【ポケットの中の博物館】#12 日本一の富士山に魅了された富士山コレクター


人はなぜモノを集めてしまうのか。物欲なのか、独占欲なのか。彼らコレクターたちのポケットの中を覗く連載「ポケットの中の博物館」。

 

第12回目は、富士山に魅了され、富士山にまつわるアイテムにこだわる島本脩二さん。かつて小学館の編集者だった島本さんは、食器、封筒、本、花瓶、Tシャツなど、富士山が付いたものを蒐集しているという。


富士山に魅了され、「富士モノ」を集めるようになった背景と、富士の魅力を尋ねた。

 


富士山を望む家で、富士山と暮らす

大小さまざまな「富士モノ」の皿。凝った意匠の皿もあれば、太い線だけで凛としたその姿を表現したものもある

 出典  Funmee!!編集部


富士山が見える土地に住んでいる人は大勢いるが、「富士山と暮らしている」と言う人はそうそういないと思う。富士山が正面に見える多摩川沿いのマンションの高層階で、本人が「富士モノ」と呼ぶ富士山コレクションに囲まれて暮らしている。

 

とくに食器棚には富士モノが集中していた。大皿、小皿、豆皿、急須、酒器、箸置き、コーヒーカップも富士モノ。側面に富士山を描いた湯呑みも多い。



最初は特急富士のコーヒーカップとご飯茶碗だけだったが、徐々に増え始め、今では食器の大半が富士モノに

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なかには思わず「天晴!」と膝を打ちたくなるグラスもあった。底に富士山を模した突起があり、山頂付近まで飲み物を注ぐと、頭を雲の上に出した富士を掌の中で拝めるというわけだ。富士好きがこのグラスにウイスキーを注げば、さぞや旨い酒を飲めるに違いない。



底に富士山を象った突起があるグラス。山頂付近までウイスキーを満たせば、夕焼け空に映える富士を掌の中で再現できる。手にした瞬間、思わず笑みがこぼれる器だ

 出典  Funmee!!編集部


「富士モノでフルコースを出せるぐらい食器が揃っています。ところが、なぜか丼だけがないんです。丼に富士山を使ってはいけない決まりがあるのではないか、と思いたくなるぐらい富士丼が見つかりません。一時期カツ丼を食べられなかったので、仕方なくふつうの丼を買いました」と島本脩二さんは微笑んだ。

 

天気がよければ富士山を一望するベランダには、富士山の火鉢や植木鉢が置かれていた。『富士登山の教科書』、『日本の名画富士山』など、書架にも富士モノが収まっている。『初めての富士山』(小学館)は島本さんが編集した、富士山写真の第一人者、大山行男さんの写真集だ。現在島本さんはフリーの編集者だが、長年小学館の編集者として数々の名著を企画編集してきた。



1992年に島本さんが企画編集した大山行男さんの写真集『初めての富士山』(小学館)。島本さんはタイトルを考えるため、42歳の頃、初めて富士山に登った

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富士山が表紙を飾った古書も蒐集している。左から『昭和5年度版 鉄道旅行案内』(鉄道省)、『大東京と近郊』(昭和12年、三省堂)、『昭和11年度版 鉄道旅行案内』(鉄道省)

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仕事柄旅に出る機会も多い。旅先で骨董市や古本屋、古道具屋、古着屋を覗き、富士モノを蒐集してきた。

 

2016年9月、「富士山と暮らす展」と題する展示会を地元ギャラリーで開催した。島本さんの富士モノを展示したのだが、壁一面に富士山の絵葉書を飾った。撤収時に枚数を数えたら650枚あったそうだが、実際にはその3倍を蒐集している。



富士山のポストカード。これらが「富士と暮らす展」会場の壁面を占領した。作られた時代も撮影場所もまちまちだが、モノクロとカラーの絵葉書650枚が一堂に会した

 出典  Funmee!!編集部

1冊の本を出すため富士山に惚れ込んだ


浦和育ちの島本さんは富士山の絵を描くのが好きな少年だったが、富士山をはっきりと意識するようになったのは30歳を過ぎてからだ。1982年に刊行された『日本国憲法』(小学館)の編集を始めたことがきっかけで、富士山に強い興味を持った。

 

『日本国憲法』を出すにあたり、条文を大きな活字で組み、29枚の写真を見開きで掲載し、読みやすい本にしようと考えた。その写真には日本の象徴と言われる富士山を載せたい。けれど、誰もがイメージする桜と雪の富士山では面白くない。その麓では太古の昔から人々の営みがあったことを感じられる写真を使いたい。

 

ところが、写真探しが難航した。雪がなく、民家が写っている写真がなかったのだ。6人目に会った写真家が、意図した写真を撮っていた。



1982年の発売以来、ミリオンセラーとなった『日本国憲法』(小学館)。この本には日本の四 季や衣食住など、29枚の写真が掲載されているが、そのなかの1枚に島本さんは斉藤庫山さんが撮った、富士吉田から見た富士山の写真を選んだ

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「富士山と暮らしはじめたのは、本に載せたい富士のことを考えていた頃からです。芸術・デザイン、自然科学、社会科学など多面的な富士の面白さに目覚めたところで、国鉄の特急列車『富士』の食堂車で使われていた食器を骨董市で見つけました。白い磁器にブルーで富士の意匠があしらわれたコーヒーカップとご飯茶碗を買いました。富士と暮らすようになったのはそれからです」

 

憲法の本を編集してから10年後、大山さんの写真集『初めての富士山』を作ろうと思ったものの、タイトルが思い浮かばなかった。新しい写真集に相応しいタイトルにしたかったが、いくら考えても出てこなかった。

 

「富士山に登りながら考えればいいタイトルが浮かぶのではと思い、富士山に登ることにしました。6合目までは考えながら歩けたのですが、それ以降は体が辛くてそれどころではなかったですね」

 

その後2度登ったことで、「富士山好きの病」は悪化していった。



和菓子の老舗とらやの『四季の富士』という羊羹。「この羊羹は四季折々の富士の山容を表していて、これは秋バージョン」と島本さん

 出典  Funmee!!編集部


富士モノの中に『富士山を知る事典』(日外アソシエーツ)という蔵書がある。597ページにも及ぶこの本は、地形、動植物、水、文学、交通、観光など、全14項目で構成されている。

 

島本さんによれば、富士山には人文科学、自然科学それぞれ放射状に、枝葉がたくさん広がっているから面白いのだそうだ。各ジャンルの専門的な研究も行われており、書籍も数多く出ている。



「富士モノ」の手ぬぐい。こちらも「富士と暮らす展」に展示された。中央下から2番目は、銭湯絵師の丸山清人さんの作品

 出典  Funmee!!編集部


「ところが、暮らしの中のモチーフとしての富士山は、それほどメジャーではありません。だからこそ、こんなところに富士山の意匠を使っているのかという意外性も面白いし、暮らしのデザインに上手に取り込んでいるなあと感心させられます」

 

最近入手した中では、ハンカチとティッシュ入れがお気に入りだ。

 

「ハンカチを被せれば富士山になるという発想には、意表をつかれました。若くてセンスのあるデザイナーが面白い発想でやってくれているので、これからも楽しみです」



ティッシュケースなど、「富士モノ」の雑貨も多い。左から文具メーカー・菅公工業が考案した「ふじふせん」、池ヶ谷知宏さんがデザインした「ティッシュケース」、中川政七商店の「印香富士山」

 出典  Funmee!!編集部


島本さん自身にも楽しみがある。富士山の絵葉書を編集し、本にまとめられないものだろうか。それが目下、富士山好きの編集者島本さんが耽っているテーマだ。




■プロフィール

島本脩二さん

富士山コレクター、フリー編集者。小学館で雑誌「GORO」、「写楽」などの編集に携わり、書籍・矢沢永吉『成りあがり』などを企画編集をしてきた。その後、『日本国憲法』を手がけたことがきっかけで富士好きに。「『富士モノ』蒐集は、連れ合いも一緒に集めているので、家庭内はピースです」

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)



■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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