音楽
#07 母親と息子のミュージックライフ/チェロを習う子供の自由な精神編
【僕のサン=サーンス II】︎

#07 母親と息子のミュージックライフ/チェロを習う子供の自由な精神編


いつの日かの憧れは、さらに混迷を深め……。


名曲『白鳥』を弾きたい一心で突き進む連載企画「僕のサン=サーンス」。


クラシックの世界と言えば、幼少の頃から音楽一筋で育てられるもの。そんな家庭の現状に興味を抱き、今回はアキコ先生の紹介で“ある音楽一家”に訪問。けれど、想像したシリアスな気配はどこにもなかったのです。



憧れてしまうほど素敵な親子の関係


母親のピアノと息子のチェロ。それは想像を裏切るような実に楽しげな、率直に言えば憧れてしまうほど素敵な光景だった。

 

家族にはそれぞれ固有の事情や関係性がある。たとえば前回話を聞いたプロ演奏家のオーケストラ団員たちは皆、親の勧めで楽器を始め、子どもの頃から多くの時間を音楽に捧げることで現在のポジションを得ていた。その過程を振り返れば、必ずしも楽しい思い出ばかりが詰まっているわけではないと思う。少なくとも自分なら何度も脱走を試みるだろう。


そこで、子に音楽を習わせる親と、親に楽器を習わされる子の関係に興味を持った。互いが抱く思いは共通しているのか、あるいは乖離しているのか。それを知った自分はどんな感想を持つのか……。



9歳の森永悠月くん。彼が持つのは1/4サイズの小さなチェロ
 出典  Funmee!!編集部
9歳の森永悠月くん。彼が持つのは1/4サイズの小さなチェロ

「チェロを最初に見たときは、なんかなあって思った」


今回の主人公は、森永はぎのさんと悠月(ゆづき)くん。はぎのさんは母の指導で3歳からピアノを始め、現在は自宅の一間でピアノ教室を開いている。9歳の悠月くんが初めてチェロを弾いたのは小学1年生に上がるとき。その講師が、我が師でもあるアキコ先生。アキコ先生ははぎのさんの国立音大の後輩で、はぎのさんの母も同大学の出身だそうだ。

 

「初めて発表会に出たときのことは覚えてるよ。あれは6歳だっけ? 弾いている途中からドキドキして、貧乏ゆすりしちゃった」


その会で悠月くんは、バッハの『ミュゼット』をピアノで披露した。彼もまた母親に導かれて3歳からピアノを始めたが、はぎのさんはなぜそのままピアノを弾かせなかったのか? なぜチェロだったのか? そこが今回最大のトピックなのだが、詳細は後編に譲る。ともあれアキコ先生との縁もあり、はぎのさんは小学校に入るタイミングで息子にチェロを紹介した。



悠月くんの小学校入学直前に実現した親子初舞台。右のチェリストはアキコ先生です
 写真提供  森永はぎのさん
悠月くんの小学校入学直前に実現した親子初舞台。右のチェリストはアキコ先生です


「チェロを最初に見たときはね、ちょっと大きくて、弦がいっぱいあって、なんかなあって思った」


その“なんか”に悠月くんはいまだ飽きていない。教えて3年になるアキコ先生によれば、「チェロを嫌がったことはないですね。音感がいいし、教えたことはしっかり守ってくれます」


レッスンは、9歳の集中力に合わせて約30分を月1~2回。普段は小曲を練習するが、演奏会が近づけば課題曲を決めて専念するそうだ。



悠月くんが証言します。「アキコ先生は優しいし、いつもちゃんと教えてくれる」
 出典  Funmee!!編集部
悠月くんが証言します。「アキコ先生は優しいし、いつもちゃんと教えてくれる」
姿勢の悪さに気付いたアキコ先生は、チェロを抱える高さを調節するエンドピンを伸ばした。「また背が大きくなったみたい」
 出典  Funmee!!編集部
姿勢の悪さに気付いたアキコ先生は、チェロを抱える高さを調節するエンドピンを伸ばした。「また背が大きくなったみたい」

 

マイケル・ジャクソンも好き!?


「今度の発表会は『マイウェイ』にしようかなって」。フランク・シナトラ? 9歳が?


「アニメ映画の『SING』で使われたのを聞いて気に入ったみたいです。マイケル・ジャクソンも好きなんだよね」とはぎのさん。


「『ミニオンズ』で『BAD』が流れてから好きになった。声が高いから最初は女の人だと思ったのに。それから平井堅。『ドラえもん』の映画の歌を歌ったから」

 

再びはぎのさんが追加説明をしてくれた。「YouTubeが大好きなんですよ。お風呂でもよく歌っています。『SING』でヤマアラシの女の子がエレキギターを弾くのを見て、自分もギュイ~ンってやりたいそうです。最初にご披露したのは、久石譲さんの『旅立ちの時』という、元は合唱曲なのですが、本人がどうしてもチェロで弾きたいというので、母が主催する演奏会のために練習しました」

 

9歳がYouTubeを音源にするというのは時代ってやつなのだろう。悠月くんが漂わせるイマドキ感にはたじろぐばかりだったが、それ以上にピアノやチェロがある家庭でクラシック以外は流れないものと思っていたから驚いた。いずれにせよ悠月くんは自由だった。自由な環境に育った、と言ったほうが正しいだろうか。



マイケルも平井堅も好きで、クルマも大好き。「5月には富士に行くの。SUPER GTを見に」
 出典  Funmee!!編集部
マイケルも平井堅も好きで、クルマも大好き。「5月には富士に行くの。SUPER GTを見に」


後で聞いたのだが、取材で訪れる僕らに真っ先に『旅立ちの時』を披露したいと言い出したのは彼だったそうだ。はぎのさんのピアノに合わせながら3分を超えるその曲を弾いたときは、楽譜から目を離さない真剣な表情に目を奪われた。しかし聞く者に緊張感を与えなかったのは、悠月くんのチェロの音が楽し気に響いたからだ。その中心にあったのが音楽に対する自由な精神なのだと、これも後で納得したことである。



次回は、はぎのさんが悠月くんにチェロを紹介した訳について。心がじんわり温まるような感動を覚えました
 出典  Funmee!!編集部
次回は、はぎのさんが悠月くんにチェロを紹介した訳について。心がじんわり温まるような感動を覚えました


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文:田村十七男(Tonao Tamura)

写真:上石了一(Ryoichi Ageishi)



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2018年2月16日
Funmee!!編集部
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