【僕のサン=サーンス】#03 チェロ試奏から購入へ。楽器店へGO!(後編)


オトナの特権フル発動で、いつの日かの憧れを、いまモノにする! Funmee!!がこの夏にお届けする、なかなか無謀な新連載「僕のサン=サーンス」の第3話は、チェロ購入の後編。

 

前回、200万円超の弓におののき、40万円するケースにビビりつつ、いよいよチェロの試奏へ。しかしこの男、チェロ経験ほぼゼロ!?



最高2億円超のクレイジーなチェロ価格


ところでチェロの相場ってご存知ですか。購入前にざっくりと調べてみたら、下は新品の10万円から上はヴィンテージの3,000万円まで。あるウェブサイトでは、バイオリンで有名なストラディバリウスが手掛けたチェロがオークションで2億円以上の値を付けたという記事を見た。あまりにクレイジーな話だ。


名匠が仕上げ大事に弾き継がれた木製楽器が素晴らしい音色を奏でることは僕も知っている。アコースティックギターにしても同様の価値観が根付いているからだ。



ほとんどの工程を手作業で仕上げる木製楽器は美しい。だから多少高価でも仕方ない……

 出典  Funmee!!編集部


でも、それは今の自分とは無関係な、見て見ぬふりして構わない世界だ。そんな言い分を弁護するように、ヤマハ銀座店には“ある程度、常識的”な価格帯のチェロだけが用意されていた。ありがたいことである。さすがは日本の良心と呼ぶべき総合楽器メーカーだ。

 

「試奏室に3台用意するのでお待ちくださいね」

 

管弦打営業課チーフ・堀江敏成さんの声はいつでも優しく響くから安心する。そう、このフロアにいくつかの試奏用個室が備わっている。やっぱりクラシックの世界は上等みたいだ。僕が慣れ親しんだギター屋ではたいがい、フロアのど真ん中で「はいどうぞ」と楽器を手渡される。そこで試し弾きするときの、誰かが聞いているかもしれない緊張感はいまだに慣れない。



「では、3台を弾きくらべてみてください」


そんなこんなで堀江さんが僕用の個室に運び込んだのは、ヤマハ・ブランドのブラビオール「VC7SG」と「VC20G」。前者は弓・ソフトケース・松脂がセットで税抜25万円の入門者向け。後者はワンランク上の税抜55万円。もう1台は、ヤマハが扱うドイツ・ブランドのキーフェレイズ「301」。こちらは税抜48万5千円。



「弓の持ち方はこうです」と堀江さん。ポカンとする素人

 出典  Funmee!!編集部


「では、解放弦を鳴らして弾きくらべてみてください」


なるほど、右手で弦を押さえずに鳴らせば、それぞれのチェロが持つ響き方がよくわかるということだな。


って、おい! お前はチェロを弾いたことがあるんか? そんなノリツッコミが痛々しい。僕には、チェロを習っているという小学3年男子の小振りなチェロを30秒くらい触れただけの経験しかなかった。それでいきなり買うという時点で当企画の無謀さが知れるわけだけだけど、それも今は無視していい。そしてまた実際にチェロを抱えてこの楽器の難しさを体感してしまったが、それもこの段では気にかけている場合ではない。



弾けてそうに見えて左手は弦を押さえていないところに注目……しないでください

 出典  Funmee!!編集部


ただ、そんなわけだから何台弾きくらべようと何かがわかるはずはなかった。しかし、堀江さんには申し訳ないけれどそれでよかった。なぜなら僕には、最初から購入を決めていたチェロがあったからだ。



自宅練習に最適な静寂のチェロ

パッと見、「何これ?」がカッコいいサイレントチェロ。最初から狙ってました

 出典  Funmee!!編集部


ヤマハのサイレントシリーズ。本来あるべき木製の胴を排除し、電気の力で音を増幅させる画期的なこの楽器は、いわばエレキギターと同じ仕組みだ。アンプにつながなければさしたる音は出ない。

 

それの何がいいのか? 密集した日本の住宅事情において、これほど自宅練習に適したものはない。楽器自体にアンプが備わっているから、練習中はイヤフォンで自分の演奏を聞くことができる。さらにはホール演奏を彷彿とさせるリバーブ機能も備わっている。外に向かって音を出したければアンプを用意すればいい。そんなユニークなサイレントシリーズをステージで使用するプロのミュージシャンもいる。



ヤマハのサイレントシリーズ。左からチェロ「SVC210」。同じくチェロ「SVC110S」。バイオリン「YSV104」。ベース「SLB100」。いずれもボディの輪郭だけを残したスケルトンデザインが特徴

    写真提供  ヤマハミュージックリテイリング

「ウチにある掃除機みたい」


というわけで、もろもろの事情を考慮してのサイレントチェロなのだ。大別すると2タイプ。チェロのフォルムを模した外枠を持つ「SVC110S」と、一見しただけでは何の楽器かわかり難い斬新なデザインの「SVC210」。前者は弓や松脂、ソフトケース等が付いて税抜29万円。後者は弓なしで税抜28万円。



左が「SVC210」、右が「SVC110S」。弾きくらべてわかったのは、どちらも薄いということのみ。脚の抱え込みで安定感を感じるのはフレームが長い「SVC110S」のほうだった

 出典  Funmee!!編集部

両者は糸巻き構造が違います。左の「SVC210」はギヤ式で巻きやすく、右の「SVC110S」は生チェロと同型ながらコツが必要、みたい

 出典  Funmee!!編集部


「チェロっぽくないほうは、ウチにある掃除機みたい」

 

場合によっては無礼に聞こえる感想を躊躇せず口に出せるカメラマンO氏は、どうあっても裸の王様にはならないだろう。あるいは、森の中の葦に向かって「王様の耳は……」と鬱憤を晴らしたりもしない。もしくは童話の類を一切読まずに育ったのかもしれない。

 

ふむ。実を言えば変化球狙いで「SVC210」を何となく気に入っていたのだが、続くO氏のセリフで僕の思いはパタンと覆ってしまった。



生れて初めて背負ったチェロは……


「それに、将来的に木のチェロを弾くなら形が似てたほうがいいでしょ」

 

確かに「SVC110S」はフォルムだけでなく、生チェロと同じ糸巻き機構を持っている。将来的に、か。それが訪れたとき、僕は自分の望みである『白鳥』を自由に奏でているのだろうか……。



そんなわけで将来を考慮して、より生チェロっぽい「SVC110S」を選びました

 出典  Funmee!!編集部


今は何もわからない。けれどひとつ確実なのは、専用スタンドや備品等を含み、堀江さんのご厚意で定価とほぼ同額にしてもらった“僕のチェロ”があることだ。生れて初めて背負ったチェロは、胴がないサイレントシリーズであれ、ずんと重かった。それ以上の実感は何もいらないと思えるほどに、僕の背中は将来で満たされていた。



マイチェロ一式背負ってヤマハ銀座店を後に。『白鳥』への長い旅が始まる!

 出典  Funmee!!編集部



【僕のサン=サーンス】#04 ところで“チェロ”ってどんな楽器? 【僕のサン=サーンス】#02 人生初のチェロ購入。楽器店へGO!(前編)


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文:田村十七男(Tonao Tamura)

写真:小澤義人(Yoshihito Ozawa)

制作協力:ヤマハミュージックリテイリング ヤマハ銀座店



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Funmee!!編集部

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