【ポケットの中の博物館】#21 総工費5億!? レーサーブラザーズが完成させた「みんなのレース場」


なぜ人は蒐集するのか。その答えを求め、趣味を人生の中心に据えた人々のポケットの中を覗く連載「ポケットの中の博物館」。

 

今回は、カーレースに夢中だったクルマ好きの兄弟が実現した中高生の頃からの夢の舞台へ。

 

1周1,085m、17万平方m(東京ドーム約4個分)のサーキットを建設したのだ。開業当時、JAF公認サーキットでは国内最小だったが、地域に根づいたレース場を目指し採石場跡をサーキットに変身させた、兄の山本雅樹さんと弟の山本克典さんを紹介する。




この連載ではこれまでいろいろな方にご登場いただいたが、これほど大きな宝物に夢中になっている人がいただろうか。なにしろ宝物はサーキットなのである。兄の山本雅樹さんと、弟の山本克典さんのカーレース好きが高じて、コース全長1,085m、東京ドーム約4個分に相当する「幸田サーキットYRP桐山」(以下幸田サーキット)を作ってしまったというのだ。



山本雅樹さん(兄・左)、山本克典さん(弟・右)

山本雅樹さん(兄・左)、山本克典さん(弟・右)

 出典  Funmee!!編集部


幸田サーキットがある場所は、三河湾からほど近い愛知県額田郡幸田町の山の上。父が1966年から採石を始めた跡地を5億円かけてサーキットに変身させた。

 

ミニサーキットながら、JAF(日本自動車連盟)公認の15番目のサーキットとして2003年にオープンした。



幸田サーキットYRP桐山の全景。コントロールタワー(中央上)の正面がスタート地点。17万平方mの敷地は保全区域にするため、新たに取得した山林が半分を占める

幸田サーキットYRP桐山の全景。コントロールタワー(中央上)の正面がスタート地点。17万平方mの敷地は保全区域にするため、新たに取得した山林が半分を占める

 出典  Funmee!!編集部


「JAFにはミニサーキット用の要項がありません。鈴鹿サーキット同様F1マシンが走るための設備が要求されました」(山本雅樹さん)

 

当時大きいサーキット以外は原っぱを造成し、アスファルト舗装を施したコースに、掘っ立て小屋を作った程度のサーキットが大半だった。JAF公認を取得するため、1周わずか1kmのミニサーキットにも関わらず、F1規格のガードレールを整備するなど厳しい安全基準を満たした設備を完成させた。



サーキットの隣ではいまも別会社が採石を続けている。このようにむき出しになった山の斜面に常緑樹を約4,000本植林し、サーキットを作った

サーキットの隣ではいまも別会社が採石を続けている。このようにむき出しになった山の斜面に常緑樹を約4,000本植林し、サーキットを作った

 出典  Funmee!!編集部

 

当時公認コースとしては最短だったが、音響設備では全国屈指だったと弟の山本克典さんは胸を張る。

 

「自分は1990年から鈴鹿サーキットで実況中継のMCをしています。その経験を活かし、音響設備にも力を入れました。表彰式を盛り上げるため、オリジナルで楽曲を作るなどエンターテイメントにも自信があります」

 


コントロールタワー。1階には事務所やピット、2階には観覧デッキやロイヤルボックス、3階にはブリーフィングルーム、レース管制室の他、放送室がある

コントロールタワー。1階には事務所やピット、2階には観覧デッキやロイヤルボックス、3階にはブリーフィングルーム、レース管制室の他、放送室がある

 出典  Funmee!!編集部

ミキサーやスピーカーなど設備が充実した放送室。表彰式に流すファンファーレのBGMを専門家に作ってもらうなど、放送室のハードはもちろんソフトも充実させた

ミキサーやスピーカーなど設備が充実した放送室。表彰式に流すファンファーレのBGMを専門家に作ってもらうなど、放送室のハードはもちろんソフトも充実させた

 出典  Funmee!!編集部


ふたりがモータースポーツと出会ったのは1967年。鈴鹿500km耐久レースを観戦したふたり(当時、兄16歳、弟14歳)はいつかカーレースに参戦したいと思い描いた。その夢が叶ったのは兄が46歳、弟が39歳の時だ。

 

父が起こした採石会社、山本石産で働きながら、週末はサーキットでレーシングカートのハンドルを握った。兄は鈴鹿クラブマンレースRS部門でシリーズチャンピオンを3回、弟もシリーズチャンピオンを一度制覇している。

 


事務所には山本兄弟が優勝した時の輝かしい写真が飾ってある。2002年鈴鹿クラブマンレースRS部門300㎞耐久レースで優勝した時のもの

事務所には山本兄弟が優勝した時の輝かしい写真が飾ってある。2002年鈴鹿クラブマンレースRS部門300㎞耐久レースで優勝した時のもの

 出典  Funmee!!編集部


カーレースに参戦したのは、純粋にレースを楽しみたい気持ちと、その経験を自分たちのサーキットに還元したい思いもあった。カーレースでの経験をフィードバックし、カーレースを楽しむために必要な施設を整えた幸田サーキットが誕生した。兄が52歳、弟が50歳の時だ。

 

「サーキットを作る夢は若い頃からおぼろげに抱いていました。大学で緑地工学を専攻した弟は、採石場の跡地利用を卒論のテーマに選んでいます。ふたりでサーキットを作る夢を語っているうちに埋蔵量の寿命が来ました」(山本雅樹さん)



コントロールタワーとスタート地点。手前は170mのバックストレート

コントロールタワーとスタート地点。手前は170mのバックストレート

 出典  Funmee!!編集部


サーキットを作る場合、コースを考えたうえでコースレイアウトを設計する。ところが、幸田サーキットは跡地ありきだった。そのなかでJAFの4輪規定をクリアしながら、弟がコースレイアウトをデザインした。採石しつつ自分たちで造成を進めたため、半年で完成した。

 

限られた土地ではあるが、最低でもコース全長1,000mは欲しい。とはいえ、クネクネしたコースにはしたくない。そのためスタート直後にカーブを設けるなど難しいコースになってしまったと山本克典さんは告白する。



スタート直後、1コーナーを立ち上がるとすぐにこの2コーナーがあり、ミニサーキットとはいえ難コースに仕上がった

スタート直後、1コーナーを立ち上がるとすぐにこの2コーナーがあり、ミニサーキットとはいえ難コースに仕上がった

 出典  Funmee!!編集部


直線は170m。4輪の場合、上級者なら最高時速170kmは軽いが、初心者でも120kmは出せる。レンタルカートでも本物のレーシングカーとほぼ同じ経験ができるのが幸田サーキットの特徴だ。


「世界一、日本一速いレーシングドライバーを決めるのが、鈴鹿サーキットや富士スピードウェイです。でもここはそうではありません。レンタルカートでの耐久レースもあるし、初心者だけの耐久レースも実施しています。もちろん女性も大歓迎」(山本克典さん)




170mのバックストレート。4輪なら2速から4速までシフトアップし、170km/hまで上げたら2速に落とし、その先のヘアピンカーブへ向かう

170mのバックストレート。4輪なら2速から4速までシフトアップし、170km/hまで上げたら2速に落とし、その先のヘアピンカーブへ向かう

 出典  Funmee!!編集部


ジムカーナ的なコースを設定し、ハンドリングやペダルワークなどのスポーツドライビングを体験してもらう「ドライビング・ラボ」も定期的に開催している。ノーマルカーで参加し、自分のクルマのパフォーマンスを楽しむためのイベントだ。全日本ジムカーナ・チャンピオンを講師に招き、3階で参加者の走行を見ながらアドバイスしてくれるのだ。

 

若い時にカーレースに参戦したかったが、元手が必要なことから実現までに長い歳月を要した。そうした苦い経験もあり、現在ふたりは未来のレーシングドライバーをサポートしている。



サーキットに隣接するレンタルカート専用のチャレンジカートパークコース。1周約500m。最高時速は50km/h

サーキットに隣接するレンタルカート専用のチャレンジカートパークコース。1周約500m。最高時速は50km/h

 出典  Funmee!!編集部


ところが、軍資金を要するのはカーレースだけでないことを、サーキットを運営して初めて悟ったと兄の山本雅樹さんはこぼす。

 

「何しろ維持費がかかります。もっと抑えたかったのですが、地元の協力を得て開発できたこともあり、作るからには立派なものにしてほしいといった要望もあり、経費がかさんでしまいました」



幸田サーキットのレンタルカート。イタリアのビレル社の車両で空冷4ストローク単気筒200cc、最高時速は50km/h。レンタルカートスクールの他、楽しく遊べるキッズとジュニアカートスクールも開校

幸田サーキットのレンタルカート。イタリアのビレル社の車両で空冷4ストローク単気筒200cc、最高時速は50km/h。レンタルカートスクールの他、楽しく遊べるキッズとジュニアカートスクールも開校

 出典  Funmee!!編集部


サーキットビジネスは儲かるものではないとぼやくのだが、撮影のためレンタルカートでサーキットを数週走ってもらった後、弟の山本克典さんが放ったセリフが印象的だった。

 

「フェラーリを持っとる人はどえらいおるけど、サーキットをもっとる人は、そうはおらんだがね」

 

そう言って山本克典さんは少年のように笑った。




■プロフィール

山本雅樹さん(兄)、山本克典さん(弟)

 

幸田サーキットYRP 桐山オーナー。地域に根づいたレース場をめざし、採石場をサーキットへ変えた。1周1,085m、17万平方mで、開業当時、JAF公認サーキットでは国内最小だった。

「がんがん4輪レースをやるというのではなく、間口を広げ、たくさんの人にモータースポーツを楽しんでもらえるサーキットでありたいと思っています」(山本雅樹さん)

 

 

幸田サーキット YRP桐山

愛知県額田郡幸田町桐山立岩1-100

TEL:0564-62-7522

営業時間:9:00〜22:00(4月〜12月の期間)

休み:月曜(月曜が祝日の場合は翌火曜休)

※詳細は電話で問い合わせてください。


1月21日(日)、幸田サーキット YRP桐山でレンタルカート50台による、日本初の8時間耐久レースが行われる。夏にも同レースを開催する予定だ。


 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。

 


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Funmee!!編集部

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