【ポケットの中の博物館】#26 “10円ゲーム”に魅せられて「駄菓子屋ゲーム博物館」を設立!


なぜ人は蒐集するのか。彼らのポケットの中を覗くことで、趣味を人生の中心に据えるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

昭和の少年たちの社交場だった駄菓子屋。その店先に鎮座していたのが10円ゲームだ。駄菓子屋の激減に伴い、減り続けるゲーム機を保存しようとひとりの男が立ち上がった。玉弾き系、パチンコ系、ルーレット系など、駄菓子屋ゲーム機の動態保存を開始した。会社を辞めてまでも「駄菓子屋ゲーム博物館」を始めた価値があると言う蒐集家を紹介する。



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駄菓子屋ゲーム博物館 館長の岸昭仁さん。年に数回入れ替えを行ない、取材時56台が並んでいた。「国盗り合戦」(写真右、1980年頃製造)は岸さんが“三種の神器”と呼ぶ名機。その隣は「ホップ・ステップ・ジャンプ」(1976年製)

駄菓子屋ゲーム博物館 館長の岸昭仁さん。年に数回入れ替えを行ない、取材時56台が並んでいた。「国盗り合戦」(写真右、1980年頃製造)は岸さんが“三種の神器”と呼ぶ名機。その隣は「ホップ・ステップ・ジャンプ」(1976年製)

 出典  Funmee!!編集部


昭和の少年を虜にしたゲームがあった。10円ゲームだ。10円玉を弾いて遊ぶゲーム、パチンコ系、ドライブ系と呼ばれる機種など、駄菓子屋の軒先に並ぶアナログゲームに昭和の少年は夢中になった。

 

「当時人気だった新幹線やアニメキャラクター、スーパーカーが描かれた盤面を見るだけで少年たちは心が踊りました」



’70年代のスーパーカーブームの影響を受けてデビューしたスロットゲーム「スーパーマシン」(1977年製)

’70年代のスーパーカーブームの影響を受けてデビューしたスロットゲーム「スーパーマシン」(1977年製)

 出典  Funmee!!編集部


岸昭仁さんによれば、10円ゲームが登場したのは昭和40年頃。当初パチンコ系が主流だった。ゲーム機がまだ高価だったことから設置場所はゲームコーナーやボウリング場などに限られた。その後安価なものが登場。駄菓子屋やスーパーマーケットなどにも並ぶようになり、人気を得た。

 

ところが昭和50年代中頃、テレビゲームの台頭により、10円ゲームの人気が低迷。駄菓子屋の数とともに10円ゲームも衰退していった。



「スーパーマシン」の盤面中央にはランボルギーニ・カウンタック。周囲にはフェラーリ、ポルシェ、ロータスなどスーパーカーメーカーのロゴが配された

「スーパーマシン」の盤面中央にはランボルギーニ・カウンタック。周囲にはフェラーリ、ポルシェ、ロータスなどスーパーカーメーカーのロゴが配された

 出典  Funmee!!編集部

 

いまや絶滅危惧種となりつつある10円ゲームを保存するだけでなく、遊んでもらおうと岸さんは2009年、「駄菓子屋ゲーム博物館」を板橋区にオープン。駄菓子屋同様、ゲームに勝てば駄菓子などの景品と交換できる。

 

けれど駄菓子屋とは根本的に違うところがある。駄菓子屋がゲーム機をリース会社から借りているのに対し、駄菓子屋ゲーム博物館の遊具はすべて岸さんのコレクションだ。岸さんが駄菓子屋ゲームの三種の神器と呼ぶ「国盗り合戦」、「ピカデリーサーカス」、「新幹線ゲーム」など、岸さんが小学生の頃から集めてきた10円ゲームを56台展示している。

 


「新幹線ゲームⅤ」は、1975年の山陽新幹線全線開通を契機に誕生した秀作。レバーで10円玉を弾き、あたりに入れば景品が貰えた

「新幹線ゲームⅤ」は、1975年の山陽新幹線全線開通を契機に誕生した秀作。レバーで10円玉を弾き、あたりに入れば景品が貰えた

 出典  Funmee!!編集部


岸さんが10円ゲームを初めて入手したのは10歳の時。近くの米屋の軒先に「フットボール」というゲーム機が横倒しになっていた。米屋の主と交渉し、自転車に積んで持ち帰った。2台目は中学生の時、閉店した駄菓子屋のおばちゃんから譲り受けた「ミニパスボール」だった。

 

元駄菓子屋の店頭に放置されたゲーム機を見つけ、勝手口からおばちゃんに声をかけた。親戚に小遣いをせびるならいざしらず、子どもがよく年配の人と交渉できたものだ。好きな女の子に告白するぐらい恥ずかしかったに違いない。

 

「人見知りな少年でした。何度も何度も躊躇し、やっとの思いで話を切り出すことができました」



上から落ちてくるコインをグローブで受け取る「コインキャッチャー」(1981年製)。盤面には誰がどう見ても昭和を代表するあのヒーローをアレンジしたキャラがでかでかと描かれている

上から落ちてくるコインをグローブで受け取る「コインキャッチャー」(1981年製)。盤面には誰がどう見ても昭和を代表するあのヒーローをアレンジしたキャラがでかでかと描かれている

 出典  Funmee!!編集部


高校生になるまでに10円ゲームを5台入手した。ゲーム機を押入れに並べ、夢中で遊んだ。やがて就職。ゲーム機を持っていたこともゲームに入れ込んでいたことも忘れた。時代が平成になり、駄菓子屋が次々と消えていった。押入れに10円ゲームがあったことを思い出し、蒐集を再開。10円ゲームは場所も取るし、当時残そうとする人もいなかった。このままでは捨てられてしまう。

 

「危機感が募り、自転車によるローラー作戦を展開することにしました」

 

自転車にしたのはありそうな場所をじっくりと観察できるから。板橋区を中心に、埼玉まで足を伸ばした。




2006年、板橋区内の5坪の空き店舗で、3カ月限定で駄菓子屋風の店を開業。10円ゲームを20台並べた。家賃を払っても赤字にはならなかった。「定年後にやろう」と考えていた時期もあったが、「いましかない」と決断し、退社。食っていけるのかと同僚が心配してくれたが、「やる価値がある」と信じ、いまの場所に駄菓子屋ゲーム博物館を開設。



博物館内では、かつて駄菓子屋やデパートの屋上でお世話になった懐かしいゲーム機で遊べる

博物館内では、かつて駄菓子屋やデパートの屋上でお世話になった懐かしいゲーム機で遊べる

 出典  Funmee!!編集部

ベルトに描かれた道に沿ってクルマを運転するドライブゲーム「ポルル君の旅行」(1988年製)。駄菓子屋ゲームの定番のひとつで、縦型のほか、横型もあり人気だった

ベルトに描かれた道に沿ってクルマを運転するドライブゲーム「ポルル君の旅行」(1988年製)。駄菓子屋ゲームの定番のひとつで、縦型のほか、横型もあり人気だった

 出典  Funmee!!編集部


店番から駄菓子の仕入れ、ゲーム機の修理も自分でする。駄菓子屋では修理をリース会社に任せていたが、実は駄菓子屋のおばちゃんがしなければならない大切な仕事があった。たとえば人気を誇った「新幹線ゲーム」にはレバーが左右に計6本ある。そのレバーで10円玉を弾き、穴に落とさないように注意しながら10円玉を下のゴールに入れると景品がもらえた。

 

「新幹線ゲームのように技がものをいうゲームは、子どもが腕を上げると景品をごそっと持って行かれました。そのためレバーのバネの強弱を調整して難易度を変えるのは駄菓子屋のおばちゃんの仕事でした」

 


新幹線ゲーム同様にレバーで玉を左右に弾き、アウトの穴に落ちないように注意しながら当りを狙う「世界一周」(1978年製)

新幹線ゲーム同様にレバーで玉を左右に弾き、アウトの穴に落ちないように注意しながら当りを狙う「世界一周」(1978年製)

 出典  Funmee!!編集部

「新幹線ゲーム」のレバーのウラはこうなっている! ガキ大将に景品を持っていかれないよう駄菓子屋のおばちゃんが盤面を開け、レバーの強弱を変えることで子どもの裏をかいていた

「新幹線ゲーム」のレバーのウラはこうなっている! ガキ大将に景品を持っていかれないよう駄菓子屋のおばちゃんが盤面を開け、レバーの強弱を変えることで子どもの裏をかいていた

 出典  Funmee!!編集部


10円ゲームはアナログが基本だが、デジタルが混在する機種もある。とはいえ複雑な機種はほとんどなく、内部はスカスカ。一方、盤面は、アトムそっくりなキャラクターが描かれた「コインキャッチャー」や真っ赤なランボルギーニが蠱惑的な「スーパーマシン」など、カラフルで、心躍るデザインが多い。

 

「アトムもランボルギーニも無断で使っていたはずです。当時人気だった『世界一周』には、ローマや香港など世界の観光名所と飛行機が描かれています。飛行機は図鑑か何かのコピーらしく緻密ですが、それ以外の絵はどれもヘタウマです」



「世界一周」の盤面は緻密な飛行機と、ヘタウマな観光名所のイラストが印象的。ローマのイラスト「狼の乳を吸うロムルスとレムスの像」が子どもに分かるのかなど、ツッコミどころ満載

「世界一周」の盤面は緻密な飛行機と、ヘタウマな観光名所のイラストが印象的。ローマのイラスト「狼の乳を吸うロムルスとレムスの像」が子どもに分かるのかなど、ツッコミどころ満載

 出典  Funmee!!編集部


こうした昭和なデザインに惹かれ、来館する若者も少なくない。近年10円ゲームを蒐集する人も増えており、岸さんは彼らと蒐集品をトレードすることもあるという。

 

「駄菓子屋ゲーム博物館以外にもまだ60台あります。100台置きたいので他所に移るか、大家さんに頼み、ここを拡張してもらおうと考えています」

 

駄菓子屋にいりびたると母に叱られたものだ。でも、いまなら心置きなく10円ゲームを100台制覇できる。岸さんの夢が叶う日が待ち遠しい。



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■プロフィール

岸 昭仁さん

 

レトロゲームコレクター、駄菓子屋ゲーム博物館 館長。会社を辞め、同博物館を開いた。店番から駄菓子の仕入れ、ゲームの修理まですべてひとりでこなす。「年収は下がりましたが、やる価値があると思っているし、もっと早く始めるべきだったと後悔しています」と岸さん。

 

 

駄菓子屋ゲーム博物館

東京都板橋区宮本町17-8

TEL:非公開

開館時間:平日14:00〜19:00 土日祝10:00〜19:00

休館日:火曜、水曜(祝日の場合は営業)

入場料:200円(1歳以上共通。ゲームメダル10枚付き。当日に限り再入場可能)

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)



■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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