美しく、楽しく、おいしい! フリー編集者・井上綾乃さんがハマった釣りの魅力とは


釣りと言えば男性の趣味というイメージを抱きがちですが、最近はレジャーとして女友達同士で釣りに出かける人や、本気で釣りにハマってしまう女性も増えているのだとか。

フリーランスの編集者である井上綾乃さんも、釣りに魅せられてしまった女性の一人です。釣り好きが高じて、仕事でも釣りの書籍の編集を手がけ、ついには「おさかなマイスター」という資格まで取ってしまったそう。

そんな井上さんに、お金や時間のかけ方から、ファッション、人間関係、世界の見方まで変えてしまうほどの釣りの魅力について、聞きました。

誰かが用意してくれる遊びではない、趣味が欲しかった


―― 釣りといえばおじさんの趣味というイメージが強いんですが、井上さんが釣りにハマったきっかけは?


8年前に会社を辞めて、何か趣味が欲しいなと思っていたときに、たまたま出会った人の趣味が釣りだというので、連れていってもらったのが最初です。そのときは手取り足取り教えてもらって、楽しいな、ぐらいの感じでした。その1週間後にもう1回行ってみようと思って、誰にも言わずに一人で釣りに出かけたんです。


釣った魚を入れる発泡スチロールだけ持って、乗り合いの釣り船に乗って。そしたらしこたま釣れて、なんと竿頭(釣り船に乗り合わせた人の中で一番多く魚を釣った人)になりました。船長にも「2回目とは思えない!」って驚かれたりして。それが釣りにハマった大きなきっかけだと思います。



 提供  井上綾乃さん


―― 2回目で竿頭なんてすごい! そもそも、なぜ釣りだったんですか?


仕事を辞めたのと同時期に、東京から鎌倉の実家に戻ったこともあって、地元には山も海もあるし、アウトドアに出かけていって遊ぼうと思って。当初は、山も海もお金がかからないと思っていたし、海に行けば釣りができるぐらいに思っていたんですよね。

 


―― 確かに、海辺で釣りしてるおじさんたちがたくさんいますし


そうそう(笑)。始めるまでこんな世界だなんて想像もできてなくて。20代のころは仕事ばかりの生活で、数少ない休日の楽しみと言えば、野外フェスに行くとか。でも、例えばスノーボードに行きたいと思っても、彼氏に車を出してもらわないと行くこともできなくて。そうやって、お金を払って用意された遊びに乗っかったり、人任せで遊んだりするのは、何か違うなと思い始めたんです。



魚について無知だったことへの反省から、資格取得へ

 出典  Funmee!!編集部


―― そんな何も知らないところから始まって、あっという間にハマり、「おさかなマイスター」資格も取りたくなってしまった


ええ。不思議に思うかもしれませんが、釣ることがどんどん面白くなってきたあるときに得体の知れない魚を釣ったんです。何だろうと思って、不用意に掴んだらその魚のヒレに毒があって、刺されて手がわっと腫れてしまって……。


あとから調べたら、クエの幼魚だとわかったんですが、幼魚の間だけヒレに毒があることも知り、結構痛かったけど、かえって面白くなってしまいました。それ以外にも、知らない魚を釣り上げる機会が増えて、魚でもウロコがあったりなかったり、似ているのに別種だったりとか、魚についての疑問がいろいろ積み重なっていったんです。

 


―― もともと魚に興味はあったんですか?


特になかったですね。そもそも、それまでは魚を買うこともあまりなかったし、種類も「赤身」「白身」「干物」とか、ざっくりとしかとらえてなくて(笑)。



 出典  Funmee!!編集部


―― 「おさかなマイスター」ってどんな資格なんですか?


おさかなマイスターってカジュアルな名前ですけど、水産物市場改善協会というところが運営している、主に水産業にかかわる人たちが取得する資格なんです。


私はインターネットで検索して知ったんですが、ホームページには講座の受講資格が「水産や調理・飲食に関わる仕事に2年以上従事した人」って書かれていて。でも受けたいなと思って、「仕事で釣りの本を一冊丸ごと編集した経験があるんですが、受けさせてもらえませんか」って交渉しました。



 提供  井上綾乃さん


―― 熱いですね。講座ではどんなことを勉強したんですか?


4カ月間、月に3回築地に通って、魚介類に関する生物学的な知識から、水産業の仕組み、栄養や食品衛生に関して、魚介類を使った料理のことまで、専門的な授業を受けました。授業自体も面白かったんですが、そこに来ている人たちとの出会いも新鮮でしたね。アラスカの海で働いている人や、ベトナムでエビの仕事をしている人、地方から通ってくる人もいて。釣りを始める前の人間関係と言えば、仕事つながりの人と友達ぐらいだったので。



魚を釣って、その命をいただくことで、見えてくるもの


―― 釣りと出会って変わったことは?


一番は、お金の使い道かな。それまでは仕事ばかりの生活だったので、お金を使うところと言えば、美容とファッション。それが釣り道具とか、釣り船の乗船料とか……、釣りに100万は使ってると思います。服もアウトドアウェアが増えて、デザインよりも機能性重視(笑)。



 出典  Funmee!!編集部


―― それは大きな変化ですね。


そうですね。それから、景色を見る視点も変わりました。海を見ると「あそこの岩の間は魚がいそうだな」とか、満月を見ると「今日は大潮だから釣れそうだな」とか……。あるとき、海辺でぼーっと風景を見ていたら、知らないおじさんに突然「釣りをされるんですね」って話しかけられたことがあって(笑)。竿も持っていなかったし、釣りっぽい格好をしていたわけでも何でもないのに、釣り人の目線って釣り人同士だとわかるみたいです。



 出典  Funmee!!編集部

魚って温かいんだと、30年間生きてきて初めて知った


―― 人生観変わった、みたいなところもありますか?


あるかもしれません。生きた魚を釣って殺して食べるという行為を繰り返す中で、命をいただくとはどういうことかとか、世界の魚が暮らす環境の問題とか、それまで自分には関係ないと思っていたことも考えるきっかけになりました。初めのころは、ただアタリがあったときの感覚に興奮して。向こうも生き物だから、竿を通じて魚の必死さが伝わってきて、その駆け引きが面白いと思いました。



 出典  Funmee!!編集部


―― 初めは、何て言うか、無邪気に釣りを楽しんだわけですね。


そう。そして釣り上げてみると、魚は苦しそうにのたうちまわる。それに、生き物だから当たり前なんだけど、魚って温かいんです。それまではスーパーで売っている魚しか知らなかったから、30年間、魚って冷たいものだと思い込んでいた。自分にとって魚は食材でしかなかったのが、実は生き物だったんだってハッとしたんです。だからこそ、ちゃんとおいしく食べてあげなければと思って、魚料理にも興味を持つようになりました。



魚っておしゃれ。その造形や色合いにもハマった


―― 生き物としての魚に初めて接したわけですね。


はい。魚ってすごくきれいだし、面白い形をしているんですよ。例えば、ホウボウは一見赤色なんだけど、ヒレを広げるとそこは青と緑で、すごくおしゃれ。内臓とかも、生き物なのに幾何学的なパターンだったりして、それがきれいでゾワっとします(笑)。アートやデザインにかかわる人とか、刺繍や編み物をする人は、一度見てみたほうがいいと思う。思わぬ色の組み合わせやパターンがあったりして、参考になるんじゃないかな。



 提供  井上綾乃さん


―― 釣りの一番の魅力って、どんなところだと思いますか?


生きている美しい魚を釣り上げて、それを自分で殺して、おいしくいただく。このプロセスを通して、いろいろなことを考えたり学んだりできることです。切り身の食材ではない、丸のままの生きた魚を、もっとみんなに見てもらいたいですね。



【後編】おさかなマイスター・井上綾乃さんの、100%楽しめる「おさかなライフ」


■プロフィール

井上綾乃さん

神奈川県鎌倉市出身。文化学院文学部卒業。マンガ家アシスタント、出版物の紙面DTPオペレーション/デザイン、編集プロダクション勤務を経て、フリーランスの編集者/デザイナーに。8年前に釣りにハマったのをきっかけに、2015年に魚食普及を推進する「おさかなマイスター」の資格を取得。『海釣り完全BOOK』『海のルアー釣り完全BOOK』(ともにメイツ出版刊)など、釣りに関する実用書の企画・制作も手がけている。趣味は物作りと生き物観察、釣りや登山などのアウトドア。 


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企画・編集協力:枻(エイ)出版社

文:山賀沙耶 (Saya Yamaga)

写真:上樂博之 (Hiroyuki Joraku)


 

■注意

※釣りをするときは、必ずライフジャケットを着用し、安全を確保して行いましょう。また、地域や漁港の定めるルールに従いましょう。


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Funmee!!編集部

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