【ポケットの中の博物館】#05 至高の遊び道具はヴィンテージ・トラクター


好きなものを蒐集し、動くように整備して、使い愛でる人たちがいる。連載「ポケットの中の博物館」では、彼らの集めた物を通して、趣味に人生をかけるに至った価値観をつまびらかにしよう。

 

北海道音更町に、半世紀も前に製造された貴重なトラクターのエンジンを直し、再塗装して動態保存しているオールドトラクター保存会がある。彼らの後世に残したいという思いを取材した。



エンジンを再生し、再塗装したレトロ車

色とりどりの古いトラクターを動態保存。手前のマッセイ・ファーガソン以外は、すべてオーバーホール&再塗装済み

 出典  Funmee!!編集部


北海道十勝平野のほぼ中央にある音更町。この町に半世紀以上前に造られたトラクターを動態保存している団体があるという。

 

行ってみると、赤や青や緑のトラクターが10台並んでいた。1台だけ塗装がはげて、年季が入った感があるクラシックカーが止まっている。けれど、それ以外はどれもこれもデザインこそレトロだが、塗装が真新しく、製造から50年以上経っているようには見えなかった。



2台とも昭和38年生まれのマッセイ・ファーガソン。エンジンをオーバーホールした後、塗装職人がサビや外装をきれいにはがして再塗装を施した

 出典  Funmee!!編集部


「赤い機種も、その隣のボロボロのも、マッセイ・ファーガソンが、昭和38年にイギリスで製造したトラクターです。塗装こそ薄くなっていますが、エンジンは一発でかかります」というと、茂古沼一さんはエンジンをかけてくれた。

 

「ブルルン!」

 

色あせて朱色に変色したトラクター以外は、茂古沼さんがすべてエンジンをオーバーホールし、壊れた部品を交換した。塗装だけは外注で、サビや外装を落とし、塗装屋に塗り直してもらった。タイヤも交換済みなので、とてもオールドトラクターとは思えなかった。

 


機関車みたいな音がすると評する昭和36年頃製造のランツ。左は20馬力、右は28馬力。共に2サイクル単気筒エンジン。トラクターでは珍しい単気筒エンジンを搭載している

 出典  Funmee!!編集部


グリーンのトラクターといえば、アメリカのジョンディアが有名だが、ここにある2台はドイツ製だ。

 

「ランツが昭和36年頃製造したトラクターです。その5年前、ジョンディアに買収されたため、ランツの製品はジョンディアと同じグリーンに塗られるようになりました。青いトラクターは、昭和40年製カウンティ(英国)の四輪駆動。前輪と後輪に同じサイズのタイヤを装着した、珍しいトラクターです」



左は昭和40年型フォード・ニュースーパーデキスター。右はカウンティの昭和40年型4WD

 出典  Funmee!!編集部


2014年7月、茂古沼さんは、薩田信一さんとふたりで半世紀以上前に造られたトラクターを動態保存するオールドトラクター保存会を設立した。茂古沼会長は10台。薩田事務局長は3台。それぞれ所有しており、年に一度自慢の愛車を展示するイベントを開催している。



高価だったからこそ後世に残したい

オールドトラクター保存会会長・茂古沼さん(左)と、事務局長・薩田さん(右)

 出典  Funmee!!編集部


歴代のフェラーリやポルシェを集めているのなら理解できるが、なぜオールドトラクターを動態保存しているのか。ふたりに尋ねた。

 

「当時農家だった私が初めてトラクターを買ったのは昭和36年。まだ馬で田畑を耕していた時代、この地区でいち早くフォードの32馬力を導入しました」

 

102万円もしたトラクターが翌年壊れた。修理してもらおうにも高くて頼めなかった。子どもの頃から機械いじりが好きだった茂古沼さんは、壊れた部品を入手し、自分で直すことにした。その後もいろいろな外国産の中古トラクターを買い集め、修理していくうちにエンジンの構造を習得。

 


機械いじりに熱中する茂古沼さん

 出典  Funmee!!編集部


国産メーカーは部品を8年程しか保管しないが、外国産は半世紀に渡り供給を受けることができる。マッセイ・ファーガソンの場合、国内になければ、イギリス本国から取り寄せることも可能だそうだ。

 

「シリンダーライナーはメーカー毎に経が異なるため、加工屋に頼み、加工してもらいます。なかには自分で作る部品もありますが、なかなか揃わないものも多く、簡単ではありません」



古いカタログを含め、エンジンなどのオーバーホールに必要な部品やパッキン紙を、倉庫に保管している

 出典  Funmee!!編集部


一方、薩田さんは、昭和39年に従兄弟と共同でマッセイ・ファーガソンのトラクターをアタッチメントを含め、250万円で導入した。

 

「高価なトラクターを大切にしたいし、後世に残したいという思いもあり、会長とオールドトラクター保存会を立ち上げました」

 

ダットサンのブルーバードが58万3,000円だった昭和38年。車体価格が100万円のトラクターがどれほど高嶺の花だったか想像に難くない。だからこそきちんと修理して、動態保存しているのだそうだ。



薩田さんは農作業用のアタッチメントも複数所有している。トラクターの後部に装着し、畑を耕したり、作物を収穫する

 出典  Funmee!!編集部


最新鋭の外国産トラクターの中には、ターボチャージャーを配していたり、タッチパネルで簡単に操作できるなど、至り尽くせりの高機能モデルもある。それはそれで興味が尽きないが、回路が複雑で、壊れようものならなかなか自分では直せない。

 

そこへ行くと半世紀前に製造された前近代的なトラクターは、部品点数が少なく、構造も単純極まりない。にもかかわらず、近年はパッキンが壊れたら、直すよりも買い替えたほうが早いと考える若い世代のサービスマンが台頭してきたこともあり、修理を断られるケースが増えてきた。

 

ところが、昭和13年生まれの茂古沼さんの場合、エンジンの構造が頭に入っていることもあるが、エンジンのパーツとパーツの間に挟むパッキン紙を入手する術も、それを自分で切り取って修理する技も、古いトラクターに対する愛着心も持っている。



倉庫には、フォード製やマッセイ・ファーガソン製など、再生したエンジンをいくつも隠し持っていた。すべてオーバーホール済み

 出典  Funmee!!編集部


エンジンのオーバーホールは3日、塗装は10日。2週間もあれば、オールドトラクターを復活させることができると茂古沼さんは豪語する。

 

「私のトラクターも会長に直してもらいました。動かないトラクターは模型と同じ。魅力がありません」といって薩田さんは微笑んだ。




■プロフィール

オールドトラクター保存会

2014年7月、会長・茂古沼 一さんと、事務局長・薩田信一さんのふたりで設立。東京や茨城、栃木、滋賀など、道外からも入会希望者がいて、準会員(古いトラクターを持っていない人)も含め、40名を超える会員が集まった。

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:幸坂 等(Hitoshi Kousaka・HTS IMAGING)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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