
#40 BMW M6(E24型・ディテール編)
クルマの新旧や機能だけでなく、趣味性の高いクルマ、さまざまな趣味への汎用性が高いクルマを紹介するこの連載。「世界一美しいクーペ」と呼ばれたE24系初代6シリーズの魅力に迫ってみます。
「世界一美しいクーペ」とされる所以は
E24型の初代BMW6シリーズは、いまなお「世界一美しいクーペ」と称される流麗なクーペです。それではその美しさの秘訣はどこにあるのでしょうか?
まずはそのボディデザインを考察してみましょう。ベルトーネデザインのE9系クーペの流れを継承したボディは、この時代のBMWの集大成ともいえるものです。窓の下端が低く、ボディは実際以上に薄く、低く見えます。

全高は1,350mm程度しかありませんが、窓の下端が低いためグラスエリアが広く、ボディは実際以上に薄く、長く見えます。こういったボディデザインは、現在の安全基準では実現不可能なシルエットです。
またリアクォーターの窓が広く、ウィンドウも開閉できるので、2ドアクーペにも関わらず、後席の居住性が良いのも大きな特徴です。またこのリアガラスのラインを形成するCピラーのデザインは、歴史&スペック編で紹介した通り、3200CSの時代から継承されたBMWらしい部分でもあります。

BMWらしさを極めた逆スラントのフロントマスク
丸目四灯のヘッドライトにキドニーグリルを擁した逆スラントのフロントグリルは、まさに「壮観な」という形容が相応しい、この時代のBMWを象徴する部分です。また前期モデルはスティールバンパーでしたが、1987年のマイナーチェンジによって、ウレタン製バンパーと、エリプソイドヘッドライト呼ばれるプロジェクターライトに変更されました。

広くて高級感あるインテリア
インテリアに目を移すと、センターコンソールが運転席側に向いた当時としては先進のデザインです。以前紹介したE30型3シリーズではオーバーヘッドに備わっていたワーニングランプ類はステアリング左側に配される他、センターコンソールにはオンボードコンピューターも備わります。また取材車両にはパワーシートはもちろん、シートヒーターなどの豪華装備も備わります。

リアシートは2名乗車でそれぞれがバケット形状となります。特筆すべきはセンターコンソールです。実はこのクルマにはリアエアコンを装備し、ビバレッジチラーと呼ばれる小型冷蔵庫まで備えています。2ドアのスポーツクーペにも関わらず、後席はまるで高級サルーンのようです。

シルキーシックスと呼ばれる直列6気筒を搭載
初代6シリーズのエンジンは、E9系2800CS/3.0CSに搭載された「シルキーシックス」と呼ばれる直列6気筒の改良派生版が搭載されました。特にM635CSiと呼ばれるヨーロッパ市場でのトップグレードは、M1に搭載されたレーススペックのDOHC直列6気筒を286馬力までマイルドにして搭載しており、レースでも活躍しました。
ところが排ガス規制の厳しい日本とアメリカではこのM635CSiは販売されず、265馬力を発生する低圧縮比触媒付きバージョンを搭載したM6がリリースされます。このE24系でM6の名前を冠したモデルは日本とアメリカのみで発売されたレアモデルでもあるのです。

BMW JAPANによって輸入された正規輸入車は、M6以外の全グレードがAT車で、マニュアルシフトを楽しむことができるのは、このM6だけの特権でした。世界一美しいクーペに搭載されるシルキーシックスと呼ばれた6気筒をマニュアルシフトで操るのは、現代のクルマでは味わうことのできない愉しさです。

大判、480ページの大ボリューム。資料として読めるだけでなく、写真集のように眺めるだけでも満足できる一冊です。M6やその他のBMWの美しすぎるディテールを存分に味わいましょう。
■取材協力
世界一美しいクーペにこだわって修理やレストアを行なっている国内でも珍しいE24専門店シルキーシックスは、2017年に創業10周年を迎えたショップ。全国でE24のみのオフ会を開催するなど、E24コミュニティの育成にも尽力しています。
東京都江戸川区西一之江2−30−12
TEL:03-5678-1124
営業時間:9:00〜19:00
休み:イベント時以外は無休
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文&写真:勝村大輔(Daisuke Katsumura)
