音楽
#15 価値観ぶっ飛びの2017弦楽器フェア(後編)
僕のサン=サーンス

#15 価値観ぶっ飛びの2017弦楽器フェア(後編)


いつの日かの憧れがクラシック界の“普通”に蹴り飛ばされる!?

 

名曲『白鳥』を弾きたい思いだけで馬車馬となる連載企画『僕のサン=サーンス』。第15話は、前回に弾き続き科学技術館で開催された弦楽器フェアを報告します!



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天才少年なのかもしれない…


「明るい感じの音がする」。そう軽々と言ってのけたは、中央でチェロを弾く相原一誠くん10歳。聞き分けられるんだ。そりゃ、それだけ弾ければねぇ。

 

弦楽器フェアではおよその楽器の試奏が許されている。その驚きは前回報告済み。そんな気軽な試し弾きをする人々の中には子どもも多い、というのが今回のお話。しかも宮地楽器のブースで遭遇した相原くんは、大人用フルサイズのチェロでもお構いなしにス~ラスラと弾いておったのです。



大人用フルサイズを平然と弾いてみせる10歳。言葉を失います
 出典  Funmee!!編集部
大人用フルサイズを平然と弾いてみせる10歳。言葉を失います


宮地楽器のブースは、同店が推薦する弦楽器製作家の作品展示が中心。で、上の写真の右端に立つのが、5名紹介されていた製作家の中でもっとも若い西村祥太郎さん。世界的弦楽器製作の聖地であるイタリアのクレモナに18歳で渡り、彼の地で工房を開いて17年目になるという方です。相原くんが弾いていたのは、その西村さんがつくったチェロ、という構図。



「プロになりたい」。なったら必ず連絡してねと本気でのたまうオトナ
 出典  Funmee!!編集部
「プロになりたい」。なったら必ず連絡してねと本気でのたまうオトナ


「音が好き」。これは、10歳にして6年の演奏経験を持つ相原くんのチェロ観。大人用のチェロでも大丈夫なのかと問えば、「うん、なんか平気」。さらに将来は何になりたいの? と聞くと、わずかに間をおいて「プロの演奏家」とお答えになられた。小学生高学年のチェロを聞くのは始めてだけど、率直な感想は超絶! しかもカメラを向けた途端、それまでの曲よりテンポが速く音数の多い曲に切り替えた時点で、彼はプロ向きだと思った。

 

10年後には世界を席巻するチェリストになっているかもしれない。そのときには今回の取材が幼少期の貴重な記録となって高く売れるかもしれない。なんて皮算用を即座にする自分のいやらしさすら、相原くんが奏でる音色は消し去ってくれた。天才少年なのかもしれない……。



ひまわりbyゴッホ

顕示欲を心地よく刺激してくれる、ひまわりのケース
 出典  Funmee!!編集部
顕示欲を心地よく刺激してくれる、ひまわりのケース


箸休めしたい。洪水のごとき未知の価値観に押し流されて、心からそう思った。そんなわけでこれは、下倉バイオリン社に飾ってあったチェロケース。僕の大好きなゴッホの代表作を大胆にあしらっております。

 

およそ見た目尊重主義なので、大きなチェロケースを担ぎながら電車に乗って、「あの人、クラッシク関係の方かしら?」なんて遠き小声を耳にしたい願望は今でもある。ただ、僕のサイレントチェロは通常のチェロケースには合わない形なので、当分その願いは叶わない。でも、この楽しげなケースのために生チェロを買うのもアリだ。

 

BAGARO&CLEMENTEというブランドの、わずか3.8㎏のフルカーボン製ケース。値段を聞くと目が覚める。税別26万5千円。「国内ではまだ3名しか持っていませんよ」と係の方が笑顔で教えてくれた。ふむ。



ゴールドメダリスト来日!

通訳もスキンヘッドvsロン毛。楽器の取材ですけど何か?
 出典  Funmee!!編集部
通訳もスキンヘッドvsロン毛。楽器の取材ですけど何か?


弦楽器に暗い自分でもその名を知っている業界最大手のクロサワバイロンで会ったのは、ドイツからこのフェアのために来日したアンドレア・ハンセルさん。イタリアのフローレンスで開催された楽器製作コンクールでゴールドメダルを獲得したチェロとバイオリンを携えてお越しになったそうな。特にストラディヴァリ等の高級かつオールドな楽器の音響特性および表面仕上げの再現が得意だという。なるほど。笑顔がフレンドリーでスキンヘッドもクールなので、ここぞとばかりにあれこれたずねてみた。



本物のストラディヴァリはよくわからないけど、ハンセルさんの作品はとても魅力的な仕上がりだった
 出典  Funmee!!編集部
本物のストラディヴァリはよくわからないけど、ハンセルさんの作品はとても魅力的な仕上がりだった


たとえばストラディヴァリ的なチェロをつくるにしても、原形自体は数百年前に完成しているものを新たに製作するモチベーションとは何?

 

「楽器のディテールやトーンがはるか昔に確立している点は感心以外の何物でもありません。しかしストディヴァリを再現するにしても、細部のサイズを微妙に変えることでより響きをよくすることはできる。新作をつくるパッションは決して絶えません」

 

フェアを見渡して気付いたことだけど、弦楽器製作者はチェロもバイオリンもつくるもの?

 

「一般的にはそうですね。ただしチェロはバイオリンの4倍のサイズなので、手間も4倍になります。私は年間12本ほど製作しますが、チェロはそのうち1~2本です」

 

そんなわけで年1~2本しかつくれない上にゴールドメダルを獲得した珠玉のチェロに触らせてもらった。上手に弾けたならドイツのマイスターをもっと笑顔にできたろうなあ。10歳の相原くんを呼んでこようかと本気で思ったなあ。



ちなみにこのチェロは400万円也。価値がわかるスキルを身につけたい
 出典  Funmee!!編集部
ちなみにこのチェロは400万円也。価値がわかるスキルを身につけたい

工房直撃取材をぜひ

いい雰囲気の楽器製作者と彼がつくった150万円のチェロ
 出典  Funmee!!編集部
いい雰囲気の楽器製作者と彼がつくった150万円のチェロ


先の西村祥太郎さんやドイツのハンセルさんのように、楽器製作者と直接言葉を交わせるのもこのフェアの特徴みたいだ。1~2点を大事に展示している個人作家が多い中、神奈川県川崎市に工房を持つ米井伸夫さんのブースを訪ねた。

 

楽器店で長く修理業務に携わった後2年前に独立したのは、やはり自分の楽器をつくりたかったから。ゆえに弦楽器フェアに出展するのも今回で2回目だという。

 

こう言うのは失礼かもしれないけれど、見るからに素朴で朴訥とした職人風情でしょ。そしておそらく、チェロづくりは孤独な作業だろうと思う。その辺じっくり聞きたいので、近いうちに取材させてほしい旨をお伝えしておいた。なので、工房直撃の米井さん特集はしばしお待ちを。ここに至って焦らせるなんて、どんな場所にいようともやっぱりいやらしい大人だ。10歳の相原くん、ごめん。こうなっちゃダメよ。



今回をもって『僕のサン=サーンス』第1シーズン終了です。お稽古するための休養期間をいただき、第2シーズンは2018年1月スタート予定。そんなにパワーアップせず、淡々とお伝えする所存でございます。



ではまた平成30年の金曜日に!
 出典  Funmee!!編集部
ではまた平成30年の金曜日に!

クラシック音楽には必要不可欠な弦楽器"チェロ"。

近年ではロックやポップス等のジャンルにも用いられ、より身近な存在の楽器として人々の耳にその音色を響かせています。

こちらのセットは演奏に必要な物が揃っていますので、チェロの入門者の方に最適なセットとなっています。


■取材・撮影協力

第60回2017弦楽器フェア


日本弦楽器製作者協会が主催するアコースティック弦楽器の国際的な展示会。バイオリンや楽弓、ギターなど多種多様な弦楽器の作り手が日本のみならずイタリアなど世界各地から出展する。また、ホールでは出品された作品でのコンサートも開かれ、楽器初心者から、演奏家までが“観て、聴いて、弾いて”楽しめる。2017年は11月3日~5日の3日間で開催された。



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文:田村十七男(Tonao Tamura)

写真:工藤裕之(Hiroyuki Kudoh)



音楽
2017年11月17日
Funmee!!編集部
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