【ポケットの中の博物館】#03 英国マーシャル社公認のマーシャルサウンドの理想郷


自分の“好き”を蒐集し、公開する人たちがいる。そんな好事家たちのミュージアムへ訪れる連載「ポケットの中の博物館」。

 

19歳でマーシャル・アンプから響くサウンドにしびれた竹谷和彦さんは、マーシャル・アンプを蒐集し、伝説のギタリスト達が使っていた歴代のマーシャル・アンプを“使える状態”で展示するミュージアムを開設。

 

創業者ジム・マーシャルの知遇を得たことで、ここにしかないお宝もあるのだとか。ジム公認の博物館へお連れしよう。



ジミヘンに憧れ、マーシャルを入手


ロジャー・グローヴァー(ディープ・パープルのベーシスト)が使っていたアンプ。ジミ・ヘンドリックス愛用モデルの復刻版など、ロックミュージシャン垂涎の的、マーシャル・アンプを蒐集している御仁がいる。「マーシャル・ミュージアム・ジャパン」の館長、竹谷和彦さんだ。



ディープ・パープルのロジャー・グローヴァーがライブで使用したトランジスタ・ベース・アンプ。「試作品のため、マーシャルにも記録がないそうです」

 出典  Funmee!!編集部


私設博物館だが、マーシャルの創業者ジム・マーシャルが公認したミュージアムが山口県田布施町にある。マーシャルは、ジムが'60年にロンドンに創業したアンプメーカー。ジミ・ヘンドリックス、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトンなど、伝説のアーティストがマーシャルを駆使することで、斬新で個性的なサウンドを創造した。

 

ジミヘンやベックに夢中だった竹谷さんは、16歳のときバンドを始めた。高校最後の文化祭で「ホテルカリフォルニア」を弾くため、国産エレキギターと国産アンプを新調した。ところが、そのトランジスタアンプから響いてきた音は、イーグルスのそれとは似て非なるものだった。愛読していたロック雑誌で、ジミヘンやクラプトンがマーシャルを使っていたことは知っていたが、高校生に手が出るはずもなかった。



エリック・クラプトンがジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ時代に使っていたのと同年代の同じモデル

 出典  Funmee!!編集部


19歳のとき広島の楽器店でセール品のマーシャルと遭遇。24回払いで買ったマーシャル・アンプのボリュームをフルにし、エレキギターをかき鳴らした。その瞬間部屋に雷が落ちたような衝撃が走った。オーバードライブさせたマーシャル・アンプから迫力のあるサウンドが轟きわたり、床が震え、窓が共鳴した。

 

「ジミヘンみたいじゃあ!」

 

初めて奏でたジミヘンばりのサウンドにしびれ、酔いしれ、雄叫びをあげた。と、ほぼ同時に電話が鳴った。怒り狂った近所のおばさんからのクレームの電話だった。

 

その後20歳でジェフ・ベックの博多公演を体感。彼の勇姿に感動を覚えた。ベックを気取り、3段に積み上げたマーシャル・アンプを2セット揃えた。

 

「それで夢が完結するはずでした」と本人はうそぶくのだが、就職し、自由に使える金を得たことでアンプ狂に歯止めがかからなくなった。マーシャルも含め、フェンダーなどのアンプを約80台蒐集した。その大半が、'50年代から'60年代に生産されたヴィンテージアンプと呼ばれる真空管アンプだ。



アンプの中に並ぶ真空管

 出典  Funmee!!編集部

マーシャルの歴史を伝える博物館を開設


30歳の頃転機が訪れた。23数台しか作られなかったマーシャルの「JTM45」を落手したのだ。同機は、リッチー・ブラックモア(ディープ・パープルのギタリスト)やピート・タウンゼント(ザ・フーのギタリスト)を唸らせた銘器だ。



左上、右上、左中段は「JTM45」シリーズ。左上は竹谷さんが初めて入手した「JTM45」。その他は別ブランドのキッチン・マーシャル。数年間しか生産されていないため超レア

 出典  Funmee!!編集部


絶対手に入らないと思っていた機種を獲得できたことで、博物館を開きたいという壮大な夢を抱いた。

 

その頃、ジムに手紙を送った。マーシャル・アンプの歴史はロックの歴史でもあり、その偉業を伝える博物館を開設したい旨を綴った手紙だった。

 

東洋人のファンレターなどふつうは無視するはずである。けれど、ジムは違った。「それは面白い。ぜひやるべきだ」という激励の手紙が届いた。「来年5月東京で開かれる創業30周年のレセプションで会おう」とも書かれていた。

 

ジムとの約束を果たすため、他社のアンプを手放し、マーシャル・アンプの蒐集に勢力を注ぐことにした。



‘12年、柳井にミュージアムを開業した際、ジョナサン・エラリー新社長からプレゼントされた、ジム・マーシャルの顔写真が印刷されたモデル

 出典  Funmee!!編集部


'12年5月、念願叶い山口県柳井市にマーシャル・ミュージアム・ジャパンをオープン。ミュージアムでジムと会えるはずだったが、同年4月88歳で死去していた。創業者の代わりに、新社長のジョナサン・エラリーが来館し、華を添えた。

 

ジムとの再会は叶わなかったものの、来館者へのメッセージを送ってくれた。そのメッセージや、初めて会ったときにもらったサインなどは、'14年にリニューアルオープンした田布施町のマーシャル・ミュージアム・ジャパンに展示している。



ジム・マーシャルから来館者へのメッセージ

 出典  Funmee!!編集部


お世辞にも広い博物館とはいえないが、マーシャルの歴史が凝縮している。マーシャルの魅力や、誰が愛用していたモデルなのか、館長自らが熱く語ってくれるはずだ。

 

そしてミュージアムの脇にロックカフェをオープンする準備を進めている。イーグルスがツアーで使った、マーシャル製ではないアンプケースなどを展示する予定だ。

 

ゆくゆくはミュージアムに隣接する田んぼをつぶし、ライブハウスを兼ねた録音スタジオを建設する青写真も温めている。



マーシャルのサウンドを体感できる防音室(1時間1,000円)。ミュージアム所有のギターを使えるし、ギターの持ち込みも可

 出典  Funmee!!編集部


「マーシャル・アンプが手元にあるので、これを活用しない手はありません。プロがここでレコーディングをしてくれたら、ジムさんもきっと喜んでくれるはずです」

 

マーシャルに心底惚れ込んだ竹谷館長は、マーシャル・アンプ以上にパワフルで、夢の実現に向けて邁進していくはずだ。




■プロフィール

竹谷和彦さん

マーシャル・ミュージアム・ジャパン館長。19歳のころに出会ったマーシャル・アンプから響くサウンドに魅了され、蒐集を始める。2012年5月にオープンしたマーシャル・ミュージアム・ジャパンは、50~60年代に生産されたヴィンテージを中心に数多くの名器がそろう。

 

マーシャル・ミュージアム・ジャパン

山口県熊毛郡田布施町下田布施3152

TEL:0820-52-4618

営業時間:12:00~18:00(※事前に要予約)

休み:水曜・木曜休

入館料:大人1,000円 学生(中学生以上)500円

小学生以下 無料(※いずれも1dayチケット・税込)

 

https://www.facebook.com/marshall.museum.japan

 

 

===

文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:松隈直樹(Naoki Matsukuma)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



最新情報はこちらから フォローやいいね!をして最新情報を受け取ろう

Funmee!!編集部

Funmee!!編集部

TOP