【ポケットの中の博物館】#09 オトナが本気で遊ぶ1分の1スケールの鉄道ごっこ


幼いころの憧れを忘れず、大人になってのびのび楽しむ姿とはどのようなものか。彼らのポケットの中を覗くことで、人生のすべてを趣味にかける価値観を知る連載「ポケットの中の博物館」。

 

自分たちで機関車を作り、古い車両を修復し、手作りの線路を走らせて1分の1スケールの鉄道模型に興じている人がいる。いい大人が制約なしに、大マジメに遊び呆けるとどうなるのか。「やってもやっても終わらない」とこぼす、鉄道ファンの壮大な鉄道ごっこを紹介します。



土木作業にも講じる究極の鉄道趣味人


千葉県成田市郊外に地図には載っていない「私鉄」が走っている。全長約500mのエンドレス。ゲージ(軌間)が610mmの軽便鉄道だ。

 

この日、乗客を乗せた機関車がゆっくりと走るその脇で、6人の男たちが、枕木を木製からコンクリート製に交換する保線作業に没頭していた。



機関車が走る横で作業するメンバーたち。作業を覗きこむ乗客も少なくない。「我々をプロと思っているのかもしれませんね」と微笑む

 出典  Funmee!!編集部


「軽便鉄道の枕木は木に限ると信じてきましたが、木は歳月と共に朽ちていきます。我々も高齢化が進み、枕木の交換も大変なので、コンクリート製に改めることにしました。ところがこれがいざやってみるとコンクリートのほうが、より本格的になった感じがします」

 

と笑みを見せるのは、角田幸弘さんだ。角田さんは保線作業班の親方ではない。鉄道趣味が高じて、ここ成田ゆめ牧場に1分の1スケールの鉄道模型まきば線を敷設し、鉄道を動かすことに悦びを感じている羅須地人鉄道協会(らすちじんてつどうきょうかい)の代表である。



羅須地人鉄道協会メンバー。前列左から内山重雄さん、福井康文さん、角田幸弘さん。後列左から高橋卓郎さん、稲岡俊一さん、豊野雅之さん

 出典  Funmee!!編集部


Nゲージなどのジオラマ作りには、ナイフや接着剤などがあれば事足りる。が、1分の1スケールの場合、そうは問屋がおろさない。レールを切断するガスバーナー。小型ショベルカーなどの重機の他、ときに小柄コンクリートの枕木を大量に作るため、小型ミキサー車を呼ぶのである。

 

「外注すれば高くつくし、運賃もかかります。こんなに楽しいことをわざわざお金を払ってまでやってもらう必要もないので、自分たちにできることは自分たちでやっています」



ガスバーナーで穴を開けたレール同士をボルトで留め、ガス溶接で枕木と固定する

 出典  Funmee!!編集部

心に思い描く美しい鉄道情景を創造する


協会の設立は40数年前に遡る。当初、新潟県や東京都下で活動していたが、20年前成田に拠点を移した。以来心に思い描く究極の鉄道情景を具現化しようと、自分たちの手で線路を敷き、鉄道建設に邁進してきた。

 

安全靴を履き、作業着で汗を流しながら働く姿(遊ぶ姿か)は現場なのか、趣味なのか、その差は紙一重。



日本車輌製造が大正2年に生産したダブルルーフの軽便客車。元は岡山の井笠鉄道で走っていたが、廃線に伴い西武遊園地に引き取られ、レストランとして使われていたもの

 出典  Funmee!!編集部


作業は土木工事だけにとどまらない。車両を自作したり、譲り受けた古い蒸気機関車をレストアするため、工場で貰ってきた旋盤で部品を手作りすることもある。当初日曜大工の延長だったはずが、いつの間にやら職業訓練所なのか、鉄道趣味なのかよくわからなくなってきたという話も小耳にはさんだ。

 

いずれにせよ、いい大人ががっぷり四つで、1分の1スケールの鉄道模型に取り組んでいるのである。



機関庫にはレストア中の蒸気機関車(製造年は不明)。シャーシはオリジナルだが、古いボイラーは火を入れると爆発する可能性があるため、10年ほど前新規に作りなおした

 出典  Funmee!!編集部


会員名簿には約70名が名を連ねているが、実際活動に参加しているのは30名ほど。活動日こそ決まっているものの、とくに集合時間はなく、三々五々集まってきては各々がしたい作業を始める。

 

稲岡俊一さんのように園芸も好きな人は、用意してきた花の種を蒔く日もある。けれど、今日のように人手が必要な日は、全員で手伝うのが暗黙の了解になっている。

 

土木や建築のプロこそいないが、保線の仕事を生業にしている人がいる。豊野雅之さんが初めて来たとき、「プロが敷いたとは思えなかったし、かといって素人が線路を敷けるはずもない。誰がやったんだ。俺が許さん」と憤慨し、その場で入会した。



保線のプロ・豊野さん(左)の現場監督で枕木をコンクリートに変えていく。「プロなら打算するところを素人にはそれがなく、とことんできる。やっていくなかで自由に変更できるのが素人の強味かも」と話すのは総監督を務める角田さん

 出典  Funmee!!編集部


「遊びだけどやっていることはプロと同じ。趣味とはいえ、お客さんを乗せる以上安全基準を満たさなければなりません」

 

豊野さんは安全上できる限りカーブはないほうがいいと説く。角田さんとしても、安全に配慮しなければならないことは重々承知しているものの、それ以上に侘び寂びに重きを置いている。

 

「橋がなければ鉄道とは呼べない」と思っていたところから、土を盛り上げ、木造橋を掛けた。



小型ショベルカーで運んできた土を盛り上げ、緩やかな傾斜も作り、その上に映画『スタンド・バイ・ミー』に登場したような木造橋を掛けた。「やっぱり橋がないと鉄道とは呼べないよねえ」と全員一致で可決

 出典  Funmee!!編集部

線路をまっすぐに敷いてもいいのだが、わざとくねらせている。春先、桜並木が続くこの区間に列車を止め、夜桜見物をする会員も多い

 出典  Funmee!!編集部


「直線よりも多少線路をくねらせたほうが美しい鉄道の情景が生まれます。ところが、それをなかなかプロは理解してくれません(笑)」

 

全員の意見をすり合わせるため、罐猫軒(かまねこけん)と名付けたアジトで夜酒盛りをしながら、白熱した議論を交わす。火花を散らした論戦が一段落したら、罐猫軒に隣接する機関庫の2階にある宿直室に泊まるメンバーも多い。



食堂兼宴会場の罐猫軒(2008年完成)は機関庫に隣接する、鉄道趣味人の秘密のアジト。風呂・厨房完備。大人が秘密基地ごっこを本気でやるとこうなるのだとか

 出典  Funmee!!編集部


実はまきば線は、成田ゆめ牧場の遊具として牧場のスタッフが運行している。そのため羅須地人鉄道協会が自由に運転できるのは、閉園後の、宿直室に泊まる夜に限られる。

 

必然的にまきば線は夜の臨時列車が多い。圧巻は春の夜桜見物列車だ。夏や秋にリゾート列車を走らせる輩もいる。蒸気機関車で沸かした湯を張ったナベトロ(砂利を運搬した車両)を蒸気機関車で引かせ、走る露天風呂を愉しもうという趣向だ。



メンバー自作の蒸気機関車にナベトロを連結し、星空を観ながら、走る露天風呂に興じる会員。メンバーだけができる大人の遊び

 提供  羅須地人鉄道協会


「ときに火の粉が飛んでくることもあるけど、冷えたビールを片手に、蒸気機関車の流れる煙を眺めながら、星空の下で露天風呂に入れるなんて最高の贅沢です(爆笑)」と角田さん。1分の1スケールならではの、究極の鉄道ごっこをまきば線で実践している。




■プロフィール

羅須地人鉄道協会(らすちじんてつどうきょうかい)

春や夏、雨や晴れの日、朝や夕方といった心に描く究極の鉄道情景を1分の1スケールで具現化する鉄道趣味人集団。メンバーはサラリーマン、地方自治体職員、高校教諭、外国航路の元船長、歯科医など。これまで平均年齢は60歳オーバーだったが、嬉しいことに近年高校生が2名入会した。若い鉄道趣味人の活躍が待たれる。羅須地人鉄道協会のメンバーのひとり、髙橋卓郎さんがつづる「まきば線ぎゃらりぃ」も閲覧ください。

 

 

成田ゆめ牧場

千葉県成田市名木730

TEL:0476-96-1001

営業時間:9:00~17:00(12月~2月は冬季営業時間あり)

入場料:大人1400 円、子ども700 円。花畑を一周するトロッコ列車は500円で乗車できる。




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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

メインカット提供:羅須地人鉄道協会



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Funmee!!編集部

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