大人こそヤミツキ?立川志らくさんが語る、小津安二郎の映画の世界


映画史に深い爪あとを残した名監督、小津安二郎。今年で没後55年を迎えますが、今でも多くのファンが存在します。


今回は小津の大ファンである、落語家であり、映画評論家でもある立川志らくさんに小津安二郎の魅力や楽しみ方を語ってもらいました。



 出典 ©Mary Evans/amanaimages


「邦画のなかで一番おもしろいと思っているのが、小津安二郎なんです」


今では小津ファンとして知られている志らくさんですが、若い頃は小津の映画を「退屈で、一部の頭がかたい人のための映画」だと思っていたそう。


落語家になって、いろんな映画を観るようになり、熱狂的な小津ファンのお客さんと出会った志らくさん。それまで代表作を数本観ただけだったそうですが、すすめられるがままに『東京物語』や『晩春』を観返してみると、若い頃に観た印象とだいぶ違ったそう。「なんだこれは……。おもしろすぎる!」と感じ、取り憑かれたように、『麦秋』『秋刀魚の味』『彼岸花』など片っ端から観たそうです。



小津安二郎の世界にヤミツキな志らく師匠

小津安二郎の世界にヤミツキな志らく師匠

 出典  Funmee!!編集部


「当時、30歳くらいで世の中の酸いも甘いも少しずつわかってきた。落語の修業も10年やって、小津作品で描かれている親と子の気持ちや日本人の心が理解しつつありました。若いとき、全然おもしろいと思えなかったのに、それからヤミツキになってしまったんです」




志らくさんは小津映画の楽しみ方は落語にも通ずると言います。


「落語って、馬鹿馬鹿しくて笑えるものもあるけれど、人情話で泣けることもある。古典落語の場合は、それぞれの師匠たちのフレーズを何度も聞きたくなる。『文楽師匠のあのフレーズが聞きたい』って思うんですよね。小津の映画も、フレーズがおもしろいんです」


小津の映画といえば、淡々とした棒読み、ローポジションの水平アングルの多用、バストアップの切り替えしなどが注目されがちですが、志らくさんは映画内に登場するフレーズがクセになってしまうそうです。


「笠 智衆が出てきて、『今日も一日長くなりそうだなあ』と棒読みで言う。それを何度も観たくなるんですよね」



小津のカラー作品は6本のみですが、ストーリーの途中で鮮やかな色のヤカンが物言いたげに映し出されます。『彼岸花』では小津が大好きだった赤色のヤカンが、『お早よう』では緑色のヤカンが登場するのです。



出典  松竹


通常の映画であれば、物語の途中でたとえば温泉が映し出されたら、「これから登場人物たちが温泉にいるシーンが始まりますよ」という合図ですが、小津作品に映し出されるヤカンにそのような意味はありません。ですが、なぜかものすごく意味ありげなのです。



出典  松竹


志らくさんは、小津のこの演出について「前に、小津作品でヤカンなどの小物が突然映し出されたときに、何秒間それが映っているのかストップウォッチで調べてみたんです。そしたら、ほとんどが6秒前後だった。私は物言いたげに登場する鮮やかな色のヤカンは、観る者に心地よいリズムを与えて、次の場面につなげていくためのものだと思う。作中に色鮮やかなヤカンが登場したあと、同じ色が場面のどこかにあります。たとえば『お早よう』なら、緑色のヤカンが映し出されたあとに芝生の場面に切り替わるんです」と語ります。



 出典  Funmee!!編集部


志らくさんが若いころに小津作品を鑑賞して、「退屈だ……」と感じたように、若き日に代表作『東京物語』を観て、挫折してしまった人も多いはず。


「映画批評家は、小難しい言葉でこじつけて語ることが多い。だけど、身構えずにもっと素直な気持ちで楽しんでほしい」


志らくさんが中学生のころ、偶然深夜に放送されていた映画があり、それがとてもおもしろく、後に小津の『長屋紳士録』だとわかったそうです。その後、講師を務めていた大正大学で学生たちにこの映画を観てもらったところ、「おもしろかった!」「また観たい!」という感想が多く集まったのだとか。


後編では、志らくさんオススメの小津作品をご紹介します。



■プロフィール

立川志らくさん

1963年生まれ。落語家、映画監督(日本映画監督協会所属)、映画評論家、劇団主宰、TVコメンテーター。寅さん博士、昭和歌謡曲博士の異名も持つ。現在弟子20人をかかえる大所帯。


映画『リュミエール!』(ギャガ)日本版ナレーション 公開中。

『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』(松竹)山田組初参加(2018年5月25日公開)

舞台 主宰の下町ダニーローズ第20回公演は6月公演。


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文:ほかりゆりな(Yurina Hokari)

写真:鳥居健次郎(Kenjiro Torii)



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Funmee!!編集部

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