#14 価値観ぶっ飛びの「2017弦楽器フェア」(前編)
音楽
【僕のサン=サーンス】︎

#14 価値観ぶっ飛びの「2017弦楽器フェア」(前編)


いつの日かの憧れがクラシック界の常識に打ちのめされる!?

 

名曲『白鳥』を弾きたい思いだけでダッシュする連載企画『僕のサン=サーンス』。第14~15話は、科学技術館にて60回目を迎えた弦楽器フェアの衝撃を報告します!



あまりに無造作な1,680万円

こちら18世紀につくられた1,680万円。盗まれても気にならないのかな。そんな気軽な値段じゃないよな?
 出典  Funmee!!編集部
こちら18世紀につくられた1,680万円。盗まれても気にならないのかな。そんな気軽な値段じゃないよな?


「文化の日からの3連休で弦楽器フェアがあるみたいよ」。そう教えてくれたのはアキコ先生だった。生徒さんからの情報らしく、ご本人は行ったことがないようだ。いずれにせよ何かしらネタになるだろうとほぼ予備知識なしで向かったら、入り口から10歩で首の骨が折れそうになった。

 

 

「ああ、それ1,680万円。イタリアのアマティをフランスでコピーしたヤツ。1800年代中頃のものだな」

 

「それ」というのが、雑貨が並んだカゴの上に置かれていたバイオリンだ。「それ」が仮に5万円でも、質屋だってもう少し丁寧な扱いをするんじゃないだろうか。

 

「いやいや。これまでには2億円以上のバイオリンを扱ったことがあるからね。このくらいの値段、なんてことないでしょ」

 

名刺にDr.Yoshio SATOとあった御仁はそう言って笑いながら、僕に「それ」を差し出した。バイオリン弾けないし、中古マンション級を触るのも怖いっつうの。1,680万円がなんてことないって、クラシック界ってどんな世界なんだ?



「いいよいいよ、触ってみなよ」とDr.SATO。最初からとんでもない人に会ってしまった
 出典  Funmee!!編集部
「いいよいいよ、触ってみなよ」とDr.SATO。最初からとんでもない人に会ってしまった

 

オールド名器のレンタルシステムが存在するとは……

高額名器がレンタルできるそうです。そんなシステム、知らなかった
 出典  Funmee!!編集部
高額名器がレンタルできるそうです。そんなシステム、知らなかった


広めのブースを確保していた弦楽器専門店シャコンヌで目に留まったのが「For Rent」のプレート。その下には、17世紀から18世紀に製作されたことが示された、いかにも高価なバイオリンが並んでいた。それを貸してくれるということ?

 

「ウチはオールド名器のレンタルシステムを20年ほど前からやっています。入試前の学生さんが2~3カ月ほど借りたり、あるいは海外から来日する演奏家さんがご利用されたり。物によっては月数万円から貸し出しています」

 

へぇ。楽器を借りるという発想がなかったなあ。しかし入試で高級楽器を弾くと受かりやすいんですか?

 

「楽器の力を借りる、という部分は大きいと思います。高価な楽器を手に入れるのは大変ですが、こうしたレンタルシステムがあれば誰でも名器に触れますし、一度個人所有になると世に出てこないケースも多々ありますしね」

 

なるほど。そういう考え方なのか。ちなみにチェロも貸してもらえますか?

 

「ストラディバリの直弟子が18世紀中期につくったものもありますよ。値段をつけたら5,000万円は下らないでしょう。こちらはおよそ月20万円でレンタルできます」

 

僕のサイレントチェロ1本に近い値段だ。このシステムを有り難がる人は多いんだろうけど、僕みたいな門外漢の感覚とは桁違いだな。やっぱりビビるぞ、クラシック界。



弦楽器フェアでは木材も売ってます

バイオリンの縁取りがあるからわかったけれど、そうでなければホームセンターだ
 出典  Funmee!!編集部
バイオリンの縁取りがあるからわかったけれど、そうでなければホームセンターだ


既存の価値観がぐらぐら揺らいで足元がふらつき始めた頃に目撃したのが板売り場。いや、楽器製作の要となる木材を扱うS.V.S TONEWOODSのブース。ギターのフェアには何度か行ったことがあるが、木材までは展示してなかった。

 

「弦楽器フェアの初日は、毎年いい材を求める人で賑わいます。最近はネットでも買えますが、やはり直接ご自分の目で確かめたいんでしょうね」。これは代表の花房達也さんのお言葉。弾く人がいればつくる人もいるんですね。ふ~む。ギターとはあまりに異なる世界観。驚くのに疲れて笑けてきた。



「ウチではリーズナブルなスロバキア製のメイプルを多く扱っています」。いくらか聞くの忘れた
 出典  Funmee!!編集部
「ウチではリーズナブルなスロバキア製のメイプルを多く扱っています」。いくらか聞くの忘れた

サイレントチェロを見つけて一安心

ヤマハの阿部さんです。バイオリン弾きです
 出典  Funmee!!編集部
ヤマハの阿部さんです。バイオリン弾きです


見るものすべてにくらくらしていたら、ヤマハミュージックジャパンの阿部庸二さんと再会した。当企画のスタート段階でいろいろお世話になった方だ。

 

『僕のサン=サーンス』も毎回チェックしてくださるそうで、「『白鳥』の最初の4小節の最後の音、上手く当たったね」と褒めてくれました。動画、見られちゃったか……。サイレントチェロがどう使われていくかにも興味があるとのことなので、そりゃもう頑張っていきます。



「じゃ弾いてみますか?」が400万円オーバー

こちらのブースはチェロの展示が多かったので立ち寄っただけですが……
 出典  Funmee!!編集部
こちらのブースはチェロの展示が多かったので立ち寄っただけですが……


会場内でひとつ悟ったのは、およその楽器は気軽に試奏していいらしいことだ。皆さん値段などお構いなしでじゃんじゃん弾く。だから方々からいろんな旋律が耳に飛び込んでくる。それが耳障りじゃないから不思議だった。

 

「じゃ、弾いてみますか」と言われたのは、グローバル バイオリンセンターのブース。輸入卸が中心なので、フェア以外で取り扱い楽器を披露する機会はまずないそうだ。それはよろしいのだけど、僕はただ何本か並んでいたチェロの価格差の理由を聞きたかっただけなのだ。

 

「今日いちばん高いのは、1978年にイタリアでつくられたグイド・マラヴィリアです。製作年は比較的新しいのですが、以前のオーナーが有名なプロの奏者だったことから価値が高まりました」

 

で、437万5千円。すでにオンボロと化した僕のクルマが新車だった頃の値段とほぼ同じ。「始めてからまだ3カ月なんですけど」という言い訳などに耳を貸さず、スタッフの方は弓を取りに走った。他との違いなんてわかるはずがない。けれどプロが使っていたという間もなく40歳のチェロは、僕の股間で優雅に響いていた……。



解放弦でずい~っと弾いてみた。こんな顔をしていたとは
 出典  Funmee!!編集部
解放弦でずい~っと弾いてみた。こんな顔をしていたとは
誰もが弾きまくりの弦楽器フェア。次回の後編でも驚愕は続く!
 出典  Funmee!!編集部
誰もが弾きまくりの弦楽器フェア。次回の後編でも驚愕は続く!

4/4通常サイズ、初心者にオススメの入門用バイオリンです。

演奏に必要なものや、教則グッズなどを含む入門セットになっています。


■取材・撮影協力

第60回2017弦楽器フェア


日本弦楽器製作者協会が主催するアコースティック弦楽器の国際的な展示会。バイオリンや楽弓、ギターなど多種多様な弦楽器の作り手が日本のみならずイタリアなど世界各地から出展する。また、ホールでは出品された作品でのコンサートも開かれ、楽器初心者から、演奏家までが“観て、聴いて、弾いて”楽しめる。2017年は11月3日~5日の3日間で開催された。



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文:田村十七男(Tonao Tamura)

写真:工藤裕之(Hiroyuki Kudoh)



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2017年11月10日
Funmee!!編集部
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