【ポケットの中の博物館】#13 集めたラジカセ5,000台!?うず高く積まれた家電のファクトリー


なぜ人は蒐集するのか。彼らのポケットの中を覗くことで、趣味を人生の中心に据えるに至った価値観をつまびらかにしていこう。

 

松崎順一さんは廃棄処理場や電気店を回り、ラジカセを救済しているラジカセ蒐集家だ。これまでに集めた数はざっと5,000台。直すものもあるが、大半が壊れたままだ。

 

廃棄処分寸前だった、スクラップ同然のラジカセをなぜ手元に置いておきたいのか。'70年代から'80年代に流行ったラジカセのどこに惹かれるのか。その魅力を語ってもらった。



ラジカセの圧倒的な存在感に惹かれる


その部屋は、“ラジカセの間”と化していた。カセットテープが貼られたドアを開けた瞬間、大小様々のラジカセが目に飛び込んできた。人がひとりやっと通れる通路の両脇も台所もテーブル周りも、ラジカセが天井までうず高く積まれていた。



エアパッキンに包まれたままのラジカセや、様々な意匠のラジカセなど、事務所はお宝に占領されていた。この場所をファクトリーと名付けている

 出典  Funmee!!編集部


電源を入れれば、懐かしいアナログの音楽を聞かせてくれそうだが、この部屋の住人、松崎順一さんによれば、大半が動かないという。

 

「ラジカセ全盛期だった、’70年代から’80年代に作られたものを集めています。ラジカセは可動部分がゴムベルトなので、30年前に作られた製品は劣化していて動きません」

 

蒐集品の数はざっと5,000台。分解後に洗浄したり、パーツを交換することでリユースしたモデルも一部あるが、使えないラジカセに部屋を占領されているというのだ。



ラジカセが初めて登場したのは1968年。ナショナルが1971年頃発売したこのモデルは、まだ出始めということもあり、造形的にとてもシンプル

 出典  Funmee!!編集部


なぜスクラップのラジカセを集めているのか。松崎さんに尋ねた。

 

「ラジカセには他の家電にはない、圧倒的な存在感があります。時代が生んだ自由奔放なインターフェース・デザインや、自由な発想でコンセプトを探求した、おもちゃ感覚の家電に魅せられました」

 

ある意味特殊な家電だったラジカセは、作れば売れる時代だった。同じメーカーでもあの手この手で、様々なターゲットに向けたモデルを矢継ぎ早に投入。何千万台ものラジカセが製造され、各家庭に浸透していった。ところが、恐竜のように瞬く間に絶滅。



ナショナルが1985年に発売したトリプルデッキのラジカセ。一度に2本のテープにダビングができるスグレモノだが、需要が少なかったのか、短命に終わった。デッキを3台搭載しているため、W5,750×H1,050×D1,050mmと異様に長い

 出典  Funmee!!編集部


「元々メカニカルな家電が好きだったこともあり、ラジカセが持つプロダクトデザインの魅力や時代感、質感に取り憑かれ、2003年にデザインアンダーグラウンドを設立。ラジカセを集め始めました」

 

デザインやコンセプトを比較することで、時代背景を知ることができる。そのために恐竜の骨を1本1本発掘するように、ディープでアンダーグランドなラジカセの蒐集にはまっていった。



廃棄物処理場でラジカセを救済する


松崎さんによれば、ラジカセには魅力が5つあるという。

 

まずは重量感。ポータブルオーディオと比べるとべらぼうに重い。その重さがいい音を創り出す。ふたつ目はオーバーサイズ。限界ギリギリのサイズを追求するポータブルオーディオとは反対に、ラジカセは巨大化していった。スイッチも大きく、押したときの心地よさやスイッチ音も魅力だ。



1980年前後、シャープがホームカラオケ用に開発した巨大なラジカセ。エコーなどの機能を搭載したこのラジカセの輸出仕様モデルが米国で大ヒット

 出典  Funmee!!編集部


3つ目は針式メーター。現代の家電にはまず採用されないメーターに機械フェチは虜になるという。4つ目はアナログ音。



1970年代、中高生の間で世界の短波放送を聴取するBCLが一大ブームになった。それを受け、ソニーではラジオの受信機能が充実したスカイセンサーシリーズを発表。写真は1976年発売モデル

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5つ目はカセットテープ。何十年前に録音した音源でもきちんと保存しておけば、今でも十分使える。テープメディアの卓越した特性に惹かれるだけでなく、書き込みができるカセットテープのデザインも楽しいのだそうだ。



1966年に国内で発売されて以来、様々なカセットテープが登場した。松崎さんは、懐かしいラベルのカセットテープ(未使用)も蒐集している

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そうした魅惑的なラジカセと地方の電気屋で出会えることもある。けれど、時間があれば廃棄物処理場を覗くことにしている。廃棄処理を待つ、雑多な家電の中に埋もれたラジカセに手を差し伸べ、救済するのだ。

 

無造作に置かれた廃棄物の中から垣間見える、その一部で型番を判断し、欲しければ業者と交渉して入手するのだそうだ。

 

「廃棄物処理場めぐりは格闘です。埋もれた中からラジカセを探すバトル。苦労してもラジカセと巡り会えないこともあります」



 出典  Funmee!!編集部

コンパクト収納に加え、スピーカーの分離が可能な1981年頃のソニーのラジカセ(W9,250×H2,450×D1,250mm)

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蒐集で海外へ赴くことも多い。中国には数えきれないほど通った。アメリカではフリーマーケットを活用。ヨーロッパではアンティークマーケットを渡り歩く。欧州には国産メーカーの輸出仕様モデルが流通しており、国内では見たことがない珍しい機種と出会えることもある。

 

シャープが1983年頃製造したGF-999というモデルがある。スーパーウーハーや選曲機能などを搭載したホームカラオケ用に開発された、同機の輸出仕様モデルがアメリカで流行し、黎明期だったヒップホップカルチャーを牽引したというのだ。

 

「10kgもある巨大なラジカセを背負い、フルボリュームでニューヨークの街を闊歩する黒人がたくさんいたと聞いています」



シャープGF-999。W7,450×H3,800×D1,750mm、重量10kgという巨大な姿

 出典  Funmee!!編集部


巨大化する一方、多機能のラジカセも誕生している。’70年代後半に登場したラテカセもそのひとつだ。ラジオ、テレビ、カセットデッキの3機能が一体化したラテカセは、ワンセグテレビやスマフォの元祖だと松崎さんは言い切る。



ラジオ、カセットテープレコーダーにテレビも付いた通称「ラテカセ」と呼ばれる複合家電(1978年の東芝製品)。茶の間にしかテレビがなかった時代、見たい番組を好きな場所で楽しみたいというニーズが高く、メーカー各社が競ってラテカセを開発した

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「ラテカセはすべての機能をリアルに合体させたため、巨大化しました。その設計思想をそのまま受け継ぎ、録音や動画、ラジオなどのアプリケーションに加え、通信機能も搭載し、ポケットサイズに進化したのがスマフォです。今日の家電のアイデアは、’70年代に生まれたと言っても過言ではありません」

 

時代の風潮に逆行するかのようなプロダクトを、松崎さんは誕生させようとしている。自ら電機メーカーを設立し、ラジカセの新製品をリリースする。1号機はモノラルモデルの予定。その後別の機種も開発する計画を温めている。デジタル全盛の時代に、テープメディアが蟻の一穴を開けられるのかどうか。松崎さんの今後の動向に目が離せない。



クラウドファンディングを活用して登場したMyway route-01。目標とした額の252%の支援を受け、プロジェクトは成立。現在、すでに受付は終了している

 出典  Funmee!!編集部




■プロフィール

松崎順一さん

家電蒐集家。2003年、足立区でデザインアンダーグラウンドを設立し、国内外でラジカセの救済活動を開始。2016年春に大阪梅田、2016年冬に東京渋谷で「大ラジカセ展」を開催するなど、ラジカセをはじめとした日本の家電のおもしろさを人々に広める活動を続けている。

 

 

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文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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Funmee!!編集部

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