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#19 少女漫画のない人生なんて!!と専門図書館「少女まんが館」を作った夫婦
【ポケットの中の博物館】︎

#19 少女漫画のない人生なんて!!と専門図書館「少女まんが館」を作った夫婦


かつて、「少女漫画など読むに足らない」と蔑まれていた時代が長い間続いた。

 

しかしそんな時代を越えて、古今の少女漫画を集めた私立図書館「少女まんが館」が東京都あきる野市に生まれ、都心から電車で1時間以上かかるにもかかわらず国内外から多くの少女漫画ファンが訪れるという。

 

少女漫画の聖地はいかに創られたのか。館主の中野夫妻を取材した。



社会的な使命感で始めたわけではない


東京都あきる野市。渓流釣りやキャンプなど四季折々の自然を満喫できる秋川渓谷の畔に、2階建ての一軒家が佇んでいる。週末ともなれば人々が訪れるが、その客は釣り人でもキャンパーでもない。漫画を読むために、都心から電車で1時間以上かけて足を運ぶというのである。



イメージしたのはお菓子の家。入館すると少女漫画で埋めつくされた階段とその奥の<br />
本棚が目に飛び込んでくる<br />
 出典  Funmee!!編集部
イメージしたのはお菓子の家。入館すると少女漫画で埋めつくされた階段とその奥の
本棚が目に飛び込んでくる


「少女まんが館」。約6万冊の少女漫画を揃えた私立図書館だ。漫画図書館は少なくないが、少女漫画に特化した図書館は全国でも珍しい。

 

「少女漫画は女性や子どもが読むものだ、と長年思われてきました。その価値を認めない人からすれば少女漫画はゴミ以下。そのため国会図書館以外では少女漫画はほとんど保存されず、捨てられてきました」と館主の大井夏代さんは語る。



1階の書庫には、多くの作品が並ぶ
 出典  Funmee!!編集部
1階の書庫には、多くの作品が並ぶ


池田理代子(『ベルサイユのばら』)、大島弓子(『綿の国星』)、竹宮惠子(『地球へ…』)などの作品は文学だと認めても、それ以外はゴミだと思われているというのだ。

 

「放っておいたら消えてしまう少女漫画を蒐集し、展示するためにここを設立しました」と説明するのは夫で、共同館主の中野純さんだ。



ロフトには座布団と裁縫台などが用意された読書スペースも
 出典  Funmee!!編集部
ロフトには座布団と裁縫台などが用意された読書スペースも


「でも、少女漫画の価値を高めようという大義名分で始めたわけでも、社会的な使命感に燃えているわけでもありません」

 

少女漫画がないと自分たちが困る。少女漫画の蒐集を始めたのは、そんな極めて個人的な理由からだった。



隠れ少女漫画好きの男性にも来て欲しい

アニメにもなった手塚治虫の名作『リボンの騎士』は、「なかよし」、「週刊少女フレンド」に掲載されたが、初めての連載は「少女クラブ」だった。皇太子時代の天皇陛下がニューヨークを訪問されたグラビア記事も
 出典  Funmee!!編集部
アニメにもなった手塚治虫の名作『リボンの騎士』は、「なかよし」、「週刊少女フレンド」に掲載されたが、初めての連載は「少女クラブ」だった。皇太子時代の天皇陛下がニューヨークを訪問されたグラビア記事も


ふたりは共通の趣味だった少女漫画の縁もあり、結婚した。中野さんの姉も少女漫画好きで、3人が集まると少女漫画の話題で盛り上がった。けれど、現物がないのでいつも話は尻切れとんぼ。

 

「少女漫画大事典があればいいのにねえ。まだインターネットが普及していない時代、そんな夢物語を3人で話していました」(大井さん)



1968年5月に創刊した「少女コミック」(小学館)は、人気アイドルが表紙を飾った号も多い。左の1973年6月3日号の表紙は天地真理と郷ひろみ、同年8月5日号はフォーリーブス
 出典  Funmee!!編集部
1968年5月に創刊した「少女コミック」(小学館)は、人気アイドルが表紙を飾った号も多い。左の1973年6月3日号の表紙は天地真理と郷ひろみ、同年8月5日号はフォーリーブス


1995年にパソコン通信で「少女まんが館」というフォーラムを立ち上げ、同好の士を集めた。

 

その2年後、あきる野市に隣接する日の出町にあった古い民家に、リアルな少女まんが館を開設。蔵書は138冊しかなかった。新聞などの取材を受け、寄贈を呼びかけたところすぐに1万冊を超えた。



大島弓子が大好きだという中野夫妻に、大島の代表作を6冊挙げてもらった。昭和22年(1947)生まれの大島は青池保子、萩尾望都、竹宮惠子、山岸凉子たちと「24年組」、あるいは「花の24年組」と呼ばれている
 出典  Funmee!!編集部
大島弓子が大好きだという中野夫妻に、大島の代表作を6冊挙げてもらった。昭和22年(1947)生まれの大島は青池保子、萩尾望都、竹宮惠子、山岸凉子たちと「24年組」、あるいは「花の24年組」と呼ばれている


世田谷区に住んでいた中野夫妻は往復4時間かけて日の出町に通った。仕事の合間にやる道楽ではなかった。4年後ふたりは少女まんが館に住むことに。けれど、せっかく寄贈された少女漫画を自分たちだけで読みふけってもしかたがないので、週に一度一般公開を始めた。

 

その後床が本で抜けたこともあり、現在の土地を2008年に購入。裏に建つ母屋に住み、書庫を新築することにした。設計は友人の建築家に相談。床が抜けないようにコンクリートの土間を採用した。



水色のペンキに赤土を混ぜて塗ったため、昭和の木造校舎のような趣に仕上がった「少女まんが館」
 出典  Funmee!!編集部
水色のペンキに赤土を混ぜて塗ったため、昭和の木造校舎のような趣に仕上がった「少女まんが館」


本が灼けるのを防ぐため窓を小さくしたり、できる限り本を置けるように間仕切りをなくし、棚を作ったり、本棚を置けるように工夫してもらった。

 

水色が好きだった建築家の発案で、木材に水色のペンキを塗った書庫が2009年に竣工した。

 

「アンティークの窓ガラスや建具、照明を使っているせいか、ここで少女漫画を読むと不思議と落ち着きます。少女漫画は暖色系が基調なので、水色が似合うみたい」(大井さん)

 

書庫のあちこちにダンボールが積んである。毎週のように全国から寄贈されてくる少女漫画が入ったダンボールだ。中野さんの本業は文筆業。少女まんが館に住むのはなかなか素敵なライフスタイルではないか。当初仕事の合間に本の整理ができるし、と気軽に考えていた。



1階も含め、本棚の周辺や壁際には、寄贈された少女漫画がダンボールに入ったまま積まれていた
 出典  Funmee!!編集部
1階も含め、本棚の周辺や壁際には、寄贈された少女漫画がダンボールに入ったまま積まれていた


「ところが、少女漫画の整理をする合間に仕事をするようになり、気づくとどっちが本業なのかわからなくなってきました」(中野さん)

 

蔵書の9割が男性からの寄贈によるものだ。ここに寄贈すれば好きなときに読みに来れると思っているのかもしれないが、男性の来館者は少ない。ここは女子寮のような場所で男子禁制と誤解されているかもしれない、と中野さんは憶測する。

 

「当初自分は表に出ないことにしていました。だって男がやっている少女まんが館なんて気持ちが悪いと思われそうじゃないですか。でも、隠れ少女漫画ファンにも来て欲しいので、ある時期から自分も表に出ることにしました」(中野さん)



「週刊マーガレット」(集英社)、「週刊少女フレンド」(講談社)、「少女サンデー」(小学館)の創刊号。「少女サンデー」は「少年サンデー」がデビューした翌1960年秋に創刊。1963年1月に創刊した「週刊少女フレンド」に対抗し、同年5月に「週刊マーガレット」を発行した
 出典  Funmee!!編集部
「週刊マーガレット」(集英社)、「週刊少女フレンド」(講談社)、「少女サンデー」(小学館)の創刊号。「少女サンデー」は「少年サンデー」がデビューした翌1960年秋に創刊。1963年1月に創刊した「週刊少女フレンド」に対抗し、同年5月に「週刊マーガレット」を発行した


近年少女漫画原作のドラマや映画が増えてきた。その背景には少女漫画に対する偏見が薄れてきただけでなく、少女漫画を愛読し、その価値を認識している女性がテレビ局などで決定権を持つようになったからではないか、と中野さんは説く。

 

2年前、姉妹館が三重県多気町にオープンした。東京からIターンした夫婦が始めた「少女まんが館TAKI1735」だ。



戦前、「少女畫報」(東京社、1912年創刊)、「少女の友」(実業之日本社、1908年2月創刊)、「少女倶楽部」(講談社、1923年1月創刊)などの少女雑誌が発行された。それらに掲載された小説などの挿し絵が、戦後創刊された少女漫画の基礎になった
 出典  Funmee!!編集部
戦前、「少女畫報」(東京社、1912年創刊)、「少女の友」(実業之日本社、1908年2月創刊)、「少女倶楽部」(講談社、1923年1月創刊)などの少女雑誌が発行された。それらに掲載された小説などの挿し絵が、戦後創刊された少女漫画の基礎になった


「第三の少女まんが館を台湾や韓国、沖縄に開設できたら嬉しいです。誰か立候補しませんかねえ。協力は惜しみません(笑)」(中野さん)

 

「私の夢は少女まんが館に宿泊施設を増築することです」(大井さん)

 

少女漫画家の先生、この素敵なふたりを主人公にした漫画を描いてくれないだろうか。ドラマ化したらヒット間違いないとにらんでいるのだが。



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少女マンガの神様が、ついに少女マンガを語った!

日本の少女マンガは、世界で唯一つのメディアだ。マンガ界をつねに牽引するハギオモトが少女マンガ史をひもといた、イタリアの大学での講義を完全収録。

創作作法や『ポーの一族』の新作『春の夢』など注目の自作についてもたっぷりと語り下ろす。

少女マンガってなんでこんなに楽しいの? 魅力の秘密を萩尾先生が教えてくれます。


■プロフィール

大井夏代さん、中野 純さん

 

少女まんが館 館主。少女漫画が大好きな夫婦が、「少女漫画がないと自分たちが困る……」という極めて個人的な理由から少女漫画専門図書館「少女まんが館」を設立。4月〜10月毎週土曜日に開館。

 

 

少女まんが館

東京都あきる野市網代155-5

TEL:042-519-9155(開館日のみ)

開館日:4月〜10月の毎週土曜日、13:00〜18:00

入館料:無料

一週間前までにメールで要予約。

jomakan@sarusuberi.co.jp


三重県に少女まんが館の姉妹館「少女まんが館TAKI1735」があり、少女まんが館などから寄贈された約1万冊を所蔵している。また、佐賀県に「唐津ゲストハウス少女まんが館Saga」が誕生予定。

 


===

文:中島茂信(Shigenobu Nakajima)

写真:藤田修平(Shuhei Fujita)

 

 

■注記

本企画はライフスタイル誌「Lightning(ライトニング)」(枻(エイ)出版社)の連載「ポケットの中の博物館」の再掲載になります。



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2017年12月14日
Funmee!!編集部
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