【趣味人ジドウシャ部】#06 シトロエン・2CV(スペック編)


クルマの新旧や機能だけでなく、趣味性の高いクルマ、さまざまな趣味への汎用性が高いクルマを紹介する連載「趣味人ジドウシャ部」。6台目は「シトロエン・2CV」。


ちなみに「2CV」は、英語読みで「ツーシーブイ」と呼んだり、フランス語読みで「ドゥセヴォ」と呼んだりします。


イギリスの(クラシック)MINI、ドイツのフォルクスワーゲン・ビートルなどと並んで、フランスの国民車として長年愛されたクルマですが、前編では、クルマのヒストリーや外観デザインなどについてご紹介します。



ノスタルジックでいて先鋭的なスタイリング

クラシカルな印象を与える、大きく張り出したボンネットとフロントフェンダー

 出典  Funmee!!編集部


このクルマ、じつにユニークなルックスをしています。ヘッドライトが埋め込み式でなかったり、フロントフェンダーが大きくて独立したつくりになっているあたりなどは、戦前のいわゆるビンテージカーのようなノスタルジックなデザインですが、クルマ全体がビンテージカーらしいかというとそうでもなく、どこかアヴァンギャルドなところも感じさせます。



板状のトランクパネルを開けるとこんな感じ。リアウインドウの上からガバッと開くハッチバックタイプもあります。また初期型はこの部分までキャンバスでした。トランクルームのマットの下にはスペアタイヤが収納されています

 出典  Funmee!!編集部


それは、ボディの造形によるところが大きいでしょう。とにかく軽く丈夫にしつつ、室内の容積を稼ぐために、横から見て半円形をしたボディ。それでいてコストダウンのために窓はすべて平面。サイドのドアや後ろの窓から下のトランク部も平面。つくり重視で余計な装飾は一切なく、あまりのいさぎよいデザインにビックリします。


流麗なスタイリングとはほど遠く、呆れるほどシンプルなつくりなのですが、そのいろいろと笑えてしまうところが、逆に憎めないというか、そのままチャームポイントになってしまう不思議なクルマ、それがこの「シトロエン・2CV」なのです。



前席横の窓は、コストのかかる巻き上げ式ではなく、二つ折れ式。開けたときにはこんな状態で固定します

 出典  Funmee!!編集部


シトロエン・2CVがデビューしたのは1948年。しかしその開発が始まったのは、戦前まで遡ります。1935年の夏、シトロエンの副社長ピエール・ブーランジェは、バカンスのため南仏の郊外を訪れました。当時のフランスはまだ都市部以外にはクルマが普及しておらず、農民たちは荷物を運ぶ際に手押し車か、牛馬が引く荷車を使っていました。


これを見たブーランジェは、農村部での移動および輸送手段として、安くて使い勝手のよい小型車が必要なこと、またそこに大きなマーケットがあることを実感し、さっそくシトロエンの技術部に開発を命じました。



“コウモリ傘に4つの車輪を付ける”が開発のコンセプト

横から見ると半円状のキャビン。たしかにコウモリ傘のよう? FFで重量が前に集中していることもあって、人が乗っていない状態では全体的に尻上がりになります。フランス車によく見られる特徴です

 出典  Funmee!!編集部


開発にあたって、ブーランジェが示したコンセプトは、「コウモリ傘に4つの車輪を付ける」というもの。それぐらい手軽に使えるカンタンなクルマということですが、同時に技術陣に対して次のような課題を設定しました。


・50kgのジャガイモor樽を載せて走れること。

・時速60kmで走行できること。

・ガソリン3ℓで100km以上走れること。

・籠一杯の生卵を載せて荒れた農道を走行しても、ひとつの卵も割らずに走れるほど乗り心地がよいこと。

・車両重量は300kg以下であること。

・自動車に詳しくない主婦でも簡単に運転できること。


そして、スタイルについては重視しなくてよい、と。



徹底的に軽量化しつつ、剛性を稼ぐため、ボンネットは膨らみを帯びていて、5本のリブが入っています。また1960年までは波板構造を採用していました

 出典  Funmee!!編集部


このクルマは「Toute Petite Voiture(超小型車)」の頭文字をとった「TPV」と呼ばれ、元航空技術者だったアンドレ・ルフェーブルが開発担当者となりました。のちにシトロエンの傑作「DS」の開発にも携わった人物です。ルフェーブルたちは、ブーランジェの無茶振りと言える課題に取り組み、すべてをクリア、とまではいかなかったものの、理想的な小型車の試作車が完成しました。


ところが1940年、フランスはナチス・ドイツに敗退し、パリを含むフランスの北半分が占領されてしまいました。TPVが敵国の手に渡るのを防ぐため、ブーランジェは試作車の破壊を命じました。戦争で中止となったモーターショー用に250台が製造されていた試作車は、大半がこのときに壊されてしまいました。ただし21世紀になって、破壊を免れた車両が発見されています。


このように波乱に満ちたTPV開発でしたが、戦後になって本格的な開発が再開され、1948年10月7日、TPVは「シトロエン・2CV」として、フランス最大のモーターショー、パリ・サロンでデビューしました。



ボンネットの左右、大きなフロントフェンダーの上にちょこんと鎮座するヘッドライトがなんともユーモラス

 出典  Funmee!!編集部


2CVの奇抜なスタイリングを見て、ジャーナリストたちは「醜いアヒルの子」「乳母車」「ブリキの缶詰」などと酷評しました。いくらスタイルに重きを置いていない設計とはいえ、あまりな言われようです。しかしメディアの評価とは裏腹に、2CVは大ヒットとなりました。そして大きなモデルチェンジをされることなく、1990年までの42年間で387万台以上が製産され、フランスの国民車と呼ばれるまでの存在になりました。


それは、その合理的なつくりによる品質が本物だったからでしょう。もともと見た目で選ぶような用途のクルマではなかったし、乗り始めると使い勝手がよくて手放せない。そして馴染んでしまうと、ちょっとブサイクなところがむしろ愛らしく感じてくる。そうして多くの人々の心をつかんできたのです。



シートもチープなつくりなのですが、意外に座り心地は良好。軽くて取り外しもカンタンにできるので、キャンプなどに行ったときにはベンチとして活用できます

 出典  Funmee!!編集部


■取材・撮影協力

ミヤマエ・オート

1985年創業。フランスやイタリアの小型欧州車を中心に、輸入車全般の車検、整備、販売を行う。旧車を得意としつつ、高年式モデルまで対応できる整備技術と部品供給ルートを持ち、欧州車オーナーにとって“困ったときの駆け込み寺”的存在。


神奈川県川崎市宮前区菅生2-4-7

TEL:044-976-3576

営業時間:10:00〜20:00

休み:日曜、祝日、第2土曜



===

文:和田達彦(Tatsuhiko Wada)

写真:銭田豊裕(Toyohiro Zenita)



最新情報はこちらから フォローやいいね!をして最新情報を受け取ろう

Funmee!!編集部

Funmee!!編集部

TOP