鉄道模型が織りなす美世界! 庭園でミニチュアに命を吹き込む、坂本敬洋さん
『庭園鉄道』というジャンルをご存知ですか? 屋外の庭などに作る鉄道模型で、実際に景色の中を走る姿は鉄道模型ファンではなくても、テンションがあがってしまいます。欧米では古くから楽しまれている遊びなんだとか。
今回は鉄道模型にハマり、ついには壮大な庭園鉄道も作ってしまった『箱根模型工房クラフト』の坂本敬洋さんにその魅力を教えてもらいました。
小さな小さな鉄道模型との運命の出会い
—— 坂本さんは元々グラフィックデザイナーだったそうですね。鉄道模型や庭園鉄道との出会いは?
20代後半くらいのときに、鉄道模型の中でも1番小さいサイズの『Zゲージ』に出会ったんです。それに僕が惹かれちゃったんですよね。「この模型、机の引き出しに入れられるぞ!」って、感動したんです。
—— 電車が好きだったんですか?
物作りは好きでしたけど、いわゆる“てっちゃん”ではなかったですね。Zゲージのサイズ、色や形に惹かれました。
その当時は自分でデザイン会社をやっていたのですが、仕事終わりにコソコソ模型作りを始めて『アクアリウムトレイン』という作品を作りました。それをWEBで公開したら反響があって。「じゃあ、お店をやろう」という話になり、都内で始めたんです。
箱根の森で、おいしい空気を吸い込んで理想の世界を創る
—— いまはヨーロッパの風景をモチーフに制作されることが多いとか……。
ヨーロッパの景色が好きなんですよ。キレイじゃないですか? 30歳を過ぎてから初めて行ったのですが、もうびっくりしちゃって。テレビで見ているのと全然違うんですよね。
「Zゲージの鉄道模型が動いている!」って感動したんです。とにかくかわいくて、トコトコって。世界観がいいですよね。
模型でも、いろいろな物が動いたり、光ったりするのが好きなんです。僕の作品は一つひとつは大雑把な作りだけど、俯瞰して見たときに“ひとつの世界”になるように意識しています。
—— その後、箱根に移られたんですよね?
東京で仕事しているときにね、「よーし、今日はここまで」ってドアを開けると朝4時とかだったりして。モデラーさんってみんな同じだと思うのですが、時間ではなくて、納得するまで作るんですよね。
僕も模型やミニチュア制作が本業になると、ずっと作り続けるわけじゃないですか。好きなことだから苦ではないんだけど、作業が終わると朝みたいな生活を毎日続けるとね。そんな生活を繰り返しているうちに、たまには森の空気を吸いたいと思ったんです。それで箱根に制作拠点を移しました。
これからも描き続ける、坂本さんだけのミニチュア世界
—— それにしても、すごい庭ですね!
箱根にくる前から、この庭はやりたかったんですが、この家を建ててくれた土木屋さんの親方が、一肌脱いでくれて。その人がいなかったら実現してないので、本当に縁を感じますね。
—— このお庭はもう完成しているのでしょうか?
全然です。ロープウェイもかけたいし、電車ももっと増やしたいですし。僕はやっぱり、光ったり動いたりするのが好きなんですよね。いまは教会から音楽がなったり、風車がまわったり、駅舎に灯りが点いたりするのですが、夕暮れになると煙突からポッポッポって煙が出て建物に火が灯るのをイメージしています。そこに蛙とかホトトギスの鳴き声とかが重なったりして。
—— 生きている感じですね。
そうそう。模型だけど、生命感があるでしょう。上から見たときにひとつひとつの街に光が入っているとか、飛行機で飛んだときに下に夜景がみえるとか、そういう世界観が好きなのでそれをこの庭でできたらいいなぁって思っています。
『庭園鉄道』は、家族で楽しめる最高の趣味
—— 庭園鉄道の魅力は?
カッコイイ言い方をすると、ミニチュアはエンターテインメントのポテンシャルを持っていると思うんです。『庭園鉄道』も日本では切り崩せていない趣味のジャンルかもしれません。
—— これからもっと広がる?
『庭園鉄道』って楽しいものなんですが、それがまだまだ認知されていないんですよね。例えば、奥さんがガーデニングをしているご家庭ってありますよね? そこの間に電車を走らせるだけでも、本当に景色が変わるんです。バラのアーチを作ってみてもいいし。「お子さんがいて、庭で遊ぶんだったらコレに尽きるでしょ!」って思うくらい(笑)
—— 本当に大好きなんですね(笑)
ジオラマって一瞬を切り取っているから、景色が変わらないですよね。でも自然の中で鉄道模型を走らせると、景色も変わるし自然が手を加えてくれる。庭の山にも雪が積もったり、そこにウサギの足跡がついたりして。
—— リアルのウサギですか?!
そう、本物なんです! こういうのはジオラマ模型にはない贅沢。この上ない贅沢!
—— 想定外のことが起きそうで、一日中でも庭を眺めていられそうですね。
本当にそう。外のベンチに座っていたら何もしたくなくなるから、仕事が忙しいときは良くないかもしれないですね(笑)僕にとって、庭で鉄道模型に触れる時間は本当に特別な時間なんです。
■プロフィール
坂本敬洋さん
有限会社クラフトサカモト企画
箱根模型工房クラフト、ガーデンレイルウェイ・カフェ主宰
広告制作会社をへて、模型制作を開始。現在は箱根で模型の企画・制作・販売を行う箱根模型工房クラフトを運営。オリジナルの模型も作成している。敷地内のお庭にはヨーロッパの景色の中に電車が走る庭園鉄道がある。カフェが併設されており、子供から大人までが楽しめる場所。
箱根模型工房クラフト
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原567-23
TEL:0460-83-8881
営業:10:30~16:30
休み:平日(土日祝日のみ営業/HP営業カレンダーを要確認)
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文:荒木翔子(Shoko Araki)
写真:澤田聖司(Seiji Sawada)
