しいのだから心配する必要もないのだけど。あるいは音大の現役学生が「夢のまた夢」と口ごもったのも、オーケストラ団員のリアルなハードさを知っていたからだろうか。


次回は、どうすればオーケストラを続けることができるのか。さらに、どんな音楽的系譜をたどればオーケストラ団員になれるのかにフォーカスする。



メンバーそれぞれ多忙なので、最終調整を含めたリハーサルは2時間の長丁場に及んだ。それだけでもタフ……

 出典  Funmee!!編集部


【お知らせ】

村田恵子さんが参加しているエピス・クァルテットも出演する『アフィニス アンサンブル セレクション 特別演奏会 ~プロオーケストラ・メンバーによる珠玉の室内楽~』が、2018年2月23日にJTアートホール アフィニスで開催されます。ぜひ!




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撮影協力:ソフィアザール サロン

文:田村十七男(Tonao Tamura)

写真:篠田麦也(Bakuya Shinoda)



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Funmee!!編集部

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