【ポケットの中の博物館】#04 使い込まれた古いバーナーをオーバーホールする火遊び男爵


好きなものを蒐集し、動くように整備して、使い愛でる人たちがいる。連載「ポケットの中の博物館」では、彼らの集めた物を通して、趣味に人生をかけるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

国内外産の加圧式灯油バーナーを溺愛して病まない福田 勇さんは、自称「バーナー中毒」。灯油はホワイトガソリンよりも使い勝手が難しいからこそ大人が使うに相応しいというのだ。

 

古いバーナーを直し、きれいになったお宝に火を着ける瞬間が楽しくてしかたがない。「火遊びは男の原点」と豪語するバーナーコレクターを取材した。



歴史を調べていたらハマってしまった

オプティマスのピクニックストーブ

 出典  Funmee!!編集部


6畳の倉庫には、大小様々なバーナーが並んでいた。緑色のケースに収められた、いかにも軍御用達モデルがあるかと思えば、段ボールに収納されたままのものもある。

 

神奈川県横須賀市某所。ここは古今東西のバーナーを蒐集する福田 勇さんのアジト。その大半が海外のオークションで入手したものだ。

 

「中には未使用のレア物もありますが、その多くが使い込まれ、ボロボロの状態で届きます。それらを時間をかけてオーバーホールし、できる限り作られた当時の姿にしてあげるのが、私の役目」

 

ときに部品が破損していたり、なかったりすることも。そんなときは腕っこきの職人を探し出し、新規に作ってもらうのだそうだ。



バーナーの父カール・リヒァルト・ニーベリを敬愛する福田さんは、彼が起こしたスヴェア(スウェーデン)のバーナーでコーヒーを淹れている

 出典  Funmee!!編集部


けれど、古いバーナーならなんでもいいというわけではない。作りがしっかりとした、加圧式灯油バーナーにしか愛情を感じない。同じ加圧式でもホワイトガソリン仕様には、まったく食指が動かないと言い切る。

 

「ホワイトガソリンと違い灯油式は、気化するまでに時間がかかり、しかも加圧しすぎるとバーナーが炎上することもあります。そのせいで灯油式加圧バーナーは敬遠されがちですが、きちんと着火さえできれば、安定して燃焼させられます。加圧式灯油バーナーは、技を磨いてこそ使いこなせる大人の遊び道具」

 

大学の山岳渓流部でオプティマス(スウェーデン)の加圧式灯油バーナーと出会い、その後ファミリーキャンプでもお世話になった。



左側はオプティマス「182」(1950年製)。右側はホーローのプリムス「516」(1933年製)

 出典  Funmee!!編集部


阪神淡路大震災直後、避難所で炊き出しのボランティアを体験。その経験から火器類の必要性を痛感。帰宅後さっそくオプティマスの4ヘッドの強力バーナーを購入した。

 

頼り甲斐のある加圧式灯油バーナーに惹かれ、その歴史やデザインを調べてみたら、国ごとに時代により意匠が異なることがわかってきた。

 

「今日様々なキャンプ用バーナーが市販されていますが、その原型が1882年頃スウェーデン人のカール・リヒァルト・ニーベリさんが考案した、加圧式灯油ブロートーチであることがわかりました」



ニーベリが発明した加圧式灯油ブロートーチとバーナー

 出典  Funmee!!編集部


ニーベリの加圧式灯油ブロートーチの機構をヒントに、オプティマスやプリムス、スベア(すべてスウェーデン)が、加圧式灯油バーナーを世に送り出すに至った。

 

「実は、ニーベリさんは飛行機のパイオニアでもあるんです。ブロートーチの構造を応用し、蒸気エンジンを考案しました。結局飛べませんでしたが、ニーベリさんのアイデアがその後のジェットエンジンに継承されたことを知り、加圧式灯油バーナーへの興味がより深まりました」



スイス軍御用達の加圧式灯油タイプのツーバーナーで、専用の木箱に工具や予備パーツも収納できる

 出典  Funmee!!編集部

災害時用でもあるが、火遊びは男の嗜み


軽量コンパクトな加圧式灯油バーナーが世界各国で開発され、登山家や軍隊、探検隊に携行された。台所にガスコンロが登場する以前、五徳を配した加圧式灯油バーナーで煮炊きをしていた時代もある。

 

翻って昭和30年頃国内にも数多のメーカーが存在した。植村直己が愛用したマナスル、南極探検隊が装備した日向野工業の「高砂石油ガスコンロ」など、福田さんは国産の加圧式灯油バーナーも数多く蒐集している。



南極探検隊の備品だった日向野工業の「高砂石油ガスコンロ」

 出典  Funmee!!編集部


今日ストーブメーカーとして知られるコロナも、創業当初は内田製作所の名で加圧式灯油バーナーを作っていた。福田さんの蒐集品の中に、内田製作所製のコロナ瓦斯式石油コンロが2台ある。1台は、長野の旧家で眠っていた未使用品だ。



長野の旧家に眠っていた、未使用のコロナ瓦斯式石油コンロ。同社がストーブに特化する前に生産したコンロだ

 出典  Funmee!!編集部


国産ではないが、東日本大震災直後、被災地で活躍したバーナーも所有する。ひとつは英国のNPO、シェルターボックスが、テントや毛布などの救援物資と一緒に被災地に送ったオプティマスの災害救助用バーナー。もうひとつは、避難場所内の仮設風呂の湯沸かしなどに使われた韓国産のオムニ石油バーナーだ。



左)東日本大震災直後、東北の被災地で活躍したオプティマス「ノマド」。右)煮炊きや湯沸かし、暖房にも使える韓国のオムニ石油バーナー

 出典  Funmee!!編集部


こと有事の際は、災害救助用バーナーも含め、所有する加圧式灯油バーナーで近所の人たちに炊き出しをつもりだ。とはいえ平時は、コーヒー豆をヴィンテージバーナーで30分かけて焙煎し、里山で汲んできた湧き水でコーヒーを淹れるなどの嗜みに愛用している。

「なんといってもあの轟音が加圧式バーナーの魅力。炎の咆哮は安心感もあり、ワクワクします。火遊びは男の原点です(爆笑)」




■プロフィール

福田 勇さん

加圧式灯油バーナーコレクター。阪神淡路大震災直後にボランティアへ参加した経験から、バーナーの蒐集を始める。「バーナーは奥が深く、勉強すればするほど深みにハマってしまいました」

 


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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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