【ポケットの中の博物館】#08 細部に宿る魅力を再現!“男のドールハウス”


なぜ人は蒐集するのか。物欲なのか、独占欲なのか。「貴重な文化を後世に遺すためだ」という人もいる。連載「ポケットの中の博物館」では、彼らのポケットの中を覗くことで、趣味に人生をかけるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

ガレージやロフト、バーといった空間に、油で汚れたツナギ姿の男や、ビールを飲む男がいそうな男の隠れ家的世界をドールハウスで描く人がいる。

 

緻密に計算して作られた家具や小道具を詰め込むことで、リアルな世界を創造し、どこかで見たことがある情景を覗かせてくれる、ミニチュアワークの世界へ案内しよう。



油で汚れた手を想像させてくれる


これまで私はドールハウスを軽視してきたような気がする。なぜなら、リカちゃんハウスのような乙女チックで、可愛らしい作風がドールハウスだと認識していたからだ。

 

ところが、小島隆雄さんの作品を見たとき、ドールハウスは乙女チックな世界だけはないことを知らされた。“自転車店”という作品がある。男の姿はどこにもないのだけれど、汗と油で汚れたツナギ姿の男が、スパナを握った手をせわしそうに動かしている姿を思い浮かべた。



15年前に撮った前田モーターサイクルの写真(右)を元に、物干しハンガーも忠実に再現した“自転車店”。取材した際、軒先で自転車屋の主が読んでいた新聞と丸椅子も製作した

 出典  Funmee!!編集部


「この作品は、近所にあった前田モーターサイクルをモチーフにしています。店舗に味があるこの店をいつかドールハウスで再現したいと思い、外観を写真に撮ってありました」

 

店内を見せてほしいと70代の主に頼んだが、断られた。リアリティを出すため、古い自転車屋を何軒か回り、どんな道具が置いてあるのか、店内がどうなっているのか取材した。外観こそ前田モーターサイクルだが、取材した複数の自転車屋の内観や置いてあった備品を再現している。



手前の柱には7月17日を示す日めくりカレンダーが。取材した自転車屋で見かけた自転車メーカーのポスターが左奥の壁に貼ってある

 出典  Funmee!!編集部


自転車はミニカーのマウンテンバイク4台を解体。その部品の一部を自作したママチャリのフレームに装着した。店内を覗くと、自転車用の鍵が掛かっていたり、壁にポスターが貼ってある。パンク修理の道具が入った工具箱は檜で製作した。その引き出しも、レールを敷いた入口の扉も動くように仕上げてある。



パンク修理に必要な道具が入った檜製の工具箱は、ピンセットで開閉することができる

 出典  Funmee!!編集部


「展示会場でここは動くんですかとよく質問されます。作り始めたばかりの頃は動かすことができず、忸怩たる思いを経験したので、できる限り動かせるように工夫しました」

 

日本の建物をドールハウスで作ったのはこの作品が初めて。それまではニューヨークのホットドッグ屋や、アメリカを描き続けた画家・ノーマン・ロックウェルの世界をイメージした床屋、パリの雑貨屋など、欧米の情景をドールハウスで描いてきた。



ノーマン・ロックウェルの版画「シャッフルトンズ・バーバーショップ」をイメージした“床屋さん”。壁には古い写真や拳銃を飾り、マガジンラックには雑誌「ライフ」や「プレイボーイ」が並んでいる。白いキャビネットの引き出しはすべて開く構造

 出典  Funmee!!編集部

細部まで作り込み、リアリティを探求


絵を描いたり、ものを作るのが好きな少年だった。学生時代まではプラモデルに熱中した。ミニカーやブリキのおもちゃ蒐集歴も長く、コレクションを飾る場所としてドールハウスに興味を覚えた。当初アメリカンカントリーのようなドールハウスを作り始めたが、男の隠れ家やロフトがある空間を描きたいと考えていたことから、現在のスタイルを確立していった。



アメリカの片田舎に佇む木工所を描いた“ウッドランド”。壁などに掛かっている工具は一部既成品もあるが、ボール盤などは手作り

 出典  Funmee!!編集部


店舗設計を生業にしてきたため、店舗の緻密なデザイン画を描いてきた。その経験を生かし、ドールハウスを作る際もイメージ画を手描きするケースが多いという。

 

創作する上で心掛けていることがいくつかある。そのひとつが、その空間にいるはずの人が何かをしているシーンを描くことにある。

 

たとえば、“ガレージ”という作品がある。アメリカの片田舎に佇む自動車修理工場にフォードのピックアップトラックが止まっている。その脇におやつなのか、夕食なのかわからないが、宅配のピザが置かれている。食事の前に汚れた手を洗いに立ったのか、主の姿はない。



黒のピックアップトラックをつや消しスプレーで再塗装し、絵の具などで汚れた質感や雰囲気を醸し出した作品“ガレージ”

 出典  Funmee!!編集部


「クルマは整備工場の主の愛車という設定なので、荷台にはタイヤなどが置かれています。でも、それ以外は見る人がそれぞれストーリーを考えられるように、細部まで作り込み、リアリティを追求しています」

 

そのためにも何度も修理工場に足を運び、撮影した写真を元に作品を仕上げた。けれど、なかなかリアルに表現できない世界があるという。



脚立、オイル缶、ピザ、棚は自作。「映画『スパイダーマン2』の冒頭に登場するピザを思い出し、ピザを置くことにしました」と小島さん

 出典  Funmee!!編集部


“ニューヨークアーティストの部屋”は、壁際にハンガーラックが置かれているが、ハンガーに服が掛かっていない。ドールハウスの定義は12分の1スケールか、それ以下。家や家具などを木や金属などで作れても、そのスケールで服を布や皮でリアルに製作するのは至難の業だというのである。

 

「なので服は作りません。必要なときは服を得意とする人形作家が作ったものを使うしかありません」

 

手を出せない世界があることを認めつつも、自分ならではの世界を表現しようと努めてきた。そういう意味で“ニューヨークアーティストの部屋”は、今までの作品では使ったことがない技法を採用した意欲作といえる。右の壁を左方向に寄せ、奥行きを出す遠近法を取り入れているのである。



“ニューヨークアーティストの部屋”。テーブルやジュータンなどの備品は固定せず、置いてあるだけ。そのため展示会場などで備品をセットする度に置く場所が変わる

 出典  Funmee!!編集部


もうひとつディテールに凝った作風に注目したい。窓際に内蔵した照明で昼の光を表現。夜は天井の照明に切り替えることで室内に陰影を付け、ニューヨークのロフトの夜を演出しているのである。



“ニューヨークアーティストの部屋”、夜のシーン

 出典  Funmee!!編集部


「今後は、“ニューヨークアーティストの部屋”に取り入れたような照明の効果を意識した作品を作っていこうと思っています。LEDライトを間接的に用いるケースもありますが、メインには使いません。フィラメントが燃える、温かみのある光が醸し出す世界を構築したいんです」

 

昭和35年生まれの私としては、「自転車店」のようなどこかで見たことがある懐かしい情景をもっと描いてほしいと願っている。




■プロフィール

小島隆雄さん

ドールハウス作家。店舗設計の仕事をする傍ら、趣味でドールハウスを作り始めた。凝り性なだけにディテールをよりリアルに再現した作品を製作している。2014年8月、『小島隆雄のミニチュアワークの世界』を学研から上梓。ドールハウス教室を主宰。受講希望者はカフェ コピルアックへ。

 

カフェ コピルアック

愛知県名古屋市中区新栄2-37-16

TEL:052-265-5109

営業時間:11:30~17:30(L.O.)

休み:月~木曜(金~日曜のみ営業)

※イベントなどに参加するため、臨時休業することも。小島さんの作品は、小島さんが営む喫茶店の別室に展示してある。




===

文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



最新情報はこちらから フォローやいいね!をして最新情報を受け取ろう

Funmee!!編集部

Funmee!!編集部

TOP