【ポケットの中の博物館】#14 明媚な風景もただの背景!ロープウェイに魅入られた男


なぜ人は蒐集するのか。物欲なのか、独占欲なのか。はたまた「貴重な文化を後世に遺すため」なのかもしれない。だから彼らのポケットの中を覗くことで、趣味を人生の中心に据えるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

丸みを帯びたゴンドラ、昭和の香り漂う駅舎、案内をしてくれるガイドなど、「夢の乗り物」として輝いていたロープウェイに魅了され、ロープウェイ巡礼や、グッズ蒐集をしているファンがいる。

 

なぜロープウェイの虜になったのか。ロープウェイに淫してしまった理由を探るべく取材した。



ロープウェイに乗ると誰もがハッピーになれる

箱根の大和屋ホテル(2013年8月営業終了)の自家用ロープウェイ。子どもの頃、両親と乗った思い出のロープウェイ。写真は後年泊まりに行った際に撮ったもの

 提供  松本晋一さん


秋になれば、ロープウェイで紅葉狩りを楽しむという人もいるだろう。山頂に着いたら展望台へ登り、付近を散策したかもしれない。ところが、山頂に着いても駅から一歩も出ずロープウェイで山を降りてきては、またすぐに山頂を目指す人がいる。

 

「風景を眺めながらの空中散歩がロープウェイの醍醐味かもしれませんが、僕にとっては紅葉も新緑もロープウェイの背景でしかありません」

 

ロープウェイは乗るものであって、景色を見るためのものではないというのが、松本晋一さんの持論だ。



ロープウェイのおもちゃを手に童心に帰る松本晋一さん

 出典  Funmee!!編集部


乗車中、ビデオと写真を撮るのだが、同時に狙うと失敗するという理由で別々に撮影する。何もせずロープウェイに身をゆだねる楽しい時間も欲しいので、撮影も含め合計4往復しないと気が済まない。

 

いろいろな乗り物ファンがいるなかで、松本さんのようなロープウェイ好きは極めて少数派だ。なぜロープウェイは人気がないのか、その理由を松本さんはこう分析する。

 

「乗り物好きが興味を示さないのは、ロープウェイが自走式ではないからだと思います。人気がある乗り物には運転手がいますが、動力がないロープウェイは引っ張られて動くただのカゴ。それが他の乗り物との大きな違いです」

 


乗車券も蒐集している。「捨ててしまうような乗車券が意外と貴重で価値があるんです。日付が押されているものもあり、いつの時代のものかわかるものも多い。描かれた絵がまた可愛いんですよ」

 出典  Funmee!!編集部


乗り物好きの関心度は低いかもしれないが、ロープウェイほどハッピーにしてくれる乗り物はないと松本さんは説く。非日常の風景を見せてくれるロープウェイに乗ると童心に帰り、誰もが楽しそうだというのである。

 

「幸せになりたかったらロープウェイに乗って下さい。私の場合、風景には興味がありませんが、乗客のリアクションが面白いので、一緒にいると自分もハッピーになれます」



昭和の香りがするロープウェイを愛してやまない


松本さんが初めてロープウェイに乗ったのは幼稚園入園前、アタミロープウェイ、箱根の大和屋ホテルの自家用ロープウェイ、箱根駒ケ岳ロープウェイだった。その頃買ってもらったロープウェイのおもちゃは、中学生になっても手放せなかった。

 

その後長年遠ざかっていたが、42歳の時、子どもの頃の宝物だったロープウェイのおもちゃをネットオークションで購入。駅を作り、部屋の中で動かそうと思ったものの、駅の形を思い出せなかった。駅の構造を調べるため、秩父の宝登山ロープウェイと三峰ロープウェイを1日でハシゴすることにした。



野村トーイ製のロープウェイのおもちゃ。左が初期モデル、右が後期と思われる。初期モデルはドアが開き、附属の紙人形を置いて遊べた。後期はケーブルをかけるフックが取り外し式に変更され、ドアが開かなくなった

 出典  Funmee!!編集部


「数十年ぶりのロープウェイでしたが、はまりました。子どもの頃散々遊んだロープウェイのおもちゃのイメージがインプットされていたのか、丸みを帯びたレトロな搬器(人を乗せる箱)や、昭和の趣があるロープウェイに魅せられました」

 

それがきっかけで毎週のようにレトロなロープウェイに乗りに行くようになった。出かけた先々で様々なロープウェイグッズを入手。同時に、ネットオークションでロープウェイのおもちゃを買い漁りはじめた。



子どもの頃遊んでいたものと同じ野村トーイ製のロープウェイをネットオークションで購入した。この駅を作ろうと思ったことがきっかけで全国のロープウェイ巡りを始めた

 出典  Funmee!!編集部


「全国のロープウェイを制覇しないのかと聞かれることもありますが、いまどきの角ばったデザインの搬器には興味がありません。ガイドの説明が聞けたり、昭和の名残があるロープウェイが好きなんです」

 

この十数年間で、お気に入りのロープウェイが次々と廃線になった。42歳の時に乗った三峰ロープウェイも、太平山ロープウェイ(山口県防府市)も既にない。設備の老朽化で廃止されたのだ。

 

創業から半世紀以上経ったロープウェイが多く、近年リニューアルの時期を迎えている。すべての設備を改修しなければならないロープウェイも多い。インフラが整い、山頂までクルマで行けるロープウェイの多くが赤字のため、廃線に追い込まれていった。



絵葉書も大切な蒐集品。オークションや蚤の市でロープウェイが写った観光絵葉書セットを購入するのだが、一番欲しいものは1枚しか入っていないことが多い

 出典  Funmee!!編集部


辛くも搬器の交換で済むロープウェイもあるが、その多くがスイス製の搬器を導入している。昭和の駅にスイス製の搬器は違和感があるし、日本の風土にはそぐわないと松本さんは指摘する。

 

鉄道の車両と違いロープウェイの搬器は、引退後大半がスクラップにされる。それが松本さんには残念でならない。放置された搬器を見つけたり、どこかに保存されていると聞けば撮影し、その姿を後世に残したいと願っている。



2016年7月、松本さんが上梓した『ロープウェイ探訪』(グラフィック社)。松本さんが乗りためたロープウェイの知識と、撮りためた搬器や駅、土産品売場の写真がギュッと詰まった一冊

 出典  Funmee!!編集部


なぜこれほどロープウェイに惹かれるのか自分でも理解できなかったが、最近その理由がおぼろげにわかってきた。

 

「子どもの頃電車に乗っていて、両脇に駅があるホームに入っていくのが好きでした。空中に浮いた搬器が、コンクリート製の階段ホームの溝にはまる瞬間が堪えられません。ワクワクします」



大和屋ホテルに泊まった前後、箱根駒ケ岳ロープウェーで父親(帽子芸で有名な芸人、早野凡平)と一緒に撮った画像

 提供  松本晋一さん


それがロープウェイを好きになった理由だというのだ。ところが、最新の駅は、ロープウェイが到着するとホームの両サイドが倒れ、搬器を支える設備があったり、鉄筋の骨組みだけのホームも増えてきた。

 

「あれは面白くありません。駅の溝にすぽっとはまらないロープウェイは、ロープウェイではないと思います」

 

いまも時間があれば、昭和の幻影のような夢の乗り物を追いかけているのである。




■プロフィール

松本晋一さん

ロープウェイコレクター。「ロープウェイのガイドをするのが夢」と語る。鉄道同様、ロープウェイもリニューアルが進みつつあるため、昭和なロープウェイに乗り急いでいる。本業はタップダンサー、タップダンス講師。著書『ロープウェイ探訪』(グラフィック社)。

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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