コレクター
#27 旧いラジオ300台! 音色に惚れ込んだ男の施設ラジオ博物館
【ポケットの中の博物館】︎

#27 旧いラジオ300台! 音色に惚れ込んだ男の施設ラジオ博物館


なぜ人は蒐集するのか。彼らのポケットの中を覗くことで、趣味を人生の中心に据えるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

旧い国産ラジオやアメリカ製ラジオを300台展示する私設博物館を開設した人がいる。そのうちの200台はきちんとレストアし、いまでも当時の音色を聴かせてくれる。

 

トランジスタラジオやBCL(世界の短波放送を聴取できるラジオ)なども蒐集しているが、今回はデザインが美しく、思わず見惚れてしまうアメリカ製の真空管ラジオを紹介する。



野外でも使用できたポータブルラジオ

中村ラジオ博物館。アメリカ製真空管ラジオ以外にも戦前の国産真空管ラジオや、国産の家具調ステレオも展示
 出典  Funmee!!編集部
中村ラジオ博物館。アメリカ製真空管ラジオ以外にも戦前の国産真空管ラジオや、国産の家具調ステレオも展示


のどかな田園風景のなかに鉄筋2階建ての建物が鎮座している。国内外のラジオ300台を展示する「中村ラジオ博物館」である。トランジスタラジオもあるが、旧いもの好きな中村邦夫さんは真空管ラジオを中心に集めてきた。

 

そのなかでアメリカ製ラジオがひと際異彩を放っていた。真っ先に目を引いたのが、小型金庫のような鉄ケースラジオだった。

 

「アトウォーターケントが1928年に製造した真空管ラジオやね。本体が30㎏、スピーカーが20㎏。精密機械を作る技師が考えたラジオなので鉄板で作った箱に入っとる。ラジオにつまずいたらふつうはラジオが壊れるんやけど、これは人間が怪我しよる」



アトウォーターケントが生産した鉄ケースラジオ。まるでクルマのボディのような堅牢さをもつ
 出典  Funmee!!編集部
アトウォーターケントが生産した鉄ケースラジオ。まるでクルマのボディのような堅牢さをもつ


安く作ろうだとか、薄く作ろうなどとは一切考えず、技術者の魂をそのまま形にしたラジオだと中村さんは言い放った。

 

アメリカでラジオの試験放送が始まったのは1920年11月。その6年後に発売されたのがRCAの「ラジオラ25」である。木製ケースにループアンテナを立て、外付けのホーンスピーカーで放送を聴く真空管ラジオだ。

 

「きちんと整備済みや」というので、全国高校野球選手権大会の実況放送にチャンネルを合わせた。その音声は平成の甲子園球場ではなく、戦前の高校野球中継を聴いているような、懐かしくて温かみのある音だった。



RCA の「ラジオラ25」(1925年製)。アンテナが大きければよく音が聴こえるという発想で、大きなループアンテナを採用。チューニングは象牙色のダイヤルで行う
 出典  Funmee!!編集部
RCA の「ラジオラ25」(1925年製)。アンテナが大きければよく音が聴こえるという発想で、大きなループアンテナを採用。チューニングは象牙色のダイヤルで行う


昨今スマホやタブレット、PCがあればどこでもラジオ放送を楽しめる。ところが、いまから90年前、とても持ち運びに便利だとはいい難いポータブルラジオが発売された。ラジオというよりもフーテンの寅が持っていそうなRCAのトランク型ラジオ「ラジオラ24」である。フタを外し、その内側に収納したループアンテナを本体に装着する。この時代、充電式のラジオ用電池を使っていたので野外でも室内同様にラジオを楽しめた。

 

「よう考えたシステムでっしゃろ。召使いが運び、野外でもラジオを聴いたんやろうねえ」



トランクのフタを開け、その内側に収めたアンテナを装着するRCA「ラジオラ24」(1925年製)
 出典  Funmee!!編集部
トランクのフタを開け、その内側に収めたアンテナを装着するRCA「ラジオラ24」(1925年製)


敷物を広げた芝生の上で、トランク型ラジオを聴きながらサンドイッチをつまんだのだろうか。ラジオがピクニックを優雅なものに演出してくれたはずだが、ホーンスピーカー内蔵なのでとにかく重たい。召使いもさぞや大変だったに違いない。



RCA「ラジオラ24」を組み立てた様子。鉄製ホーンスピーカ内蔵のため相当重たい
 出典  Funmee!!編集部
RCA「ラジオラ24」を組み立てた様子。鉄製ホーンスピーカ内蔵のため相当重たい

 

 

技術と素材の良さでアメリカ製に脱帽

携帯電話で知られるあのモトローラの1956年型真空管ラジオ。アルミケースに赤い布を貼り、スピーカを金色で縁どりしている。「これが本当の意味でのポータブルラジオやね」と中村さん
 出典  Funmee!!編集部
携帯電話で知られるあのモトローラの1956年型真空管ラジオ。アルミケースに赤い布を貼り、スピーカを金色で縁どりしている。「これが本当の意味でのポータブルラジオやね」と中村さん


好奇心旺盛だった中村少年は小学5年生で鉱石ラジオを、6年生で3球ラジオを自作した。高校ではアマチュア無線部に在籍し、ラジオ作りの虜なった。

 

「大人になるとラジオから離れる人が多いんやけど、わしはずっとラジオの世界にいりびたっていたんや。少年時代の経験が人生を決めたんやろうね」

 

30年前、コンピューターが徐々に生活に浸透してきた。近い将来世の中からラジオが消える日が来るに違いない。ラジオは自分を育ててくれた父親。大切なラジオを残そうと思い立った。ゴミ収集所に置かれたラジオを持ち帰り、直したものも少なくない。不要になったラジオを届けてくれる人も多い。バブルの頃、アメリカから高級骨董品としてラジオが入ってきた。バブルが弾け、高価だったアメリカ製ラジオも相場が下がり、手が出るようになった。



クロスレイの1951年型モデル。自動車メーカーでもあったため早くから自動車用ラジオを製造。中央にスピードメーターのイメージ。右にチューニング用ダイヤル、左に電源スイッチ兼音量調節ダイヤル
 出典  Funmee!!編集部
クロスレイの1951年型モデル。自動車メーカーでもあったため早くから自動車用ラジオを製造。中央にスピードメーターのイメージ。右にチューニング用ダイヤル、左に電源スイッチ兼音量調節ダイヤル


基本的にはアメリカ製と国産ラジオを蒐集しているが、デザイン的には国産を贔屓していると言ってはばからない。

 

「アメリカ産のゴテゴテと飾り付けたデザインは無駄。合理性に欠く。いらんものはつけるなと言いたい」

 

たとえば、ダッシュボードラジオと呼ばれるクロスレイのラジオがある。これをゴテゴテしたデザインと見るか、美しいと思うか。同じことがRCAビクターのポータブルラジオにも言える。化粧品を入れるような革張りケースで、日付変更線を示した世界地図を配している。このラジオが販売されたのは1953年。日本航空が日本の航空会社として初めて国際路線(東京⇔サンフランシスコ)を就航した年に、かの国では世界一周の旅に持ち出したくなるようなラジオを開発していたとは。



RCAビクター(ラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ)のポータブルラジオ(1953年製)
 出典  Funmee!!編集部
RCAビクター(ラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ)のポータブルラジオ(1953年製)
上ブタの裏面に配した世界地図には等時帯、帆船、プロペラ機のほか、富士山と思われる山も描かれている
 出典  Funmee!!編集部
上ブタの裏面に配した世界地図には等時帯、帆船、プロペラ機のほか、富士山と思われる山も描かれている


ことデザインに関してはアメリカ製に辛辣な意見を吐く中村さんだが、その技師力の高さと素材の良さには感服しているという。

 

「アメリカ産と国産では金属の質がまったく違います。国産ラジオは金属部品が錆びやすく、スイッチの接触不良が目立つ。その反対がアメリカ産。アメリカのラジオからは資源の力と高い技師力を感じますなあ」



ゼニスラジオが1950年代に作った、目覚まし時計付きの小型真空管ラジオ。右がラジオのダイアルで、左が目覚まし時計
 出典  Funmee!!編集部
ゼニスラジオが1950年代に作った、目覚まし時計付きの小型真空管ラジオ。右がラジオのダイアルで、左が目覚まし時計


国土が広大なアメリカは鉄などの金属の埋蔵量も豊富。木製ケースに加工する、ウォルナットに代表される硬い木も多く自生する。ラジオひとつとっても資源力の差が歴然としているというのだ。しかるに日本はどうか。資源が潤沢ではないがゆえに簡単に作ろう、より合理的に作ろうという国民性がラジオにも強く反映されていると中村さんは分析する。

 

蒐集する300台の内、200台はレストア済みなので、好みのラジオの音を聴かせてもらえる。アメリカ製真空管ラジオでクラシックやジャズを聴いたら、当時の人々が親しんだ音とほぼ同じ音を体感できるはずだ。中村さんの気分次第では、野外で聴かせてもらえるかもしれない。



アドミラル(1934年設立)の1948年製真空管ラジオ。キャビネット右上のボタンを押すとダイヤルが飛び出し、スイッチが入る。反対にダイアル板を収納するとスイッチが切れる仕組み
 出典  Funmee!!編集部
アドミラル(1934年設立)の1948年製真空管ラジオ。キャビネット右上のボタンを押すとダイヤルが飛び出し、スイッチが入る。反対にダイアル板を収納するとスイッチが切れる仕組み

アメリカ製真空管ラジオ受信機の名機33機を1冊に。COLLINS,HALLICRAFTERS,HAMMARLUND,NATIONALなど、当時の人気機種たちをオールカラーで紹介しています(回路図収録CD-ROM付)。


■プロフィール

中村邦夫さん

 

ラジオコレクター、中村ラジオ博物館館長。小学生のころからラジオに熱中。高校でアマチュア無線部に在籍しラジオ作りに夢中なった。'90年代中頃、世の中へコンピューターが浸透するのとともに、多くのラジオが忘れ去られてしまうことに気づき、蒐集し始めた。2011年4月に「中村ラジオ博物館」を開館。アメリカ製や国産の真空管ラジオやトランジスタラジオなどを収蔵。道楽会館の看板も掲げており、ラジオとは関係ないジュークボックスなども並ぶ。

 

 

中村ラジオ博物館

 

京都府福知山市大江町二俣528

TEL:090-1154-9203

開館時間:10:00〜16:00(土日のみ開館、平日は要予約)

入館料:無料

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)



■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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2018年4月27日
Funmee!!編集部
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