【僕のサン=サーンス II】#10 楽器職人の工房へ!やりがいを求めて独立した「楽器製作者の志」


いつの日かの憧れは、膨張に拡張を重ね……。

名曲『白鳥』を弾きたい一心で突き進む連載企画「僕のサン=サーンス」。

 

昨年11月の『弦楽器フェア』で出会った楽器職人の工房取材の後編。決して楽ではない独立工房に賭けた楽器製作者の志をたずねました。それは生き方の指南のようにも聞こえました。 




自宅の一室を改装した『こめいヴァイオリン工房』ができたのは、いまから3年前の2015年。米井さんが41歳になる年だった。独立と言えば華々しく聞こえるが、妻も子もある立場で自営の工房を持つことに不安はなかったのだろうか?

 

「どう転んでも生きていけると思ったんです。何より自分に投資してきたもの、培った技術や経験は減るものじゃないですから」



作業中部屋を暗くし手元だけに光を当てるのは、「工具で削った角度を測るのに便利だから」

作業中部屋を暗くし手元だけに光を当てるのは、「工具で削った角度を測るのに便利だから」

 出典  Funmee!!編集部


楽器製作を学んだイタリアから戻った米井さんは、大手楽器メーカーの工房やイギリスのディーラーで修理と調整に励んだ。

 

「その仕事はいまでも勉強になるし、やりがいも感じます。でもやっぱり、楽器をつくりたい欲が満ちてきました。自分の可能性を広げるために。様々な経験を積んだ上で10年をめどに独立しようと決めていたので、40歳前後の工房設立は思い描いた通りでもありました」



製作途中や修理済みのバイオリンたち。仕上がりの美しいこと

製作途中や修理済みのバイオリンたち。仕上がりの美しいこと

 出典  Funmee!!編集部


『こめいヴァイオリン工房』が行うのは、楽器製作と調整および販売。地方で開かれる調整会にも定期的に訪れる。依頼はホームページと口コミが半々だが、少しずつ間口が広がっているそうだ。

 

ちなみにバイオリンの工房と名乗った場合、一般的に製作や修理を請け負うのは、同じルーツを持つバイオリン、ビオラ、チェロとなる。米井さんがこの2年間に工房で仕上げたのは、バイオリンが1本とチェロが2本。いずれもまだ売れていないが、日本の工房では珍しいことではないらしい。

 

「この仕事を続けていくには売り上げを無視できませんが、会社員時代より儲けるために独立したわけじゃないし、収入に関して言うなら、やりがいとのバランスを大事にしたいです。目指すところは、収入よりやりがいに重きを置けるようになることですね」




ひとつ聞いてみたいことがあった。クラシック楽器の世界では、ことさら年代物が重宝されるので、そもそも新作の需要があるのだろうか?

 

「確かに、昔の楽器と対決するのは難しい。特に日本のプロ演奏家は新作を使わない傾向が顕著ですね。しかし海外プレーヤーはいくらかリベラルです。イタリア留学時代にも経験した、自分の感覚を信じるという点で。どちらにしても、自分に何ができるかはいまもこれからも悩み続けると思います」

 


ビオラの表板の裏側。ここまですべすべに削り上げる手間に目がくらむ思いがしました

ビオラの表板の裏側。ここまですべすべに削り上げる手間に目がくらむ思いがしました

 出典  Funmee!!編集部


板を掘り始めるのは内側から。なぜなら弦の振動を増幅させる弦楽器は、内側の造りが響きの鍵を握るから。これはミラノの専門学校時代に学んで納得した、米井さんの流儀だ。

 

「自分にできることとして、チェロの製作に力を入れていこうと考えています。物理的にバイオリンより大きいので労力がかさむし、演奏者の絶対数が少ないという難点もありますが、チェロの振動の伝わりが好きです。音域も自分の性格に合っているような気がする。改めてちゃんと弾き方を習いたいと思っているところです」

 


削った板の厚みは、指で叩いた音の高さと振動で仕上がりを確認するそうです

削った板の厚みは、指で叩いた音の高さと振動で仕上がりを確認するそうです

 出典  Funmee!!編集部


米井さんと出会った昨年11月の弦楽器フェアで、こんなことがあったそうだ。

 

「あのフェアで試奏してくれたある若い男性、かなり上手な方の演奏が、感覚的に僕のチェロに合っていたんです。そのとき初めて、この人に弾いてほしいと思いました。ご本人も欲しくなったと言ってくれて。そういう瞬間に立ち会えることがこの仕事のやりがいだと感じることができました」



こめいヴァイオリン工房のチェロは1本約150万円。作業現場を見て、米井さんの話を聞いた後では、むしろ安いと感じました

こめいヴァイオリン工房のチェロは1本約150万円。作業現場を見て、米井さんの話を聞いた後では、むしろ安いと感じました

 出典  Funmee!!編集部


楽器好きとしてとても美しい話だと思った。幾多の演奏家に愛され続けてきた古い楽器も素晴らしいが、新作を自分の音に育てていく作業からもかけがえのない響きが生まれるだろう。だから自分もいつか米井さんの作品を弾きたい。職人に認めてもらえる弾き手になりたいと、あるいは職人として独立するよりハードルの高い話だろうけど、それはチェロに向けた僕の新たな憧れになった。



「ヘタクソでもいつか買っていいですか?」と問う素人に、「大事に扱ってくれれば」と米井さんは優しいのでした

「ヘタクソでもいつか買っていいですか?」と問う素人に、「大事に扱ってくれれば」と米井さんは優しいのでした

 出典  Funmee!!編集部


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取材協力:こめいヴァイオリン工房

文:田村十七男(Tonao Tamura)

写真:上石了一(Ryoichi Ageishi)




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Funmee!!編集部

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