【ポケットの中の博物館】#17 もはやアート!万華鏡が映す煌びやかな幻想世界


なぜ人は蒐集するのか。物欲なのか、独占欲なのか。彼らのポケットの中を覗くことで、趣味を人生の中心に据えるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

19世紀のスコットランドで作られた貴重品や、駄菓子屋で売られていた紙の万華鏡など、古今東西のカレイドスコープを蒐集しているコレクターが埼玉県川口市にいる。

 

長年集めてきた約2,500本の万華鏡を展示する、世界一小さい万華鏡博物館を地元に開設。万華鏡のどこに魅せられ、蒐集を始めたのか、カレイドスコープ・コレクターに尋ねた。



多彩な映像が見える万華鏡を集めている

万華鏡コレクター大熊進一さんと蒐集した万華鏡たち

 出典  Funmee!!編集部


子どもの頃、万華鏡で遊んだ経験があるが、万華鏡なんて所詮子どもだましのおもちゃだ、と思い込んでいた。ところが、大熊進一さんが蒐集する万華鏡を見て、思わず膝を正したくなった。これまで体験してきたものとはまったく次元が異なる万華鏡が多かったからだ。

 

大熊さんは万華鏡コレクターであり、日本万華鏡博物館(埼玉県川口市)の館長でもある。博物館内には、大熊さんが長年蒐集してきた、大小さまざまなデザインの万華鏡約2,500本が並んでいた。



日本万華鏡博物館には所狭しと世界各地の万華鏡が並ぶ

 出典  Funmee!!編集部


その一部を見せてもらった。本体を回すと、ビーズや貝殻などのオブジェクトが動く構造はどれもほぼ同じ。ところが、万華鏡の心臓部ともいえる鏡の構造が複雑で、昔遊んだものよりも遥かに進化し、多彩な万華鏡を数多く蒐集していた。

 

「この灯台の形をした万華鏡を見てください」と大熊さんに言われ、覗いてみた。覗き窓の向こうは3Dの世界だった。覗きながら灯台をゆっくりと回すと、オブジェクトが立体的なまま動いた。



灯台型万華鏡。台形の鏡を内蔵し、映像が3Dに見える(この記事の最初の写真がその映像)

 出典  Funmee!!編集部


「万華鏡の鏡は普通長方形の鏡を組んで作ります。片や、この万華鏡は台形の鏡3枚を使っています。鏡に角度が付いているため、反射する度に3Dの映像を作り、立体的に見えるんです」

 

その一方で、外見はごく普通の筒状の万華鏡なのだが、覗き窓の中には見たこともない、不思議な空間が広がっている万華鏡もある。3Dでも円形でもない、三日月なのだ。



2枚の鏡がずれてしまったため、映像が三日月に映る万華鏡

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日本では3枚の鏡で作る万華鏡が主流だが、欧米では2枚が一般的だそうだ。大熊さんが2枚の鏡で万華鏡を作ろうとしたところ、鏡がずれ、三日月に反射する万華鏡ができてしまったというのである。

 

「万華鏡作りには失敗作はありません。失敗からとんでもないものが生まれる可能性も十分あります」



3枚の鏡をコの字型に組んだことで映像が一直線に見える、世にも不思議な万華鏡

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万華鏡は鏡を数枚組み合わせて作るものだ、という概念を打ち破るコレクションも存在する。ミラーコーティングを施した工業用のアルミ箔1枚を丸め、円筒形の容器に入れたサークルミラーは、オブジェクトがくるくる回り、サークル状の反射になる。



角度を変えた4枚の鏡の組み方を微調整して、オブジェクトがUFOのように見える万華鏡

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テレイドスコープと呼ばれる、筒の先端に球体のガラスを配した万華鏡もある。

 

「覗き窓から見える世界がすべて万華鏡映像になります。これを散歩に持参すると散歩が楽しくなります。たとえば花を観察したり、自動販売機を見ても興味深いし、誰かの顔を覗くと面白いです(爆笑)」



筒の先端に球体のガラスを配した「テレイドスコープ」で大熊進一さんの顔を見た映像

 出典  Funmee!!編集部

万華鏡生誕の地で展示会を開催した


万華鏡はスコットランド人で、物理学者のデビット・ブリュースターが1816年に考案したという。灯台の光をより遠くへ届かせるための光の研究中、鏡と鏡の間に幻想的な色彩を発見し、万華鏡を発明したと伝えられている。



おそらく世界でもっとも古い万華鏡。1820年代、ブリュースターの許可を得て、ルースベンという人が製作したもの

 出典  Funmee!!編集部


「万華鏡は誰もが楽しめるおもちゃであると同時に、サイエンスアートでもあるんです。きれいな画像を見せてくれるだけでなく、奥が深いので意外と男性がはまります」



覗き窓(右)にはRUTHVENの刻印。覗き窓のカバーを外す(左)と、イングランドとスコットランドを象徴するライオンとユニコーンの絵の他、カレイドスコープの文字が刻まれている

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大熊さんが万華鏡にはまったのは40歳の時(1990年)。クジラを見に行ったマウイ島で万華鏡と出会った。子どもの頃遊んだ万華鏡と違い、アートのような画像を見せてくれる万華鏡に魅せられ、蒐集が始まった。1998年、都内に日本万華鏡博物館を設立。その後の2012年、川口市に移転した。



駄菓子屋で吊って売られていた万華鏡。「駄菓子屋が激減していることから、今や貴重品になりつつある紙の万華鏡も集めています」

 出典  Funmee!!編集部


コレクターが私設ミュージアムを開設したくなる気持ちはよくわかる。けれど、大熊さんの場合、それだけでは満足できなかった。万華鏡が誕生して200年目に、ブリュースターが学長をしていたエジンバラ大学(スコットランド)で万華鏡展を開こうと考えたのだ。

 

「ブリュースターはエジンバラ大学学長として生涯を終えました。彼とゆかりのあるエジンバラ大学で万華鏡展を開けたら素晴らしいと思い、2014年にエジンバラ大学の現学長に企画書をメールしました」



日本万華鏡博物館には世界各国の万華鏡も展示されている。左からイギリス製、ドイツ製、 イタリア製、フランス製、アメリカ製

 出典  Funmee!!編集部


万華鏡をスコットランドへ送る送料を負担する旨も含め、万華鏡展開催企画を学長に提案。するととんとん拍子で話がまとまり、蒐集品の中から130本の万華鏡をスコットランドへ送った。その中には1820年代に作られた万華鏡も入っていた。10数年前オークションで入手した、ブリュースターの認可を得て作られた望遠鏡タイプの万華鏡だ。

 

2016年4月、エジンバラ大学に続き、セント・アンドリュース大学でも万華鏡展を開催。日本人は子どもの頃から万華鏡に親しんでいるが、スコットランドでは万華鏡を見たことがある人はほぼ皆無だった。期間中、老若男女大勢の人が会場に足を運び、ワークショップに参加したり、万華鏡で遊んでくれた。

 

万華鏡の故郷での展示会には夢のようなオマケが付いていた。ブリュースターの墓参りができただけでなく、彼の子孫も会場に姿を見せてくれた。コレクションを万華鏡生誕の地に里帰りさせることができ、とても幸せだった、と大熊さんは振り返る。



1840年代、フランスの貴族がお抱えの細工師に作らせたと思われるペンダントタイプの万華鏡。トルコ石や18金などで装飾された女性用モデル

 出典  Funmee!!編集部

オブジェクトにはカラフルな貴石が使われている。「貴族が自分の娘か、愛人にプレゼントしたものではないかと推測しています」

 出典  Funmee!!編集部


「30歳までは学び、30歳からの30年間はひたすら稼ぎ、60歳からは大いに遊ぶ。学んでおかないと稼げないし、60歳を過ぎたら興味深い遊び方をしようと決めていました」

 

おかげで今は楽しくて仕方がない、と言って大熊さんは目尻を下げた。




■プロフィール

大熊進一さん

 

万華鏡コレクター。川口市生まれ。1972年立教大学卒業、埼玉新聞社入社。1998年渋谷のマンションの一室に「日本万華鏡博物館」オープン。2012年生地の川口市に移転オープン。著書に『万華鏡、故郷(スコットランド)へ帰る』(さわらび舎)、『万華鏡』(文溪堂)、『世界で唯一 日本万華鏡博物館』(幹書房)など。

 

日本万華鏡博物館

埼玉県川口市幸町2-1-18-101

TEL:048-255-2422

開館時間:10時〜19時(要予約)

休館日:不定休 

入場料:見るコース(1,000円)、作るコース(2,500円〜9,000円)

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 


■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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