【ポケットの中の博物館】#11 あふれるビートルズ愛とピースフルすぎるベーカリー


人はなぜ収集するのか。なかには「貴重な文化を後世に残すためだ」という人もいる。

 

今回はコレクターなら誰もが憧れる、自己満足の極みともいえるビートルズの館を紹介する。

 

彼のポケットの中を覗くことで、趣味を人生の中心に据えるに至った価値観をつまびらかにしよう。



店内はファン垂涎のお宝であふれんばかり

マドレーヌが並ぶ棚の奥に「ハロー・グッドバイ」を発売した頃(1967年)の写真がさりげなく飾ってある

 出典  Funmee!!編集部


栃木県那須町の森の中にベーカリーが佇んでいる。その入口脇に、ビートルズの名盤「アビー・ロード」のジャケットを模した、巨大な落書きの看板が鎮座していた。

 

「写真だと洒落にならないと思い、画家に書いてもらいました。ジャケットではビートルズの後方にビートルが止まっているのですが、実車を置きたかったので半分に切ったビートルを展示しています」



本間隆さんとペニーレインの看板と、半分に切られたビートル

 出典  Funmee!!編集部


ビートルズコレクターの本間隆さんは、レストランを併設するこのベーカリーをペニーレインと命名した。その広い店内には、ビートルズが来日直後に着たハッピの復刻版や、ジョン・レノン愛用のリッケンバッカー(ギター)の復刻モデルや、生写真などがそこかしに飾ってある。店内のBGMはもちろんビートルズ。



ビートルズにまつわるアイテムがそこかしこに並ぶ店内

 出典  Funmee!!編集部


「毎日ビートルズを聞いていた時代(昭和26年生まれ)なので、飽きるどころか、聞いていると当時のことを思い出し嬉しくなります」

 

高校の頃LPの購入時に貰ったポスターを皮切りに、少しずつコレクションを増やしていった。お宝がある程度の量を超えるとそれが呼び水になり、吸い寄せられるように次から次へと集まってくるのだった。



ガラスケースには来日直後、飛行機から降りてきた際、彼らが着ていたハッピの復刻や、ジョンが一度だけ使ったリッケンバッカーの12弦ギターの復刻モデルなどが所狭しと並んでいる

 出典  Funmee!!編集部


片や、自分の意志とは関係なく収集品に加わるものも少なくない。バスタブもそのひとつだ。ジョン・レノンが「イマジン」を発表した頃住んでいた、お城のような大きな家でオノ・ヨーコと入ったバスタブだ。

 

 

2006年頃、そのバスタブがロンドンでオークションにかけられることになり、知人に入札を薦められたというのだ。「ジョンが使った風呂なんかどうすんの。そこまでオタクじゃないんだから、うちに話をふらないでよ」と不満を覚えたものの、断りきれず入札に参加した。

 

それから数カ月後、巨大な木箱が届いた。直径2mのバスタブだった。



ジョン・レノンがオノ・ヨーコと入ったFRP製のバスタブ(直径2m)は、店舗から離れたガレージに1959年型キャデラックなどの愛車と一緒に置かれていた

 出典  Funmee!!編集部


当時同じ店舗で1960イマジンというペンションを妻の敏子さんと営んでいた。ファン垂涎のお宝とはいえ、余りにも大きすぎてペンションに置くこともできず持て余してしまった。その2年後、現在のベーカリーレストランのスタイルに変更した。けれど、ジョンのバスタブは今も日の目を見ることなく、別の場所に保管している。



お店にお宝を飾るのは自己満足のため


本間さんに質問をしてみた。ビートルズグッズを飾っているのは好きを呼び込むためではないかと尋ねたのだ。

 

「大好きなビートルズを自分が愉しいように飾っているだけ。今思えばペンションをベーカリーに変えたのも成り行きでした(大笑)。実を言うと、これまで人生で計算したことがないんです。ただひとつ言えるとしたら、人生はセンスだということだと思います」



1964年4月にスコットランドのエディンバラで開かれたコンサートのパンフレットの表紙にしたためられた彼らの直筆サイン。メガネも描かれた、右上がジョン・レノンのサインだ

 出典  Funmee!!編集部


ペニーレインはここ那須店を含め、現在4店舗。新店舗をオープンする際は、「飾るのが趣味」な性分でもあるため、長年倉庫に寝かせているアイテムの中から、自分で選んだものを自分の感覚で飾り付けてきた。

 

「不特定多数に喜んでもらえるものなど作れるはずもありません。でも、時にビートルズ世代が来て、『懐かしいなあ』と喜んでもらえると嬉しいし、やったなって思います(笑)」

 

店はオーナーの人柄。その人の趣味が支持されるかどうかで繁盛店になるかどうかが決まる、というのが、本間さんの経営哲学だ。



レジ背面にはジョンが使ったギターの復刻モデルをディスプレイ。中央はギブソンJ-160。左と右は共にエピフォン・カジノ。左は塗装を剥がしたモデル

 出典  Funmee!!編集部


欲しくて手に入れたものが、たまたま貴重なお宝だった例もある。名古屋で売りに出ていた1959年型キャデラックを入手したのだが、後日、その車はビートルズが来日時に乗ったピンクの1959年型キャデラックと同型だったことがわかった。狙って買ったのではなく、引き当ててしまうラッキーボーイでもあるようだ。



1959 年型キャデラック。入手後、ビートルズが来日した当時の雑誌を見て、彼らが乗った、ピンクのキャデラックの同型であることがわかった

 出典  Funmee!!編集部


中学の頃ビートルズと出会い、彼らの音楽に魅了され、虜になった。自分の青春は'60年代のビートルズだと本間さんは豪語する。

 

「若い頃のビートルズは有名になろう、億万長者になろうなんてこれっぽっちも考えず、好きな曲を書いたら当たった。ところが、いつしか音楽がビジネスになってしまったために自由がきかなくなり、解散したような気がします」

 

リパプール出身のやんちゃ坊主が、短い時間だったかもしれないが、人生を計算せず、好きな音楽に没頭した。その結果20世紀のベートーヴェンとして今も燦然と輝いている。そんな彼らに自分の姿を投影し、ビートルズに憧れているのではないか。



「イマジン」発売25周年を記念して1996年にリリースされたゴールドディスクや、1968年発売の「ホワイトアルバム」のポスターがレストランの壁にディスプレイされている

 出典  Funmee!!編集部


本間さんもビートルズのように、やんちゃ坊主なのだろうか。妻の敏子さんに尋ねた。

 

「やんちゃでも少年でもないです。夢がいっぱいある人です」

 

本間さんは、メンバーの中でも特にジョン・レノンを崇拝している。ジョンがオノ・ヨーコと人生を愉しんだように、本間さんもビートルズに囲まれた人生を、敏子さんと一緒に、羨ましいぐらい謳歌している。



パン売り場の天井に近い壁の上に、ジョンの写真とイラストが掛かっている

 出典  Funmee!!編集部


■プロフィール

本間隆さん

ペニーレインを営むイマジン社長。平和を愛したジョン・レノンにちなみ、愛犬のグレートデンはピースとピージェーと名付けた。ペニーレインは、那須店のほか、宇都宮市に2店、つくば市に1店ある。

 

ペニーレイン那須店

栃木県那須郡那須町湯本656-2

TEL:0287-76-1960

営業時間:8:00~20:00(カフェL.O. 19:00/パン販売18:00まで)※冬季は営業時間の変更あり

休み:無休




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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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