音楽
いま聴きたい!フリージャズ セレクト10(後編)

いま聴きたい!フリージャズ セレクト10(後編)


前編で紹介した作品を見ればわかるように、最近のフリージャズの世界では何十年も前に自主制作され、実物を見る機会すら少ないレア盤と呼ばれる作品も復刻されるようになってきました。今回、教えてくださったディスクユニオン・三橋高志さん自身も復刻されて初めて「こんな音楽があったんだ!」と喜ぶことも多々あるそう。


さらに、ディスクユニオン・オンラインショップのジャズのジャンルのなかでは、フリージャズが最もアクセスが多いとのこと。そう、この数値からはフリージャズには想像力豊かな音楽の面白さ、探す楽しさがあるということが読み取れます。


では、そんなフリージャズの奥深さを改めて知ったところで、後編の5枚をどうぞ。



Stefano delu『chitarre Solo 1+2』(2011)

哀愁ただよう、どこか寂しげで温かみのあるデザインのCDジャケット
 出典  Funmee!!編集部
哀愁ただよう、どこか寂しげで温かみのあるデザインのCDジャケット


80年代にイタリアのミラノで活動していた音楽家、Stefano deluがリリースした唯一の作品です。オリジナル盤は1983年にリリースされ、こちらはオリジナル盤に同時期に録音されていた未発表音源を追加した2枚組CDになっています。


この作品の他にはマイナーなレーベルのコンピレーションに1曲だけ参加していたりと聴ける音源が少ないのが非常に残念なのですが、"孤高"という言葉がこれほどまで似合う音楽もないのではないかと思えるほど素晴らしい内容です。


おそらくジャケットに写っている改造されたギターによる演奏で、この楽器独特の素朴で温かみのある響きと、透き通るようなパリーンとした響きが、まるで硝子を通してこの人の作り出した世界を眺めているかような、幻想的で夢見心地な風景を抱かせてくれます。


ジャケットの質感や色彩感を音に置き換えたらこうなるのだろうと思わずにはいられない、自分の想像力も掻き立てられる、個人作家ならではのオリジナリティあふれる表現を聴くことができる、そんな稀有な作品と言えるでしょう。



Henry Kaiser『Friends & Heroes: Guitar Duets』(2017)

とにかくメンツが豪華。様々な音楽家を知るにも最適な一枚
 出典  Funmee!!編集部
とにかくメンツが豪華。様々な音楽家を知るにも最適な一枚


1970年代から現在でも活動するアメリカを代表するフリー・ジャズギタリスト、Henry Kaiserが友人や憧れの音楽家とのデュオ演奏を集めた作品です。伝説の音楽家Derek Bailyや、日本在住の才人Jim O'Rourke、Wilcoのギタリストとしても知られるNels Clineや、現代ジャズ最高峰のギタリスト Bill Frisellなど、腰が抜けるほど錚々たる顔触れとの組手が15曲収録されています。


この作品で浮き彫りになるのは、それぞれがそれぞれのアプローチをするなかで、相手との関係性をどのように見出すのかということのように思います。引くのか押すのか、既に鳴った音とこれから鳴る音、相手の音を聴いたうえで自分はどのような音を鳴らすのか……、なんだか恋愛みたいですね(笑)。


共演する音楽家は各人とも芸達者なため、もっと深く聴いてみたい音楽家を知れる一枚にもなっているところも素晴らしいです。小学生が図工の工作に熱中しているような無邪気な好奇心と、個人作家特有の自由な創作意欲が爆発している過去の作品群も同時に必聴です。



Lol Coxhill『Welfare State / Lol Coxhill』(1975)

昔のイギリスの田舎の風土や文化を感じさせてくれるジャケットデザイン
 出典  Funmee!!編集部
昔のイギリスの田舎の風土や文化を感じさせてくれるジャケットデザイン


フリージャズの広い世界のなかでも最も聴いていて童心に戻れるというか、不思議と純粋な気持ちになる音楽家は彼になるのかなと思います。


この作品は活動初期に発表した作品で、顔にペイントをしてパレードさながら街頭を練り歩く様子や藁人形を燃やすお祭りのような場面がジャケットになっていて、地元独特の風土や文化の面白さを感じさせる一枚。


演奏もどんちゃん騒ぎなパレード風な楽曲やイギリスの田舎の風景が浮かぶ美しくも素朴な演奏が収録されています。


まるで田舎にどこにでもありそうな小さな川べりや何てことのない藪で楽器を吹いている様子が浮かんできて、聴いた後には「ま、いろいろ大変かもしれないけど、どうにかなるべ。」と寝そべって昼寝したくなってしまいます(笑)。それにアルバム最後の曲なんて、演奏を聴いて騒ぐちびっ子たちの様子が少しだけ収録してあって、なんだか胸がぎゅっとなってしまう、そんな作品なんです。



Cossi Anatz『Jazz Afro-Occitan』(2017)

シンプルなデザインながらアラビアを感じさせてくれるジャケットが◎
 出典  Funmee!!編集部
シンプルなデザインながらアラビアを感じさせてくれるジャケットが◎


“路上と音楽”、”庶民と音楽”がキーワードとして挙げられるリリースを行った名レーベル、Disques Vendemiaireから1975年に発表したグループ唯一の作品です。


‘60年代ジャズ・テナーサックスの巨人と言われるArchie Sheppとも共演するMichel Marreを中心に、芸達者なメンバーが揃ったグループですが、なかでもモロッコ人パーカッショニストが参加したところに特徴があります。作品全体を覆うアラビア的な独特の旋律と土着的なリズムはこのパーカッショニストの参加が大きかったと思いますし、それに呼応するかのように他のメンバーも後期John Coltraneに似たエネルギーに満ちた演奏を聴かせます。その両者のバランスが見事に融合した胸が熱くなる構成です。しがない旅芸人が路上で演奏しているかのような風景が浮かぶ一幕から怒涛の演奏に流れ込むラストトラックなんて鳥肌もののカッコ良さですよ。


2017年に500枚限定で初めて復刻され、日本国内ではディスクユニオン・オンラインショップとHMVレコードショップのみでの少量販売をした作品でもあります。



Kent Carter『Suspensions』(1978)

ジャケットと音とタイトルの関連性の面白さを感じさせてくれる一枚
 出典  Funmee!!編集部
ジャケットと音とタイトルの関連性の面白さを感じさせてくれる一枚


アメリカのベーシストKent Carterが1978年に発表した作品です。


アルバム全体がモダンな響きと糸を限界まで張ったような緊張感に包まれていて、ふくよかで温かみのあるファットな音色からノイジーで硬質な残響音までをもベースで創り出しています。まるで楽器の可能性や音の響きの面白さを追求しているかのようで、実験的な精神も同時に感じることができる知的好奇心をくすぐります。アルバムA面ではジャズを基本としながらも古典的なクラシックや現代音楽のような響きの探求を、B面では様々な奏法を試すなかで楽器の可能性について探求を行なっているような印象を受けます。


話は変わりますが、例えば絵画を観ていて「なんでこの絵にこのタイトルなんだろう?」なんて思うことありますよね。この作品もタイトルに「Suspensions」と名付けたその意味とは……、と考えるとまた違った音の聴こえ方がしてきますし、いろんな角度から聴いてみると印象が変わるのもフリージャズの面白いところかと思います。




最後にココで紹介したもの全てに共通することを伝えるとしたら、フリージャズの音源にはいままでの音楽の要素や決まりなどから自由になるための意志のようなものが感じ取れる、ということでしょうか。


いつの時代も先進的なものや新しいものはそうだと思いますが、フリージャズが登場した当初もなかなか風当りが強かったようですね。ただ、それも時代が経過した”いま、聴く”からこそ、より深く感じ取れるものなのかもしれません。



お気に入りの一枚を手にディスクユニオンのロゴ前で微笑む三橋さん
 出典  Funmee!!編集部
お気に入りの一枚を手にディスクユニオンのロゴ前で微笑む三橋さん
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■プロフィール

三橋高志さん


以前はコンビニ経営者という異業種にいながらも、ジャズに関する圧倒的な知識とコレクションで、2015年にディスクユニオンにジャズ担当として入社。現在はジャズの魅力を多方面に発信している。趣味のギターは今年で15年目。




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企画・編集協力:枻(エイ)出版社

文・写真:吉田佳央(Yoshio Yoshida)



2018年2月6日
Funmee!!編集部
Funmee!!編集部

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