【ポケットの中の博物館】#01 グラス片手に見学できる私設洋酒博物館


なぜ人は蒐集するのか。物欲なのか、独占欲なのか。「貴重な文化を後世に遺すためだ」という人もいる。だから彼らのポケットの中を覗くことで、趣味を人生の中心に据えるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

洋酒会社や輸入代理店が販促用に作ったノベルティやPOP、ミニボトル、記念ボトルなどを10万点蒐集するコレクターがいる。2011年、髙嶋甲子郎さんは、コレクションの一部を展示する博物館を開設。洋酒を飲みながら見学できる私設博物館をご覧頂こう。



マッサンが作ったポットスチルも所有。

かつて映画館だったころの面影を残す「天領日田洋酒博物館」

 出典  Funmee!!編集部


かつて映画館だった館内には、洋酒に関するありとあらゆるものが並んでいた。

 

赤いタキシード姿でお馴染みのジョニー・ウォーカーの巨大な人形。洋酒会社のロゴを模したカラフルなネオンサイン。大小様々なガラスケースの中には、たとえばレミーマルタンのシンボルで知られるケンタウロスのように、その洋酒のキャラクターと一緒にボトルが展示されている。洋酒会社が抱えるデザイナーは優秀な人材が多いのか、灰皿のような小道具をひとつとっても惚れ惚れするぐらいデザインが美しい。



手前はディスプレイ用に作られた大型ボトル。壁に掛かっているのは、洋酒会社のロゴやキャラクターなどが描かれたトレイ

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見飽きることなく鑑賞させてくれる天領日田洋酒博物館を作ったのは、洋酒コレクターの髙嶋甲子郎さん。4年前、大分県日田市内にオープンしたこの洋酒博物館には、10万点の蒐集品のうちの、2万点を展示してある。

 

販促用に作った氷入れやライター、トレイならば、どこかで見たことがある。けれど、バーに飾ってもらうために作ったボトルディスプレイ台やバーミラーと呼ばれるノベルティは、初めてかもしれない。



「これはパブミラーといい、洋酒会社がバーや酒屋に配っていました」と髙嶋さん

 出典  Funmee!!編集部

壽屋(現サントリー)が1907年に発売した赤玉ポートワインやその日本初のヌードポスター、1929年に造った国産ウイスキー第1号の白札、その後発売された角瓶

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そんな館内で一際異彩を放っている展示物がある。重量1tのポットスチルだ。NHK連続テレビ“マッサン”を観たことがある人ならば、ポットスチルがどんなものかおわかりだと思う。モルトウイスキーを蒸留する際に使う、首の長い銅製の道具のことだ。

 

洋酒会社の看板やノベルティなら、その気になれば自分でもすぐに集められそうな気がする。けれど、ポットスチルとなるとそうはいかない。

 

「ニッカウヰスキー日田工場が閉鎖になると知り、工場に足を運んだものの、いつも門前払い。会社の宝なので、工場閉鎖後は余市工場に運ぶという理由で断られました。それでもいつかは工場長と会えるはずだと信じ、コレクションを写したアルバムを持参し、半年間通いました」



写真中央にあるのが重量1tにもなるポットスチルだ

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アルバムを見た工場長が髙嶋さんの蒐集品に驚き、この人ならと思ったのか、役員会にかけあうと約束してくれた。アルバムが功を奏し、1999年頃、お宝を入手した。マッサンこと、竹鶴政孝が2基作ったポットスチルのうちの1基だ。

 

「これがなければ博物館を作る気にはならなかったと思います。個人がポットスチルを所有できたのは、大きな奇跡だといわれました。心底ウイスキーが好きだったので、奇跡が起きたのかもしれません」



いつかウイスキーを造るのが究極の夢


館内にはお宝第1号も展示してある。1796年創業したアメリカのバーボンウイスキー、オールド・グランダッドのポスターである。

 

「子どもの頃西部劇でカウボーイがバーでロックグラスを注文する姿を見て、ウイスキーに憧れていたこともあり、中学1年のとき近所の酒屋に張ってあったこのポスターに一目惚れ。ロゴもデザインもすべてカッコがよかったんですよ」



オールド・グランダッドのポスターが、髙嶋さんが初めて惚れ込んだ洋酒グッズだ

 出典  Funmee!!編集部

オールド・グランダッドの創業者である「偉大なるおじいちゃん」を模した人形ボトルも陳列されている

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アメリカへの憧れ、大人への憧れの象徴がウイスキーだった。むろん酒は買えなかったけれど、このポスターとの出会いが契機となり、以後洋酒に関係するものを蒐集するようになっていった。

 

ウイスキーミュージアムにはバーを併設している。樹齢100年の日田杉のカウンターで、40年前のジョニ黒や戦前の国産ウイスキー、メニューに載っていないものも含め、500種類以上のウイスキーが飲める。ワンショット数万円もする貴重なウイスキーも存在する。

 

この博物館の特筆すべきもうひとつの特徴は、グラス片手に髙嶋さんのコレクションを鑑賞できるところにある。だってそうだろう? 洋酒博物館をシラフで見学するぐらい野暮な話はないではないか。



ノベルティ商品の代表選手ライター。愛用する読者も多いはず

 出典  Funmee!!編集部

世界中のバーで酒飲みがお世話になっているコースター

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「理想とする空間にはまだなっていません。内容をもっと濃くしたいし、酒のテーマパークを兼ねた宿泊施設を作るつもりです。究極の夢はこのポットスチルでウイスキーを造ること。まだ満足なんてしていません」

 

髙嶋さんが平成のマッサンになれるかどうか、我々が末永く見守っていこうではないか。




■プロフィール

髙嶋甲子郎さん

洋酒コレクター。中学生のころから30年以上に渡って洋酒にまつわるアイテムを蒐集し、洋酒グッズを眺めながら洋酒が飲めるミュージアムを開業。

 


天領日田洋酒博物館

大分県日田市本庄町3-4/TEL0973-28-5266

 


ミュージアム

11:00〜17:00/水曜休/入館料(ソフトドリンク付)

高校生以上 500円/小中学生 300円

 


kt,s Museum Bar

20:30〜24:30/チャージ300円(おつまみ付)

日曜休(※翌日が祝日の場合営業)

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:松隈直樹(Naoki Matsukuma)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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