【ポケットの中の博物館】#15 ブリキのワーゲンが1,500台!愛車はビートルというワーゲンマニア!


なぜ人は蒐集するのか。物欲なのか、独占欲なのか。彼のポケットの中を覗き、趣味を人生の中心に据えるに至った価値観をつまびらかにする連載「ポケットの中の博物館」。

 

第15回目は、フォルクスワーゲン タイプ1(ビートル)にこだわり、ブリキのおもちゃから愛車までビートルという静岡県静岡市の外岡仁さん。ドイツ製や国産のビートルを中心に、タイプ2(ワーゲンバス)やタイプ3など、約1,500台をコレクションし、当時の箱も一緒に持っているものもあれば、量産型とは意匠が異なる試作品も所有している。

 

いまや貴重なビートルのブリキおもちゃのモーターショーも開催するという外岡さんが、蒐集するに至った経緯を取材した。



実在しないモデルもおもちゃで作られていた


フォルクスワーゲン・タイプ1。ビートルの愛称で親しまれてきたこのクルマが、1955年頃から’60年代まで日本国内で生産されていたことはあまり知られていない。バンダイ、野村トーイ、一晃といったおもちゃメーカー各社が、ブリキのビートルを盛んに製造していたのだ。



バンダイ製のビートル・カブリオレ。電池式で走行できる

 出典  Funmee!!編集部

上のビートルは、インパネがきれいに描き込まれ、スピードを2段階調整できるだけでなく、後進も可能

 出典  Funmee!!編集部


「ほぼ同じ頃、ドイツ本国でもブリキのビートルが作られていました。『Made in U.S. - Zone Germany』の刻印が押されたビートルが、アメリカなどに輸出されています」と、外岡さんは語る。



占領下のドイツで製造された銘車のおもちゃ。手前のビートル・カブリオレとほぼ同じボディで、プリントを変えてDKW F9という車に仕立てて販売した。箱にはビートルとDKW F9の絵が描かれ、共通で使われた

 出典  Funmee!!編集部

上のおもちゃの裏面。2台とも「Made in U.S.-Zone Germany」の刻印が刻まれている

 出典  Funmee!!編集部

 

ブリキのビートルの累計生産台数も、世界中にどれだけ現存するのかも詳らかではない。けれど、外岡さんは、いまや世界的に貴重な日本製やドイツ製のビートルを中心に、タイプ3やワーゲンバスなど、ブリキのフォルクスワーゲンを約1,500台も収集している。

 

実車同様、愛らしいビートルもあれば、エンジンルームがスケルトンのビートル、当時ファミリーカーの代名詞だったビートルだけに、幸せそうな家族の横顔が窓に描かれたモデルも作られていた。

 

タイヤこそ回るものの、動かないモデルが主流だった。けれどなかには、はずみ車の回転で走るフリクションを搭載したモデルや、ハンドルリモコンカー(ワイヤーでクルマを操作する)のビートルも子ども達の間で人気があった。



やのまんが作ったハンドルリモコンのパトカー(タイプ3)。前進や前輪を操作するだけでなく、運転席のドアとボンネットが開く構造。運転席にはシフトレバーなどが描かれている

 出典  Funmee!!編集部


量産されることなく、幻で終わったビートルも多かったようだ。

 

「たとえば、この電池式のビートルは吉屋の試作品です。スイッチを入れるとエンジンルームを光らせながら走り回り、時折サンルーフから黒装束のギャングが飛び出し、銃をぶっ放します(笑)」

 

なかには壁などにぶつかると、自動的に方向転換をし、再びクルクルと走り回るミステリーアクションと呼ばれる機構を採用しているモデルもある。



すべて試作品。奥から順にワーゲンバスを改造したカメラカー(1968年、一晃製)。青のビートル(吉屋製)はミステリーアクションを搭載。スイッチを入れると左回りに走り、時折サンルーフが開き、飛び出してきたギャングが銃を打ったかと思うと、再び車内に隠れる。赤のビートル(野村トーイ製?)は、後輪を押さえつけ、その手を離すと走りだす、プッシュゼンマイ機構を内蔵

 出典  Funmee!!編集部


ミステリーアクションもハンドルリモコンも、当時玩具メーカーでは、いろいろなブリキのおもちゃに搭載していた。読者のなかにも、子どもの頃遊んだ覚えがある人がいるかもしれない。

 

試作品とその量産型が現存するポリスカーもある。フロントガラスから飛び出た機関銃を乱射するギミックは試作品も量産型も共通だが、ボディのカラーリングなどを若干変えて市販された。



吉屋では、試作品(右)が1967年に完成した後、配色などを変えたモデル(左)を箱に入れて発売した。スイッチを入れると、助手席のポリスマンが機関銃を打つギミックがユニーク

 出典  Funmee!!編集部


装甲車ならいざ知らず、当時フロントガラスに機関銃を設置したポリスカーが実在したのだろうか。ましてやあの小さいサンルーフから人が飛び出すビートルなど作れるはずもない。「ひとりしか乗っていないのに誰が運転するの?」と思わず突っ込みを入れたくなるが、高度経済成長期の日本では、遊び心あふれるおもちゃが大量に生産されていたのだ。

 

「ブリキのビートルはバリエーションが多く、集めがいがあります。ブリキなので錆びてきますが、それがまたいい味なんですよ。実車も持っていますが、実車も1分の1のブリキのおもちゃ感覚。それがビートルに惹かれる一番の理由です」



野村トーイがシリーズものとして’60年代初頭に発売したと思われるビートル。手前はパトカー、奥は一般車

 出典  Funmee!!編集部

上の2台はシート後部を見るとまったく異なる備品が描かれている。パトカーにはショットガンや救急箱などが装備され、一般車には雑誌「LIFE」とバッグが置かれている

 出典  Funmee!!編集部

カブリオレ型の宇宙船に乗りたい!!


外岡さんは、20歳の頃(1980年)、ブリキのビートルと出会った。デザインの面白さに惹かれ、収集を始めた。その2年後、サーフィンを始めたのがきっかけで実車を購入。「サーフボードが似合う」ことからビートルを選んだ。以来ワーゲンバスも含め、10台ほど乗り継いできた。

 

現在25年前に入手した1966年型と、6年前に購入した1964年型の2台を所有している。実物はガレージに、ブリキのビートルは壁面に設えた専用の収納棚にきれいに並べている。



左は1966年製で右は1964年製。「自分が知らなかった世界を主人に教えてもらっています」と奥様の由紀子さん。外岡さんの蒐集癖を嫌悪するどころか、むしろ歓迎している

 出典  Funmee!!編集部


その収納棚にはカブリオレも飾ってあった。手動で幌が取り外せるタイプもあれば、警察官のフィギュアが座っているポリスカーも発見。インパネや内装が割とリアルに描き込まれたカブリオレもある。しかもシフトレバー操作により、前後進はもちろん、スピードを2段階に調節できるブリキのクルマが、’60年代に開発されていたことに驚かされた。



天井まで届く収納棚に整然と置かれているブリキのビートルたち

 出典  Funmee!!編集部


コレクションのなかでどれに一番乗ってみたいか、外岡さんに尋ねた。

 

「1台だけ選べと言われたら、スペースパトロールですね」

 

外岡さんが選んだスペースパトロールは、宇宙服姿の警察官が乗り込んだ、カブリオレタイプの宇宙船だ。何に使うのか、謎のコイルをバンパーに配している。リアにはロケット噴射口を装着。外岡さんは、フロントガラスのデザインが異なる、新旧2台のスペースパトロールを所有している。共に大阪万博以前の、’60年代中期製と思われる。



スペースパトロールのビートル。後方が1965年頃製造。フロントガラスの意匠がシャープになった手前が、その数年後に登場したモデル。どちらも前後のバンパーに意味不明のコイルが付いている

 出典  Funmee!!編集部


どんな音を発し、どうやって宇宙を走ろう、いや、飛ぼうというのか。「実車があればぜひ乗ってみたい」と外岡さんは満面の笑みを浮かべた。

 

実車のビートルはゾクゾクするぐらい面白いクルマだ。それをモチーフにしたブリキのビートルも、実車に負けず劣らず眺めているだけでワクワクしてくる。それだけにたとえ約1,500台収集していても、まだまだ集め足りないのかもしれない。




■プロフィール

外岡 仁さん

スタジオジン代表。20歳の時から玩具メーカーで働いた後、おもちゃの企画開発を手がけるスタジオジンを設立。ジオラマに使える、昭和の風景を描いたストラクチャーなどを企画している。ヴィンテージミニカーの販売も行う。コレクションの見学には早めの予約を。

 

 

===

文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。

 


最新情報はこちらから フォローやいいね!をして最新情報を受け取ろう

Funmee!!編集部

Funmee!!編集部

TOP