【ポケットの中の博物館】#07 寵愛するプロダクトは世界の名車のペダルカー


なぜ人は収集するのか。物欲なのか、独占欲なのか。「貴重な文化を後世に遺すためだ」という人もいる。連載「ポケットの中の博物館」では、彼らのポケットの中を覗くことで、趣味に人生をかけるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

入園前の子どもが遊ぶ乗用玩具の一種、ペダルカーが蒐集の対象になるとは。しかも自分が乗れもしないこのクルマを、ただ集めるだけでなく改造しているというのだ。

 

「プラスチック製よりも、実車っぽい質感があるブリキ製のほうが断然かっこいい」というペダルカーを蒐集するマニアを取材した。



V8やシャコタンに改造した遊具もある


キャデラック、フェラーリ、ポルシェなど、世界の名車が倉庫のような場所に所狭しと並んでいる。と言っても実車ではない。柴田昌武さんが婬しているのは、“世界の名車”のペダルカー。子どもがペダルを漕いで走る遊具を蒐集しているのだ。



乗用玩具メーカーのトシマが製造した'59年型キャデラック・エルドラド(プラスチック製)。シートにはキャデラックのロゴとエルドラドの名前が

 出典  Funmee!!編集部


けれど、ただ集めているだけではない。たとえば'59年型キャデラックの、美しいはずのテールフィンガーが、味も素っ気もない銀色だった。それには我慢がならず、妻のマニキュアでその一部を赤く塗った。おかげでキャデラックらしいテールフィンガーに仕上がったものの、大切なマニキュアを黙って使ったことが妻に発覚。大目玉を食らった。



美しいテールフィンガーはマニキュアを塗って仕上げた

 出典  Funmee!!編集部


また世界に1台しかないV8のポルシェもある。自分でボンネットを切り、ネットで購入したエンジンを取り付け、映画『マッドマックス』に登場したようなV8に改造したのだ。

 

「塗装も自分でしたのですが、大失敗でした。餅は餅屋。以後塗装はプロに任せることにしました」



奥はノーマルのポルシェ。手前は自分でV8に改造したポルシェ

 出典  Funmee!!編集部

搭載させたエンジン。再塗装後、ショックアブソーバーメーカーのオーリンズ(本社スウェーデン)のステッカーを貼った。「もちろん、ショックアブソーバーにはオーリンズ製を装着しています(笑)」と柴田さん

 出典  Funmee!!編集部


というわけでブルーバード510は、アメ車専門のカスタムメーカーに塗装を依頼。えんじ色だったボディをターコイズに塗り替えてもらった。ついでにシャコタンに改造した。

 

プロがよくペダルカーの塗装と改造を引き受けてくれたものだが、感心してばかりはいられない。費用が車両価格よりも高くついた。おまけに完成までに3カ月待ったにもかかわらず、シャコタンにしたせいで子どもが乗るとタイヤがボディにひっかかり、動かなくなってしまった。

 

それでも本人は平気の平左。「どうせやるなら遊ばないと」と豪語するのはコレクターらしいひと言。



地元清水にあるアメ車専門のカスタムメーカー「バンナイスオートモーティブ」がシャコタンに改造し、焼付け塗装をしてくれたブルーバード510

 出典  Funmee!!編集部



ペダルカーを飾ったバーをやってみたい

フェラーリ365GTボクサー。ステアリング脇のスイッチを押すと、リトラクタブル・ヘッドライトが立ち上がる構造。フェラーリのエンブレムで知られる“跳ね馬”が跳ねておらず、しかも右を向いているところがご愛嬌

 出典  Funmee!!編集部


ペダルカーの蒐集は、10年前に生まれた長男がきっかけだった。長男が1歳になる前、ポルシェのプラスチック製ペダルカーをプレゼント。テレビゲームではなく、外で元気に遊んで欲しい。そんな願いもあり、ペダルカーを贈った。

 

柴田さん自身(1960年生まれ)、幼少の頃ペダルカーで遊んだ記憶がある。時代背景からブリキ製だったことは間違いないものの、どんなクルマだったのか、何色だったのかも覚えていない。未舗装の砂利道を漕いだ記憶だけは鮮明に残っている。

 

ネットで調べてみると、今でもブリキ製のペダルカーが生産されていることがわかった。

 

「そのブリキ製にもいろいろな種類があり、昔の旧いモデルのほうが断然かっこいいんです。でも喜んでペダルカーに乗ってくれた長男よりも、自分のほうがすっかり入れあげてしまいました」



フリーマーケットで購入したトヨタマークII。グレーのボディが錆びだらけだったことから、塗装屋に頼み、紫に塗ってもらった。「プロが撮るときれいに見えるけど、実車だったらこんな色のクルマには乗りたくない(笑)」

 出典  Funmee!!編集部


おかげで徐々に蒐集品の数が増えていった。その2年後、次男が生まれた頃には30台になった。ミニカーならいざ知らず、ペダルカーを30台置こうと思うとそれ相当のスペースがなければならない。子ども部屋にパイプで棚を作り、ペダルカー専用の車庫を新設した。けれどその程度では追いつかず、子ども部屋一面がペダルカーで埋まってしまった。

 

実は、柴田さんは日本料理店のオーナーシェフ。清水市内にあるビルの2階が店舗で、3階が自宅だ。その後、1階のテナントが抜けたことから、妻に内緒で1階も借りることにし、お宝を1階に移した。



パワーホイールと呼ばれる電動式のキャデラック・エスカレード(アメリカ製)。シートベルト、カップホルダー、FMラジオ(アメリカ仕様)付き。夜遊びを奨励するため、LEDを8個装着した

 出典  Funmee!!編集部


収納スペースを拡張したことで気をよくしたのか、最盛期には80台入手した。でも、さすがにこれには温厚な妻も堪忍袋の緒が切れた。「邪魔、迷惑。そろそろ終活をしてください」と妻に厳命された。

 

「捨てるのももったいないので、いらないものは売って頂戴と妻に言われ、プラスチック製のペダルカーを処分することにしました」

 

でも未だに捨てられなかった54台が手元に残っている。中には'59年型キャデラックのようにプラスチック製もあるが、その多くがブリキ製。鉄の質感がより実車っぽいことから、ブリキ製に惚れ込んでいる。

 

「フォードムスタングGT350はアメリカ製で、長さも十分あり、乗りやすい設計だと思います。片や、国産はサイズが小さい上、実車のデザインを追求する余り、乗りにくいモデルもあります。また子どもは成長が早く、遊べる期間が極めて短い。だからこそ手放す人も多く、入手しやすいんです(笑)」

 


アメリカ製フォードムスタングGT350(ブリキ製)。足が長いアメリカ人の子どもでも漕ぎやすいように、車幅に比べ、車体がやや長い。ホイールもなかなかかっこいい

 出典  Funmee!!編集部


実車とペダルカーのデザインがよく似ている製品も多い反面、中にはモチーフにしたクルマがよくわからないモデルもある。かと思えば、頓珍漢なものもある。ボディにフェラーリと記載しながら、ツインカム、ダブルXと表記してあった。「これってセリカじゃん」と思わずツッコミを入れたくなる車種もある。

 

「手元にあるペダルカーをきれいに並べ、ここをバーにしたいと思っているんです。今日ペダルカーをかっこよく撮ってもらったおかげで、改めて惚れなおしました(笑)」

 

「バーなんてやめて」と、妻の悲鳴が聞こえてきそうだが、ここまでハマったからにはとことん探求して欲しい。ドライブができないペダルカーを改造するような人は、世界中を探しても柴田さんしかいないはずだから。




■プロフィール

柴田昌武さん

ペダルカーコレクター/料理人。本業は日本料理摩天楼のオーナーシェフ。高校生の頃から蒐集癖があり、サンダーバードのオモチャやミニチュアボトルなどを集めていた時期もある。「子どもを乗せたいと思い、ペダルカーを集め始めました。改造もできるのでミニカーよりは面白い。でも、やっぱり邪魔」と本人も苦笑い。




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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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