ミスターNHKの万年筆ライフ! 地方で出合う思いがけない一本
コレクター

ミスターNHKの万年筆ライフ! 地方で出合う思いがけない一本


ミスターNHKと呼ばれたアナウンサー、宮本隆治さんは、高校生のころから万年筆を愛用。それは大学を卒業し、NHKに入局、転勤と出張で全国を飛びまわる生活のなかでどんどん深化し、万年筆コレクションを増やしていきました。


どのようにして万年筆を探し求め、そしてどのように使い込んでいるのか伺いました。



地方のよろず屋で、思いも寄らない出合いが快感に

高校時代も含め、NHK入局以来、全国各地で買い集めてきた万年筆。舶来品もありますが、津々浦々の個人商店で旅の想い出に買い求めた国産万年筆が多い
 出典  Funmee!!編集部
高校時代も含め、NHK入局以来、全国各地で買い集めてきた万年筆。舶来品もありますが、津々浦々の個人商店で旅の想い出に買い求めた国産万年筆が多い


―― たくさんの万年筆をお持ちだそうですが、どのように集めてきたのですか。

 

NHKで働いていた頃、転勤先や出張先で万年筆を買うことをささやかな愉しみにしていたんです。それこそ、地方の小さな文具店やよろず屋を巡ると、思いも寄らない出合いが多くって。

 


―― よろず屋ですか?

 

地方のよろず屋は、日用雑貨と一緒に万年筆も扱っているケースが多いんです。店主に頼むと、どこからか万年筆を出してきてくれます。


そういう万年筆は、まるで仔犬のように自分を見つめてくるんです。「この万年筆は僕に救いを求めているに違いない、使ってほしいんだ」と思うと、買わずにはいられません(笑)。発売当時の値札が付いたまま何年も、なかには十数年ものあいだ、その店の棚の中で僕を待っていたと思うと……。ともかくそういったデッドストック万年筆を見つけることが密やかな愉しみでした。

 

 

フリーアナウンサー、宮本隆治さん。「万年筆蒐集歴は約半世紀」と笑う
 出典  Funmee!!編集部
フリーアナウンサー、宮本隆治さん。「万年筆蒐集歴は約半世紀」と笑う


―― 職業を逆手にとって有効利用したわけですね。

 

ごく稀にデパートで購入したこともあります。高校の同級生が北九州市のデパートの万年筆売り場で働いていました。昭和53年頃、帰省した折、彼の店でプラチナ万年筆のプレジデントを購入しました。


そんな風に出合った一つひとつに大切な想いが詰まっているし、使うことでまたその想いが深くなる。そうやって愉しんでいるんです。



同級生が勤務していた北九州市小倉のデパートの万年筆売り場で買い求めた「プラチナ プレジデント」。「同級生割引があったと記憶しています」と宮本さん
 出典  Funmee!!編集部
同級生が勤務していた北九州市小倉のデパートの万年筆売り場で買い求めた「プラチナ プレジデント」。「同級生割引があったと記憶しています」と宮本さん

「蒐集家」であることを公言! その背景には……


―― 宮本さんは万年筆蒐集家であることを公言されているそうですね。

 

はい。公言することで、万年筆の縁が広がると教えてくれた人がいたからです。実際、その教えを実践してきたおかげで、いただいた万年筆が何本もあります。たとえば、このプラチナ万年筆は、長野県にある上田女子短期大学の小池明学長と仲良くなり、譲り受けた一本です。




小池明学長からプレゼントされたプラチナ万年筆の「プラチナ 3776」。「高いものではありませんが、書きやすい」と教えられ、小池学長おすすめの、中字を選んでくれたそうです
 出典  Funmee!!編集部
小池明学長からプレゼントされたプラチナ万年筆の「プラチナ 3776」。「高いものではありませんが、書きやすい」と教えられ、小池学長おすすめの、中字を選んでくれたそうです


なにより万年筆好きの仲間が増えるという効果もあります。仕事場でお目にかかった方の手元をふと見ると、万年筆が握られていることがあって、そんなときに「万年筆をお使いですか」と話が弾んで親密度が増したり、万年筆に関する情報を交換することも多いです。

 


―― 共通の趣味によって、コミュニケーションが密になると。

 

万年筆ほどアナログな道具はないと思っています。万年筆を愛用する人は、その人のアナログ度数、人間度数が伺えると信じています。つまり、万年筆という玄関口から、その人の尺度が見えてくる、というのが、僕の持論です。




仕事やプライベートのほか、家族のスケジュールも手帳に万年筆で書き込む。大切なひととき
 出典  Funmee!!編集部
仕事やプライベートのほか、家族のスケジュールも手帳に万年筆で書き込む。大切なひととき

高校1年、「英雄」が万年筆人生を決めた


―― いつ頃から万年筆好きになられたのでしょうか。

 

高校1年のときからです。当時(昭和41年)、中国の「英雄」という万年筆が輸入されました。廉価な英雄は一大ブームとなり、僕の故郷、北九州市の文具店でも品切れでした。欲しくても買えなかった英雄を、万年筆店の息子で高校の同級生が2本も融通してくれました。

 

 

中国製の英雄(当時1本350円)。高校時代、この英雄を自分仕様にチューンナップするため、ペン先を磨き、書きやすい角度に調整したそうです
 出典  Funmee!!編集部
中国製の英雄(当時1本350円)。高校時代、この英雄を自分仕様にチューンナップするため、ペン先を磨き、書きやすい角度に調整したそうです


じつはこの英雄が、僕が小学6年生の頃に父が使っていたアメリカ製のパーカー21にそっくりでした。万年筆は黒が主流の時代、父のパーカーはモスグリーン。見たことのない意匠の万年筆に僕は「早く大人になりたい」と憧れたものです。

 

 

―― 英雄を手にしたことで、その夢を高校1年のときに叶えることができたわけですね。

 

自分の書き癖に合わせて改造した英雄が、その後の人生の節目節目に活躍してくれました。大学受験のエントリーシートも、卒業論文も、履歴書も、英雄で書きました。


そして、ラブレターも。20歳のときに英雄で手紙を書いたおかげで、妻と結婚することができました(笑)。

 

 

宮本流、万年筆ライフの愉しみ方


―― 現在、何本ぐらい万年筆をお持ちなのでしょうか。

 

そうですね、200本ぐらいあるかと思います。これらはいつどこで買ったのか、想い出を愉しむ「控え」と、普段使いの「一軍」とに分類しています。


想い出を愉しむ万年筆は専用ケースに入れて、自分の書斎の押し入れに。一軍はいつでも使えるようペン立てに差して、机の上に置いてあります。



奥が想い出を愉しむ控え。手前のペン立てに差してあるのが一軍。一軍は全部で16本ありました
 出典  Funmee!!編集部
奥が想い出を愉しむ控え。手前のペン立てに差してあるのが一軍。一軍は全部で16本ありました


―― 一軍はすべて使われるのですか。

 

16本ある一軍のなかでもレギュラーは5本です。その5本にはそれぞれ用途があります。たとえば、手紙を書く相手によって太字と中字を使うようにしています。

 

高齢の男性には太字。太くて、幅が広い重量感がある万年筆で書いたほうが、相手に気持ちが伝わるような気がするんです。高齢ではない男性や女性には中字を選びます。

 

 

―― 使い分けるようになった理由があるのでしょうか。

 

万年筆には使う人の人格が現れます。ペン先の太さだけでなく、万年筆ごとに書き味が異なります。それぞれに個性がある万年筆に命を吹き込みためにも、使い分ける必要があります。というか、そうでなければ万年筆を使う意味がありません。自分と一緒に時を重ね、人生を歩んでいく。それが万年筆です。




コレクター

万年筆をはじめとした「書く」道具にフォーカスを当てた季刊誌。最新号では、「万年筆使いの流儀」をテーマに万年筆のユーザーや、修理・調整などを手がけるプロたちのコダワリを集め、より長く心地よい書き味を保つための心得や流儀をまとめています。


■プロフィール

宮本隆治さん


昭和25年、福岡県北九州市生まれ。大学卒業後、昭和48年にNHK入局。「おはようジャーナル」、「NHKのど自慢」など数多くの番組を担当。6年連続で「紅白歌合戦」の総合司会を務める。平成19年、NHKを定年退職。現在、フリーアナウンサーとして活躍中。

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:井原淳一(Junichi Ihara)



2018年7月19日
Funmee!!編集部
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