【ザ・使い込んでる部】#08 吹き続けて24年!ヴィンセント・バックのトロンボーン


使い続けるのには理由がある。愛し続けられるのには想いがある。そんな趣味にまつわるこだわりの“私物”を紹介する「ザ・使い込んでる部」。

 

連載第8回目はデザイナーの北山瑠美さんが24年間愛用するヴィンセント・バックのトロンボーンをご紹介します。ひとつの楽器に惹かれれば惹かれるほど、新しい相棒が欲しくなるというもの。しかし北山さんは「私が吹くのはこのトロンボーンだけ、と決めたんです」と話します。その言葉の背景には、トロンボーンに対する北山さんの誠実な思いがありました。



「一番難しそうだから」始めたトロンボーン

たまに練習に訪れるという多摩川の河川敷で、愛用のトロンボーンを手にする北山さん

 出典  Funmee!!編集部


トロンボーンを初めて吹いたのは小学校5年生の時。学校でクラブ活動が始まり、迷わずブラスバンド部に入りました。年の離れた兄が映画音楽やクラシックをずっと聴いていて、トランペットも吹いていたので、その影響もあるんでしょうね。

 

そこで私はトロンボーンを選んだんです。理由は「一番難しそうな楽器」だったから。トランペットやホルンなどは、音を出すためのピストンやレバーがあるじゃないですか。だけどトロンボーンはパッと見、どこでどう音を出すのかが分からない(笑)。スライドと呼ぶU字型の管も、長くて面白そうだなと思って。

 

実際、難しかったです。でもそれ以上に楽しかった。5mmスライドを操作するだけでピッチが変わるんですけど、そこで音を当てるのも刺激的でしたし、何より自分にとって最も格好いいと思っていた楽器を持っているだけで嬉しかったんです。すぐにトロンボーンが大好きになりました。



演奏し続けるという決意ゆえのブランド

北山さんのトロンボーンはテナーバス。モデルは「Stradivarius」

 出典  Funmee!!編集部


中学の吹奏楽部に入ると、楽器は個人持ちがほとんどなんですね。それでヴィンセント・バックのトロンボーンを両親に買ってもらったんです。そうしたら部内がちょっとざわついたんですよ(笑)。初心者向けの楽器も豊富なヤマハを選んでいるコが多かったからかな。私は高校でも続けると決めていたので、本格的な楽器にしたいなと思ったんです。

 

ヴィンセント・バックはアメリカの金管楽器のブランド。クラシック奏者の方がよく使っていらっしゃいますね。音に厚みと安定感がありますし、楽器屋さんにも勧められてこれにしたんです。

 

私は中学生で「将来はデザイナーになる」と決心していました。ゆくゆくはデザインが中心になるのだから、今しかできない音楽を一生懸命やりたかったんです。

 

だから美大に進もうと考えていましたけど、美術部には入りませんでした。高校でも、もちろん吹奏楽部。ただ副部長だったので、ものすごく忙しかったんです。いつも終電でしたよ(笑)。授業の後、練習して、それから定期演奏会の打ち合わせ。加えて、演奏会のパンフレットの制作もやらせてもらっていましたから。



大学時代のビッグバンドでCDデビュー!

「第32回 山野ビック・バンド・ジャズ・コンテスト」の入賞バンドの演奏を収録したCD

 出典  Funmee!!編集部


大阪芸術大学に進学してもやっぱり音楽がやりたかったので、ジャズ研究会に入りました。私、おしゃべりなんですけど、自分のことを話すのはあんまり得意じゃないんです。でもトロンボーンを吹いていると、音を通じて自分自身を表現できているような気がする。

 

トロンボーンって、人の声に最も近い楽器なんですよ。自分にとっても、中低音の響きが心地いい。メロディというより和音を奏でて合奏の厚みを出すので、あまり目立たないのですが、裏で支えている感じが好きなんですよね。

 

当時は毎年、学園祭に向けて、バンドを10個くらい掛け持ちしていて、『フューズ・ボックス』というビッグバンドでは、「第32回 山野ビック・バンド・ジャズ・コンテスト」で特別賞をいただき、CDも出させてもらいました。

 

このコンテストは、全国の大学生バンドにとって聖地のようなもの。「入賞常連校として期待がもてる」というコメントもいただいたのに、これ以前も以後も出場できていないので、大阪芸術大学は「伝説の一発屋」と呼ばれているみたいです(笑)。



自分が変われば、ひとつの楽器でも出せない音はない

最近の目標は金管五重奏をやることだそう

 出典  Funmee!!編集部


楽器を続けていくと、だいたいみんな新しいものを買うんですよ。私のトロンボーンはテナーバス。中高の吹奏楽部で演奏していたクラシック系の楽器なので、大学から始めたジャズにはあまり向いていないんです。高音が出せるテナーが欲しい時期もありましたけど、ビッグバンドってトロンボーンが4人くらいいるから、低音が吹けるパートも必要になってくる。そうすると、テナーバスの音が意外にフィットするんです。

 

中学生の頃、テナーバスだと音域的に不可能な高音を出さなければいけないソロパートがあったんですね。先生は「頑張れ」って言いましたけど、物理的に無理だった。結局、うまく吹くことができなくて、とても恥ずかしく悔しい思いをしたんです。

 

でも冷静に考えると、1オクターブ下げて演奏したいとか、ホルンに吹いてもらいたいとか、先生に提案すればよかっただけの話。音が出ないから楽器を買うという解決法は、根本的な解決になっていないなって、その当時思ったんです。

 

それに、もし高い音を出したいのなら、そのための練習をすればいい。マウスピースを変えてみたり、コツを聞いて試したり、自分が上達すればいい。テナーバスだから高い音が出せないというのは、言い訳のような気がするんです。

 

現在では友人の結婚式に呼ばれて演奏することが多いです。あと、どなたかのライブへ行ったり、ストレスが溜まったりすると、無性に吹きたくなるんですよ。そんな時は多摩川へトロンボーンをもって出掛け、ひっそり吹いています(笑)。

 

このトロンボーンは、両親に買ってもらった宝物。他の楽器に浮気することなく、誠実にお付き合いした方が、私自身も嬉しいし、両親にも恩返しができている気がするんです。だから私のトロンボーンはこれ1本。これからも変わることはありません。




■プロフィール

北山瑠美さん

1981年静岡県生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、インテリアやオーガニックコスメのグラフィックデザインを行う。2013年よりSmiles:に勤務。食べるスープの専門店『Soup Stock Tokyo』や、ファミリーレストラン『100本のスプーン』などのデザイン、店舗VMDなどを手掛けながらも、日本の文化や新しい価値を探しに休日は旅に。秘境を旅するデザイナーとしてMYLOHASで連載を持つ。VMDインストラクター、インテリアコーディネーター、ビアソムリエでもある。




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文:大森菜央 (Nao Ohmori)

写真:六本木泰彦 (Yasuhiko Roppongi)



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Funmee!!編集部

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