
#43 アメリカのフライフィッシングに惚れ込んで始めた「バスバグ」作り
使い続けるのには理由がある。愛し続けられるのには想いがある。そんな趣味にまつわるこだわりの“私物”を紹介する「ザ・使い込んでる部」。
今回ご登場いただくのは、フライ(昆虫を模した毛針)でブラックバスを釣るという珍しいスタイルの大田政宏さん。釣りのために移住した香川県での釣り生活と、長年かけて集めた道具の数々、こだわりのバスバグ(バス用のフライ)作りについて聞きました。
一瞬の興奮を求めて、何時間でも待つ
フライでブラックバスを釣るっていうのが、僕の釣りなんです。フライフィッシングはアメリカに古くからある伝統的な釣りスタイル。前後にラインを振ってフライを飛ばすと、魚は虫が落ちてきたように思うんですよね。僕はフローターという浮き輪に入って釣るんですが、4時間水に浮いていて一匹も釣れないこともありますよ。でも、突然バスが喰ってくる。その瞬間が最高なんですよね。

日本ではフライでバス釣りする人は少ないんです。みんなルアーで釣るんですよね。でも、フライを水面で操ったら、バスが口を開けて「ボゴッ」、「バフッ」って喰ってくるのが目の前で見えるんですよ。だからフライで釣るのがおもしろい。
さらに、フライフィッシングは釣りの最中にリールを巻くことはなく、手でたぐり寄せていくので、手に伝わる感覚がダイレクトでいいんですよね。同じバスを釣るのでもいろいろあるけど、いちばん原始的な方法だと思います。動力もないし、シンプル。そういうところがいいんです。

情報がない頃から、手探りで始めた道具作り

ルアーが出る前は、みんなフライで釣ってたんです。まだプラスチックがなかったような時代のアメリカではバスバグが使われていました。とくにシカの毛をタワシ状に巻いて作られたバスバグを「ヘアバグ」と呼んで、広く使われていたそうです。シカの毛は中空になっているから、空気が入っていて浮くんですね。

バスバグを自分で作り始めたのは1992年頃ですね。当時は情報がないから、アメリカの雑誌を参考にしたり、ビデオを購入して勉強したりしたんです。でもヘアバグって形が決まっているから、そんなに凝れないんですよ。その点、発泡ウレタンで作る「ポッパーヘッド」のバスバグは、ヘッドの形状で動きが変わってくる。

パソコンで3Dのデジタルデータを作って、オリジナルの型を削り出し、樹脂を流しこんでボディを作るんです。乾燥させたら色を塗って、コックという雄鶏の羽をつけて。こうして作ったポッパーは、水に入ったとき音が「ポコン」っていうんです。ポッパーヘッドの形状によって、音が変わってくる。そこがおもしろいんです。
これまでたくさんの形を試してきて、やっとひとつに絞りました。普通、ポッパーヘッドは買うものなんです。わざわざ型を作って自作する人はいないでしょうね(笑)。作ったバスバグはハンドメイド展に持って行ったり、欲しいという方へ安価で譲ったりもしています。

釣りは一生かけても足りないくらいおもしろい
釣り好きは小学生のころから。近所にあった通称「たっちゃん池」に自転車で釣りに行っていました。何十回通っても全然釣れなかったのに、ある日釣れたんですよ。そのときの嬉しさといったら! 当時の記憶が鮮明に残っていますね。道具を買うお金も時間もできたいまになって、子どもの頃の夢を追い続けているんだと思います。
釣りには毎週のように行きますよ。20年前、釣りのために東京から香川に移住したんです。それまでも香川にはよく来ていました。すばらしいんですよ、ため池が。その辺のおばちゃんに「東京からこの池に来た」と言うと「こんな池に何しに来たの!?」とびっくりされますが(笑)。でも釣りをする東京の人にとっては、ブラックバスって価値が高いんです。東京から友人が遊びに来て、「うどんBASSツアー」に案内することも多いですよ。

最近、フライでバスを釣る人の集いがあって、大阪から10人くらい香川に来てキャンプしました。30代くらいの若い人も多いですよ。新しく来たメンバーに、バスバグの巻き方を教えたら喜んでくれて。フライフィッシングは敷居が高くて、教えてくれる人がいないとどうすればいいかわからない。キャスティング(投げ方)も巻き方も、奥が深い。でもフライフィッシングを始めたら対象魚が増えるし、趣味性も高いんです。バス釣りのトップウォーターからフライフィッシングに宗旨替えする人も増えています。

僕はフライタックルを使ったバス釣りの楽しさを多くの人に知ってもらいたい。そのためにも釣りの動画を撮って公開したり、自分の作ったフライをネットで販売したり、いろいろやっていきたいです。まずは自作フライを増やしてインターネットで販売するとこからですね。
香川は野池天国で、僕以外にも釣りが好きで移住した人がいるんですよ。自分のペースで釣りに行って、その辺のうどんを食べたりもして、フローターで静かに池に入って釣るのが楽しみなんですよね。自然のなかで釣りができて、幸せなことだよね。
タックルや釣り方からフライパターン、全国の釣り人の遊び方まで、ブラックバスとブルーギルのフライフィッシングを特集。“自由で陽気な解放感”が魅力というバスフライの楽しむコツが満載です。
■プロフィール
大田政宏さん
東京都出身。20年前香川県に移住。フライフィッシングのバス釣りひと筋で、釣りの歴史や道具に詳しい。自身のHPで釣果記録やフライの販売、釣り動画を公開している。
■免責
釣りをするときは、地域や水辺を管理する団体の定めるルールに従い、安全に楽しみましょう。
===
文:山岡可恵(Kae Yamaoka)
写真:仁田慎吾(Shingo Nitta)
