音楽
#06 オーケストラ団員の生活/音楽を好きでいられる理由編
【僕のサン=サーンス II】︎

#06 オーケストラ団員の生活/音楽を好きでいられる理由編


いつの日かの憧れは、迷走の果てに感動にたどり着き……。

 

名曲『白鳥』を弾きたい一心で突き進む連載企画「僕のサン=サーンス」。

 

プロのオーケストラ団員の生活に迫る後編は、安定した音楽生活ができるオーケストラに所属しながら個人活動まで行う理由を中心に、彼女たち演奏家の信念を聞きます。結論から言えば、やっぱりオーケストラ団員は優れた芸術家だった――。



「弾けば弾くほど新しい発見がある」


クラシック音楽の奏者なら誰もが一度は夢見るオーケストラ団員。なぜなら、収益のある組織に属することで安定した音楽生活を得られるから。しかし、夢のステージに必須と言うべき狭き門を通過した先では、伝統的な芸術作品を文字通り芸術的に奏で続けるプロの厳しさが待っている。これが前回の要約。

 

そこで僕にはひとつの疑問が浮かび上がる。なぜオーケストラに所属する彼女たち――一軒家を改装した小さなホールの演奏会に参加したビオラの村田恵子さんとチェロの清水詩織さんは、個人的な活動に時間を割くのだろう。聞けばそれぞれ他のグループともつながりがあり、1年を通じて数回のコンサートに臨んでいるという。清水さんに至ってはグループレッスンまで請け負っている。だから首を傾げてしまうのだ。それでなくてもハードなオーケストラの仕事をこなした上で個人の演奏機会を求める理由とは何なのか?



都響のステージ。村田さんは右列の前から3人目。清水さんは村田さんから左に3人目
 写真提供  堀田力丸さん
都響のステージ。村田さんは右列の前から3人目。清水さんは村田さんから左に3人目


「個人活動は表現の引き出しを増やすため」。これは村田さんの考えだ。「学生時代から好きだった室内楽やソロ演奏は、オーケストラでの技術にもつながっていくので、すべてをまんべんなくやらないと上手にならないんです。楽器は子供の頃からやっているけれど、音楽への欲はいまのほうがはるかに強いですね」

 

村田さんの言葉に同調する清水さんはこんなふうに語った。

 

「弾けば弾くほど新しい発見がある。前に演奏した曲でも、改めて弾いてみると常に新鮮な気分になれるんです。村田さんが言ったように確かに年々貪欲になるし、どんどん音楽が好きになっていきます」



「小さな頃からなぜかメロディよりウラ旋律が好きで、体格的にもバイオリンより大きなビオラが合っていた」というのが村田さんのビオラ転向理由。現在は都響のビオラ副首席
 出典  Funmee!!編集部
「小さな頃からなぜかメロディよりウラ旋律が好きで、体格的にもバイオリンより大きなビオラが合っていた」というのが村田さんのビオラ転向理由。現在は都響のビオラ副首席

 

音楽が好きでい続けられるか?


もうひとつの疑問(というよりこれは確認に近いが)は、どんな経歴を持てばオーケストラ団員になれるかだ。村田さんと清水さんの話から確信した最初の関門は、音楽のある家に生まれること。ふたりの両親はともにクラシック好き。村田さんの母親はピアノの先生で、清水さんの父母は趣味でチェロを弾いていた。そうして村田さんは4歳でバイオリンを、清水さんも4歳でピアノを習い始め、すぐにバイオリンを抱えた。7歳でチェロに移ったのは、5歳の誕生日に父からチェロを贈られたのがきっかけだった。



清水さんがチェロを弾き続けられたのは、「初めて女の子を受け持つこともあり、先生がとても優しく褒めてくれたから」だそうな
 出典  Funmee!!編集部
清水さんがチェロを弾き続けられたのは、「初めて女の子を受け持つこともあり、先生がとても優しく褒めてくれたから」だそうな


それにしても、どんな家庭に生まれ落ちるかなんて自分では決められない。そこでもし自分も、とつい考えてしまうが、それは浅はか過ぎる夢想みたいだ。本当の関門は、楽器に飽きず音楽が好きでい続けられるかという、個人の素養そのものに関わってくる。

 

たとえば、清水さんのお父さんが5歳の誕生日にチェロをプレゼントしなかったら? バイオリンをチェロに持ち替えたときの先生が褒めて伸ばす指導をしてくれなかったら? 村田さんの場合なら、小学校高学年にふとしたことから知った盲導犬への興味がバイオリンに勝っていたら? 故郷を離れ東京の音楽高校に通い始めるのと同時にビオラに転向していなかったら? そんなふうに彼女たちの人生を振り返るといくつもの疑問符が浮かび上がり、その時々の選択がすべて現在につながっている。



父から贈られたチェロを弾く7歳の清水さん
 写真提供  清水詩織さん
父から贈られたチェロを弾く7歳の清水さん

 

「楽器を弾いていない自分が想像できなかった」


やがてふたりはそれぞれ音大に進み、村田さんは大学院在学中にオーディションを受けた。清水さんは進学した音大が有するオーケストラアカデミーに2年通っている間に同じくオーディションを受け、共に2010年に都響へ入団した。

 

それがオーケストラに限定されたものでないにせよ、音楽で生きていく未来像を描いたのは、これまたふたりとも10代の前半だった。そのときの獏とした、しかし意志の強さを表す思いも同じ言葉で語られたのである。

 

「楽器を弾いていない自分が想像できなかった」



カルテットは、音楽性や価値観、技術力が共通のメンバーをそろえるのが大変だという。村田さんも清水さんも、それぞれ複数の個人活動を実施中
 出典  Funmee!!編集部
カルテットは、音楽性や価値観、技術力が共通のメンバーをそろえるのが大変だという。村田さんも清水さんも、それぞれ複数の個人活動を実施中


好きであり続けること。これは、これまでに僕が出会った素晴らしいアスリートや音楽家に共通している、もっとも優れた才能だ。とは言え大人になり、生活の基盤を築くにはそれ相応の計算が不可欠になるが、好きであることには純粋なまでに打算がない。どうやらそういう人のもとに運や縁は転がり込むようだ。

 

そして時に僕らは他人の才能を妬むが、では彼らほどひとつの物事が好きでいられたかと言えば、唸りながら腕を組む他にない。音楽で生きていく道はオーケストラ団員がすべてじゃないだろうけれど、それでもやはり彼女たちは音楽に導かれた芸術家だった。語彙の乏しさを嘆きながら言えば、彼女たちの演奏している姿は実にカッコよく、僕が知らなかったクラシックの魅力を教えてくれた。



 出典  Funmee!!編集部


【お知らせ】

清水詩織さんが参加する、10人のチェリストによる『第10回 東京チェロアンサンブル』が2018年3月7日(水)に紀尾井ホールで。さらに村田さんもステージに立つ都響の『第849回 東京都交響楽団 定期演奏会Aシリーズ』が3月20日に東京文化会館でそれぞれ開催されます。ぜひ!   



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撮影協力:ソフィアザール サロン

文:田村十七男(Tonao Tamura)

写真:篠田麦也(Bakuya Shinoda)



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2018年2月9日
Funmee!!編集部
Funmee!!編集部

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