【ポケットの中の博物館】#20 働くクルマのワクワクは永遠!見渡す限り名作建機が並ぶ野外博物館


なぜ人は蒐集するのか。その答えを求め、趣味を人生の中心に据えた人々のポケットの中を覗く連載「ポケットの中の博物館」。

 

黄色、赤、白など、カラフルに塗られた大小さまざまな建機が所狭しと並んでいる。これらは蒐集品ではなく、高度成長期に活躍した名作建機たちが、消えていくのを憂い、買い集めたものだ。

 

建機の歴史を紐解くうえで、貴重な機種も展示する「建機ミュージアム」を紹介する。



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シカム社(フランス)と技術提携した新三菱重工(現三菱重工業)が、1961年(昭和36年)に製造した国産初の油圧ショベル

シカム社(フランス)と技術提携した新三菱重工(現三菱重工業)が、1961年(昭和36年)に製造した国産初の油圧ショベル

 出典  Funmee!!編集部


鹿児島県鹿児島市、桜島を望む高台にダンプトラック、ブルドーザ、バックホーなど、働く自動車が約90台停まっている。が、ここは工事現場ではない。個人が開設した建機ミュージアムだ。

 

新三菱重工(現三菱重工業)がフランスのシカム社と技術提携し、昭和36年に開発した国産初の油圧ショベル。小松製作所が昭和43年にビサイラス・エリー社(アメリカ)の設計で製造したパワーショベルなど、昭和30年代から60年代にかけて活躍した建機が、現役時代と同じ勇姿で展示されているのだ。



1968年(昭和43年)に製造された小松製作所初の油圧ショベル(写真奥)。国産エンジンや油圧機器を搭載。現在、国産油圧ショベルの運転席は左側が基本だが、右側に設置した

1968年(昭和43年)に製造された小松製作所初の油圧ショベル(写真奥)。国産エンジンや油圧機器を搭載。現在、国産油圧ショベルの運転席は左側が基本だが、右側に設置した

 出典  Funmee!!編集部


「戦後、多くの建機メーカーが海外のメーカーと提携し、建機の開発に着手しました。ここには一部寄贈されたものもありますが、中古建機のオークションで落札した、建機の歴史を語る上で貴重な車両が並んでいます」と語るのは、建機ミュージアムの吉丸泰生館長である。

 

蒐集品の多くが屋根の下に保管されているが、野ざらしにされ、サビだらけの建機も多い。しかもすべての展示物にメーカー名、モデル名、製造年代、スペックなどに加え、どんな現場でどんな作業に携わったのか、詳細を記載したプレートが添えてある。



サビだらけのまま保管されている早崎鐵工所のカブトムシ。小さくても力があることから命名されたのだとか

サビだらけのまま保管されている早崎鐵工所のカブトムシ。小さくても力があることから命名されたのだとか

 出典  Funmee!!編集部


大手建機メーカーのモデルが主体だが、早崎鐵工所や岩手富士産業など、あまり馴染みのない建機メーカーの製品も多い。

 

「正確に言うと、早崎鐵工所は建機メーカーではありません。静岡県沼津の会社で、昭和40年代から50年代にかけてカブトムシのブランド名で小型ブルドーザを開発していました」



早崎鐵工所のカブトムシはフロントにカブトムシの絵が付いている。「字が薄れ製造年まで判別できませんが、昭和59年までは使われていたようです」と吉丸さん

早崎鐵工所のカブトムシはフロントにカブトムシの絵が付いている。「字が薄れ製造年まで判別できませんが、昭和59年までは使われていたようです」と吉丸さん

 出典  Funmee!!編集部


高度成長期の先を読んだ社長が建機の開発を命じた。当時大型建機が主流だったが、将来小型機の需要が伸びると踏んだ社長が小型ブルドーザを考案。ところが、建機メーカーでなかったため、販売ルートが限られ、受注が少なかったことから、建機の生産を断念した。

 

岩手富士産業(現イワフジ)は、中島飛行機の技術者が昭和25年に起こした林業機械メーカーだ。昭和32年に文部省の依頼で南極観測用に開発したクローラタイプのトラクターが展示されている。



かつて零戦などを手掛けた中島飛行機の技術者が発足させた岩手富士産業のクローラタイプのトラクター

かつて零戦などを手掛けた中島飛行機の技術者が発足させた岩手富士産業のクローラタイプのトラクター

 出典  Funmee!!編集部


友人に誘われたことをきっかけに、吉丸さんは初めてオークション会場に足を踏み入れた。スクラップ寸前のものもあれば、まだ十分働ける建機もオークションにかけられていた。

 

「バイヤーの大半が外国人でした。発展途上国では、壊れると直せないコンピュータ制御の建機は人気がありません。一方、自国でも修理できるアナログタイプは需要が高く、外国人バイヤーも国内の輸出業者も、アナログの建機を狙っていました」



なかにはタイヤを履いた建機も。広島の油谷重工がフランスのポクレン社と技術提携して生産した国産初のバックホー

なかにはタイヤを履いた建機も。広島の油谷重工がフランスのポクレン社と技術提携して生産した国産初のバックホー

 出典  Funmee!!編集部

ヤンマーや小松製作所など、大小さまざまな建機が並ぶ

ヤンマーや小松製作所など、大小さまざまな建機が並ぶ

 出典  Funmee!!編集部


建機に興味を持ったのは11歳の頃、父國夫が使い始めたダンプトラックやブルドーザの堂々たる姿が影響している。昭和31年頃、地元鹿児島で土木業を営んでいた父が建機を導入したのだ。

 

「休みの日は父の現場についていきました。建機が動き出すと、土地の姿がみるみるうちに変わっていきます。そんな建機がかっこよかったし、見ていてワクワクしました」

 

指をくわえてヒーローを眺めていられるはずもなかった。停車中のダンプトラックの運転席に座り、吉丸少年はハンドルを握った。



日本車両がドイツのメンク社の協力で開発したスクレープドーザ(整地作業車両)。この建機が蒐集品第一号

日本車両がドイツのメンク社の協力で開発したスクレープドーザ(整地作業車両)。この建機が蒐集品第一号

 出典  Funmee!!編集部


初めてオークション会場を見学した時、このままでは子どもの頃のヒーローが日本から消えてしまうのではないか、そんな危機感を抱いた。

 

海外の建機メーカーの中には、歴代の製品をきちんと保存しているところもある。けれど、日本にはそのようなメーカーは少なかった。

 

「戦後日本の礎を築き、高度成長期に活躍した建機が海外へ譲渡されないように、自分で落札することにしました。2年で資金繰りをし、建機を集めることにしたんです」



吉丸さんは小学校の頃から建機のスケールモデルをコレクションしてきた。建機ミュージアム開設後、敷地内に資料室を設け、建機の資料と一緒にスケールモデルも展示している

吉丸さんは小学校の頃から建機のスケールモデルをコレクションしてきた。建機ミュージアム開設後、敷地内に資料室を設け、建機の資料と一緒にスケールモデルも展示している

 出典  Funmee!!編集部


2年半各地で定期的に開かれるオークションに通い、旧い建機を約90台落札した。中古建機は比較的廉価だったし、コレクションを展示する土地の心配もなかった。本業が建設残土処理業だったので、土地はいくらでもあったからだ。が、運送費がネックだった。関東や関西などで開かれるオークションで購入した建機を運搬業者に頼み、大型トレーラーで鹿児島へ運ぶ費用がばかにならなかった。



オークションで落札した建機は大型トレーラーで鹿児島まで陸送。トレーラーはプロが運転する60tクラス。「こうなると、輸送費だけで最低でも50万はかかります」

オークションで落札した建機は大型トレーラーで鹿児島まで陸送。トレーラーはプロが運転する60tクラス。「こうなると、輸送費だけで最低でも50万はかかります」

 出典  Funmee!!編集部


「本当は1分の1スケールの、工事現場のジオラマを作りたかったんですが、あまりにもスペースをとりすぎるので断念しました」

 

2013年10月、建機ミュージアムをオープンした。

 

展示品の中には土木業に携わっている人でも見たことがない建機があるという。廃れたり、進化した建機もあり、どんな作業に使った車両なのか、わからないというのだ。たとえば、バックホーの登場でそれまで活躍していたクローラ式ショベルカーが次第に後退していった。



国内外産のアタッチメント(圧砕機)も蒐集。油圧ショベルに装着して解体時に使われる

国内外産のアタッチメント(圧砕機)も蒐集。油圧ショベルに装着して解体時に使われる

 出典  Funmee!!編集部

圧砕機が登場する以前は、クレーンに吊るした鉄球で建物を壊していた

圧砕機が登場する以前は、クレーンに吊るした鉄球で建物を壊していた

 出典  Funmee!!編集部


これから土木を勉強する人はもちろん、建機研究者にもかつてこの国で活躍した建機を見てもらいたい。たとえ動かなくても見てもらえれば勉強になる、と吉丸さんは力説する。

 

「孫と子どもを連れてきた人がいました。『俺が建機を動かして稼いだ金でお前達家族を育ててきたんだ』、そんな話を祖父がしているのを聞き、ミュージアムを開いてよかったなあと、しみじみ思いました」

 

働く自動車好きも必見である。目を凝らしていると、元気よく動き回る建機の音が聞こえてきそうだ。



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■プロフィール

吉丸泰生さん

 

建機ミュージアム館長。建設残土処理業を営むかたわら、建機ミュージアムを開いた。

 

 

建機ミュージアム

鹿児島県鹿児島市小野町3618

TEL:099-282-5811

開館時間:10時〜15時(要予約)

休み:お盆、台風、豪雨時など

入場料:大人1,000円

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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