【ポケットの中の博物館】#06 VANが伝えたアイビーと風俗を愛し、ノベルティに魅了される


好きなものを蒐集し、動くように整備して、使い愛でる人たちがいる。連載「ポケットの中の博物館」では、彼らの集めた物を通して、趣味に人生をかけるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

'60年代、アイビースタイルを日本で提唱していたブランド「VAN」はさまざまなキャンペーンを展開。同時にアイビーのライフスタイルを紹介するため、カラフルなノベルティを世に送り出した。

 

そんなアメリカの香りが漂うVANとそのノベルティに魅せられた中村 誠さんは、全国のVANショップを歩き回り、宝石のような逸品を蒐集する。その一部をお見せしよう。

 


ノベルティの意匠と質の高さに惚れる

VANのノベルティに囲まれるVANコレクター・中村 誠さん

 出典  Funmee!!編集部


「かつてこれほど遊び心が旺盛で、かつ夢の様な楽しいことをしていた会社はなかったと思います。カッコいい暮らし方を提案するだけでなく、この国に新しい文化を開花させた石津さんの業績は計り知れません」

 

中村 誠さんが語る石津さんとは、元VAN社長の石津謙介氏その人である。'51年大阪にヴァン ヂャケットを設立。その後東京に進出しアイビー旋風を巻き起こした張本人。



2001年2月、四谷の石津邸で撮影した石津氏とのツーショットと、大橋歩が描いた、アイビールックが表紙を飾った雑誌「平凡パンチ」の創刊号

 出典  Funmee!!編集部


さらにいうなら、ボタンダウンシャツや紺のブレザーを紹介したのも、アメカジブームの火付け役も石津氏である。ファッションの神様と呼ばれた石津氏が起こしたVANの、いったいどこが遊び心旺盛で、どんな夢のような楽しいことをしていたのか。中村さんは続ける。

 

「ノベルティのデザインや質の高さがプレゼントの域を越えていました。アメリカ製工具をケースに収めた大工道具セットは、ノベルティの王様だと断言できます。もっとびっくりなのは、エアロスバル一機(軽飛行機)をプレゼントする企画です。雑誌で宣伝したものの、当時100万円を超える商品は公取で認められず企画がボツになり、その代わりに用意されたのがスバル360でした」



アイビーのライフスタイルを提唱したVANは、さまざまなキャンペーンを企画し、アメフトやサーフィンなどカラフルでファッショナブルなノベルティを考案した

 出典  Funmee!!編集部

懸賞用のアメリカ製カーペンターキット。3,000キットに対し、約43万通の応募があったとされ、いまもコレクター間で高値取引がされている

 出典  Funmee!!編集部


VANはクラブ活動が盛んで、会社のロゴ入りのユニホームを着用していた。それだけならよくある話だが、アメリカン・フットボールの実業団チーム、東京ヴァンガーズがハワイ遠征をした際、相手チームにVANのロゴ入り下駄をプレゼントしたというのだ。

 

「アメリカ人に下駄を贈るなんて面白いことをしたと思いませんか?」



石津氏をはじめ、スポーツ好きな社員が多かったことから、社内にアメリカン・フットボールやアイスホッケー、モータースポーツなどのチームがあり、それぞれ意匠を凝らしたチームウエアを愛用していた

 出典  Funmee!!編集部

遊び感覚だからこそ、面白い仕事ができた


中村は高校生のときVANと出会った。'60年代の風俗を調べるため、当時の雑誌をめくっていたら、いろいろな雑誌にVANの広告が掲載されていた。アメリカっぽい匂いが漂う広告に心を奪われたのだ。ファッションブランドに陶酔したのであれば、服に興味が湧くはずだ。けれど、当時中村さんの体重は100㎏オーバー。細身仕様のVANの服を着たくても着れなかった。

 

この頃友人に貰ったVANのキーホルダーがカッコ良かったことから、興味の対象がノベルティに移った。



VANがコカ・コーラとコラボで製品化した缶入Tシャツ。Tシャツという言葉も石津氏の造語だ

 出典  Funmee!!編集部


全国のVANショップを回り、ノベルティを買い漁ることにしたものの、ノベルティは服を買ってくれた人へのプレゼントであり、売り物ではない。仕方がなく、着たくても着られない服も一緒に買うことにした。

 

こうしてVANのノベルティハンターとなった中村さんは、マッチのような小さいものから、サーフボードのような大きなものまでお宝を集めた。またノベルティではないが、VANが商品を運ぶために使っていたコマーシャルカーを自作した。雑誌『メンズクラブ』に載っていた当時の写真を参考に、同じ年式のフォルクスワーゲン・タイプ2をカラーリング。ビルの屋上からもわかるように屋根にもロゴが描かれていたので、それも忠実に再現したのだ。



雑誌「メンズクラブ」に掲載されていた写真を参考に、中村さんが自作したコマーシャルカー

 出典  Funmee!!編集部


'90年代、地元名古屋で石津氏の講演会が開かれ、終了後、握手を求め、中村は石津さんの前に立った。握りしめていたVANグッズに石津氏の目が止まり、控室に呼ばれた。ファッションの神様と知遇を得た中村さんは、講演に秘蔵を展示するなど、石津氏と仕事をする機会に恵まれ、自宅にも呼ばれた。

 

「石津さんと同乗した車が交差点で停まっているとき、こんな話をされました。『ウインカーのコチコチという音が、僕にはラクチンラクチンって聞こえるんだよ』って。この人はピカソやダリのような感性の持ち主なんだなぁと感心させられました」



当時のVANショップを模したスペースに蒐集品を展示。穂積和夫氏が'60年代初頭に描いた通称アイビー坊やのポスターも

 出典  Funmee!!編集部


VANは遊び感覚で仕事をしていたのではないかと中村さんは思っている。体験しながら、いろいろなことを学ぶ学校だった。でなければ着ているだけで気分が良くなる服も、ノベルティに代表される楽しい仕事もできなかったのではないか。

 

社員にとって学校のようだったVANは'78年に倒産。中村さんは青山の社屋に掲げてあった社名板を入手した。



青山にあったVAN社屋に掲げられていた社名板も入手。この世に1枚しか存在しない秘宝だ

 出典  Funmee!!編集部


ある日サインを貰おうと思い、社名板を差し出したところ、石津氏が気難しい顔をした。一度火の消えた会社の社名板にサインをするのは気分が良くないことなのかと中村さんは危惧したが、そうではなかった。

 

「あのとき、『どこにサインをしたらカッコがいいのかなあ』と考えていたそうです。流石は石津さん、凄いなあと感心しました」



VAN専門店としてアイビーファッションを提案するVAN shop NAGOYAの店内にある「VAN COLLECTION MUSEUM」

 出典  Funmee!!編集部


中村さんの蒐集品(一部)は、VANショップNAGOYA内にあるVANコレクション・ミュージアムに展示されている。石津氏が残したアメリカの香りが漂う文化に触れることで、よりアメカジが好きになるはずだ。




■プロフィール

中村 誠さん

VANコレクター。VANと出会った当時、VANの服が着れない体型だったためにノベルティハンターと化した。体重を落とした現在も、VANの服はスイングトップしか着ない。

 

VAN shop NAGOYA

VANのアイテムはもちろん、オーダーメイド服も購入可能。中村さんのコレクションが「VAN COLLECTION MUSEUM」として常設展示されている。

 

愛知県名古屋市千種区末盛通2-23-1フェリス覚王山1-W

TEL:052-751-5800

営業時間:11:00〜20:00

休み:水曜(祝日の場合営業)

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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